INFINITY WORLDみんなと冬合宿�B
みんなが寝静まった夜。合宿二日目が終了し、残すところ後一日になった三日目の丑三つ時と言われる時間に差し掛かった。
不意にあたしは起きた。と言っても目は開いておらず意識だけ浮上したと言う方が正しい。だが何故か今の自分の周りの状況がはっきり鮮明に見えた。
今あたしは寝ていたはずの女子部屋ではなく、昼間に廊下から見た例の手洗い場の横に布団を敷いて寝ている状態だった。
ん?と思いながらぶるりと寒さに身を震わせた時、肩まで掛けていた布団が腰まで捲れている事に気付く。また、ん?と疑問符を浮かべていると少しずつ自分の体が布団の中に引き込まれているような気がした。
んん!?何じゃこりゃ!?
体を動かそうにも動かない。ぞわりと温いなにかが背を這っているような不快感や気持ち悪さに加え吐き気がする。金縛りだ。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!目を開けろあたし!何かヤバいって!
声は出ないが心の中でそう何度も自分に言い聞かせ、怒鳴りながら起きるように唱える。取りあえず目を開けようぜ自分!
あ、確か足の親指から少しずつ動かせばいいんだっけ?いや、それって疲れからの金縛りだけ?うっ動かにゃいいいいい!!
そう思っている間にも布団の中に引きずり込まれており、胸の下辺りまで布団の中に入ってしまっている。これは、あかんやつや。
負けるな!!頑張れあたし!!
そう強く思った瞬間に体がビクッと跳ね体が動くようになり金縛りが解けた。目を開けガバッと起き上がるとそこは女子部屋のままで、夢だったのかと胸を撫で下ろした。少し上がった息を無意識に整えながらぐるりと部屋を見渡すと、リコぴんにさっちゃん、お多恵ちゃんに荒木さんがスヤスヤ気持ちよさそうに寝ている。
時刻は夜中の2時。ドクドクと緊張や恐怖から心臓の鼓動が酷く大きく鳴っているのを感じながら落ち着かせるように胸を押さえ、吐き気の残る不快感を拭い去るように深呼吸を繰り返した。
何であの手洗い場?またあたしお呼ばれした感じ?
それは困ると急いで近くにあった自分の鞄からお札を出すと枕の下に入れ込む。あの白い手に連れて行かれるなんて真っ平ごめんだ。
「…寝たくない」
ポツリと呟くと寝息の聞こえる部屋に吸い込まれるように消えた。疲れてるから眠たいし眠気はまだまだあるが、あんな思いしたら寝たくなくなる。
でも今起きても誰も起きてないだろうし、静まり返った廊下に出る勇気はない。リコぴんらを起こすのも気が引ける。
渇いた喉を潤すようにペットボトルのお茶を一口飲み、深く息を吐き出しながらもう一度寝転ぶ。怖いって思うから怖いんだよね。よし、怖くない。ぜぇ〜んぜん怖くないもぉ〜ん。
明日ってか今日起きたら朝食作りしなきゃだな。確か朝食作りは洛山が手伝ってくれる事になっていた。赤君来るかなー…って何考えてんだあたし。何で赤君オンリー。コタとか思い出してやれ自分。
そう思っていると直ぐの眠気はやってきてウトウトし出し目を閉じた。あー…このまま寝れる…気持ちー…
そわぁっ
…よくない!気持ち悪い!!
眠りに入る寸前に込み上げてくるような吐き気とぞくっとした悪寒が走り、体を震わせながらハッとした。が、目が開かない。そして体も動かない。また金縛り!どんだけ!
しかし、金縛りに遭っているのにも関わらず眠気が酷い。一度やってきた眠気には逆らえない時のように気を抜くと夢の中に旅立ちそうな感じだ。
そして直感でこのまま寝てはいけないと思った。
寝るなよ〜寝るなよあたし〜さっきは寝るつもりだったけど絶対寝るなよ〜。フリじゃないかんな。
そんな一人でボケとツッコミをして誤魔化しながら寝落ちないように踏ん張る。依然として不快感はあるし何処かに中身(という名の魂的なの)が引っ張られる感覚があるが、それと戦う事約三十分。の感覚。
長い、長いよ金縛り。そんなに疲れてた?ってこれは絶対疲れからのやつじゃない。霊的なのでしょ。やめてよ頼むからさぁ。あたしには何も出来ませんよー。
そう思うもどんどん眠気は増していき闇に落ちそうな感覚。言うなれば崖っ淵に立たされてもう爪先出掛かってて後ろからツンツン突かれる感じ。
もうこれ寝ちゃってもいいんじゃね。特に何も聴こえないし、ずっと金縛り遭ってるだけだし。寝た方が楽になれる気がする。
ソウ 楽ニナレルヨ
うん、だよねー。
……って、ええ!?ききき聴こえたぁぁぁ!!駄目だ寝ちゃ駄目だァァァ!!
