INFINITY WORLDみんなで冬合宿�C
【黒子side】
「あれ?そらさんは?」
「さっきまでそこにいたぜ、です」
冬合宿最終日の午前中。外での練習だがみんな寒さに負けない程体が温まっており流れる汗を拭いて水分補給をしていると、伊月先輩の言葉に周りが反応し火神君が指差したカントクと相田さんが話している方に顔を向けるがそらさんはいなかった。
記録を付けていたはずなのに何処に行ったんだろうと思って首を傾げていると、体育館で練習していた桃井さんが駆け寄ってくるのが見えた。
「テツ君!」
「桃井さん。どうしたんですか?」
「そらさんに手伝ってもらいたい事あって呼びに来たんだけど、何処にいるかわかる?」
「丁度いないって話をしてたんです。火神君はそこにさっきまでいたと言うんですが、いつの間にかいなくて」
「記録もほったらかしで何処行ったんだろうな。何も言わないでいないとか珍しい」
「トイレか?」
「デリカシーないぞコガ」
主将と小金井先輩と土田先輩の会話を耳に朝からあまり顔色がよくなかった気がするので体調でも悪いのだろうかと思っていると、いつの間にか桃井さんはカントクの方にいて会話をしていたかと思えば二人が青ざめ始めた。
「どうかしましたか?」
「わ、私探してきますっ!」
「あっ、桃井さん!」
僕自身が言うのも何だが珍しく僕の問いには答えず慌てた様子で走って行く彼女を呆然と見送った。
「カントク、どうしたんだよ?」
「…実はね」
カントクがこちらに近寄ってきたので主将が代表して何があったか聞けばカントクは青ざめたまま少し落ち着きなく話し出す。
そらさんはハッキリとは何も言わなかったようだが、夜中に彼女が魘されているのをカントク達が起こしたようでその後も何かに怯えたり顔色が悪かったりと様子が可笑しかったとの事。
その事がずっと引っ掛かっていたが、練習の妨げになる事を考慮してそらさんが言わなかった意図を汲み取りカントク達も何も言わずに傍にいさせていたはずが、カントクもいなくなったのに気付かず桃井さんに言われて始めて気付いたとの事。
「ごめん。パパと打ち合わせしてたらそっちに気が回らなくて…」
「カントクの所為じゃないですよ!様子が可笑しかったなら何かあるはずなんですから、探しましょう!」
「広いけどみんなで探せば見付かるだろうし!」
「でも大事にはしたくないのよ」
夏合宿でも自分の所為で練習を中断させ大事にした事を気にしていたので、カントクの言う意味はわかる。桃井さん達マネージャーが探しに出ているなら直ぐに見付かるだろう、と思いながらも胸騒ぎが収まらなかった。
「僕も行ってきます」
「ちょ、黒子!?」
返事を聞かずにその場を去れば止める声は聞こえたが後を追ってくる人はいなかった。
確か昨日、外で練習していたはずの海常と陽泉が宿泊施設の方で騒いでいると体育館にも情報が入ってきて監督達が様子を見に行っていた。その中にはそらさんもいて、ちゃんとした理由は不明だがそらさんが騒ぎ始めたから騒ぎが大きくなったという話だった気がする。
もしその時、仮に霊と遭遇していたのなら夜中に魘されていたという話も納得出来る。そう思いながら宿泊施設の中に入ると背後から声を掛けられ振り返れば桃井さんだった。
「テツ君ももしかしてそらさん探してるの?」
「はい。勝手に来ちゃいました」
「ありがとう!あのね、体育館の中にも周りにもいなかったよ!」
「ありがとうございます。ではこの中を探してみましょう」
もしかしたら一足早く厨房に昼食作りに行ったのかもしれない。大分時間は早めだが、その可能性もなくはないと思いながら廊下を小走りで通って行くと視界に影が映り、振り向けば廊下の外にある手洗い場にそらさんがいた。
「あっ!そらさんいた!」
直ぐに見付かった事に二人で安堵したが、こちらを向いているそらさんの表情を見て固まった。
首