そう思うも、既に崖から飛び降りた後のように闇に引き込まれる感覚には逆らえず、意識を手放しそうになった瞬間。
「…ん…、…さ…ん…!…そらさん!!」
「!?う…っ」
耳元で大きな声が聞こえ、大きく揺さぶられたのと同じタイミングでカッと目を開けた。
すると急に視界に飛び込んできた光に目が痛みぎゅっとキツく閉じて目を手で覆う。あ、動いた。
「そらさん!」
「しっかりして下さい!」
聞き慣れた声に自然と安堵した。少しは光に慣れて手を外し薄っすら目を開けると焦った顔をしたさっちゃんとリコぴん、その後ろには険しい顔の荒木さんと心配そうにオロオロしているお多恵ちゃんがいた。
「っ…あれ…?」
「そらさん魘されてました。大丈夫ですか?」
リコぴんの心配そうな声色を聞きゆっくり体を起こすと、さっちゃんが背中を支えて摩ってくれた。
時間を見てみると2時11分。あたしがさっき起きてからまだ十数分しか経っていなかった。三十分は格闘したと思ったんだけど。
「顔色が随分悪いな」
「あの、これ」
荒木さんが顔を歪めながらそう呟き、その隣でさっきあたしが飲んだお茶を差し出してくれるお多恵ちゃん。あたしはお礼を言って受け取るとそれで口内を潤す。
「嫌な夢でも見たんですか?」
「それにしては随分苦しそうに魘されていたが」
さっちゃんと荒木さんの言葉に先程の事を思い出して苦笑していると、視界で影が横切ったのを捉え視線を向けると、少し開いていたカーテンの隙間に目があった。
モウ少シダッタノニ…
ぞわっと鳥肌が立つとスゥ…と闇に溶けるように消えていった。あの声は昼間の声と夢の中の声と同じ。じゃあアレが白い手の犯人。
「あばばばばばばば」
「!?すっごい痙攣!!」
「大丈夫ですか!?」
恐怖にガタガタ揺れるくらい震えているとその異様さにみんなが引いた。ごめん。
魘されていたあたしの唸り声で目が覚めたらしいみんなに謝罪し、寝ても大丈夫と伝えると不明瞭な様子でみんな自分の布団に戻っていった。ふとあたしは寝る前に入れ込んだ札を持ちながら寝ようと取り出すと、綺麗に二枚になっていた。つまり真ん中から破られていたのである。
誰もこんな展開望んでませんけどォォォ!!さあっと青ざめたあたしは慌てて鞄にそれを突っ込み、新しいお札をブラの間に挟んで心臓の位置にくるようにした。肌身離さず付けるとはこの事。なり振り構ってられるか!
まあお札があたしの代わりになってくれたとでも考えればまだマシな気がするけど。この時間にこれはアカンて。冗談じゃ済まされへんで。翔ちゃんの真似。
「山口」
「は、はい?」
「こっちに来い」
あたしの隣に寝ていた荒木さんに呼ばれて顔を上げると、布団を捲りちょいちょいと手招きをされた。え?
「怖いんだろう。誰かと寝れば怖くない」
「あ…あ…あ…っ」
「カオナシ?」
まさかの荒木さんからのお言葉に感激して涙目で震えた。リコぴんの細やかなツッコミを頂戴しつつ心の中で荒木さぁぁぁんと叫びながら素早く隣に移動して布団に入り込んだ。流石に一人分の布団に大人二人では寒いので、掛け布団は自分のも掛けた。
「(私がやろうとしたのに…!先を越された…っ!)」
さっちゃんがギリィと自分のTシャツを噛んでいたのには気付かずに、意外と面倒見がよく優しい荒木さんの側で目を閉じた。今なら怖くない。それに荒木さん強そうだから撃退したり跳ね返したりしてくれそう。
そう思っていると電気が消され、人が近くにいる安心感と温もりを感じて直ぐに寝落ちた。
「そらさん、おはようございます」
「おはよう赤君や…」
「…随分お疲れのようですね。顔色も優れません。大丈夫ですか?」
朝。目覚ましが鳴ったので反射的に直ぐにそれを止め目を覚ますが、金縛りに二回も遭った事や霊の声に無意識のうちに影響されていたのか夢の中でも思い出してあまりいい夢心地を味わえなかった。荒木さんが一緒に寝てくれたので霊障は大丈夫だったが、気分は晴れない。
厨房に行くと洛山のマネと赤君がいて、既に作り始めてくれていた。挨拶をする赤君があたしを見て少し眉を顰め、あたしが乾いた笑みを浮かべて笑うと心配そうに眉を下げた。何してもイケメンなので目の保養になります癒しですありがとうございます。
「無理はしないで下さい。何なら彼らだけに任せて今朝の分は休んでもらっても構いません」
「いや、大丈夫」
「指示だけしてもらえればこちらが動きますから」
「んーん、平気だよ。ありがとう。代わりと言っちゃ何だが赤君も手伝ってくれるかね」
「…勿論。そのつもりです」
そう言って優しく微笑んだ赤君に神よと崇めたくなったがやめた。ふざける元気はないわ。
その後はみんなで手分けして朝食を作り、時間にも間に合って難なく朝食を終えた。
合宿が終わるのが夕方。それまでの辛抱だと思い頑張る事にした。なるべくあの手洗い場の前を通らないようにして、通っても見ないようにしよう。
そう思ってたんだけど。
「いつの間に来ちゃったんだろう…」
気付けば目の前に例の手洗い場があった。次は廊下から見ているわけではなく、夢の中のように手洗い場の横にいるわけでもなく、蛇口側正面に向き合うように立っていた。
此処に来るまでの記憶がない。ボーッとしてたからか、やられた。手にも何も持っていないので、用事で来たわけではないようだ。
ふと廊下へ視線を移すと、ガラスに自分が映っていた。そしてそのあたしの首を絞めるかのように、後ろから回された手。
「っ!?」
捕マエタァ
耳元で地を這うような、それでいて嬉しそうな女性の声が聴こえた。まるで背後から覗き込み耳元で呼吸しているかのように、生温い弱い風が耳を撫でる。
ガラスだけを呆然と見つめていると、段々と視えてきた姿。ショートカットの女性が俯きながらあたしの背後におり、白い手で首を絞めている。
それまで苦しくなかったのに、急激に喉元が絞まる感覚がして苦しくなった。
「う゛っ…ぐ、う…!」
今更ながらその手を掴むが、ビクともしない。苦しい。ぎゅっと両目を瞑ると生理的な涙が出て頬を伝う。クッソ、マジで油断した…!
私達 寂シイノ 一緒ニ来テ 私達ガ視エル素敵ナ人
「か、は…った、ちって…!?」
そう言って目を開けるとガラスに映る自分の姿に愕然とした。沢山の手があたしの体を捕まえるように覆っていたのだ。
って多いわ!!そしてキモい!!
でもそんな事を突っ込んでいられる余裕はなく、ガクッと力が抜け膝を着く。今も首は絞められたままで、あたしの体を覆ういくつもの手の中の一つが胸元へ伸びた瞬間。
ジュワッ
アア゛アアア゛ア
悲痛な叫び声が聴こえ、複数の手が蒸発するように消えた。
!? 何ヲ…!
そうだ。あたしブラに挟んだお札あったんだった。それにお守り。
お札は引っ張り出しても破れる可能性が高いので首を絞める手を掴んでいた片手で胸元のお守りを服の上から握り締めた。
そして服も一緒に捲れ上がるのも気にせず首に回っている手へ持ち上げ近付けると、バチッと電気が弾ける音が響いて同時に真後ろから叫び声も聴こえた。手が離され酸素が足りなくなった体が崩れ落ちる。
「っぐ、う…ゲホゲホゲホッ…ゴホッ!」
蹲りながら大きく咳き込んでいると、酷い悪寒がしたので涙で濡れた顔を上げ振り向くとそこには真っ黒い靄を纏った女性の姿。少し宙に浮いていて俯いた顔は見えない。
あたしはズリズリと重い体を引きずり後退るが手洗い場へ背中がついてこれ以上退がれなくなった。
一緒ニ 来イ
そう言って顔を上げた女性の目は窪んでいて、闇を連想させる程真っ黒だった。
鳥肌が立ち込み上げる吐き気を抑えてあたしは服の中へ手を突っ込むと、服の隙間から入り込む冷気を無視してブラに挟んでいたお札を破れるのも気にせず引っ張り出し、それを自分の前に突き出す。
同時に女性とその背後から伸びる複数の白い手があたしに向かってくると、女性の手があたしの頭を掴み手洗い場へと押し付けた。ゴンッと鈍い音が響くのと同時に、またジュワッと蒸発する音が目の前で聴こえる。
「そらさん!!」
意識が遠のく直前、誰かのあたしを呼ぶ声が聞こえたが確認する間もなく意識を飛ばし、完全に落ちる直前に女性の断末魔が耳を掠めたがそれも目で確認をする事が出来なかった。
読者様よりネタを頂戴したので、捏造加えつつの久しぶりのホラー。
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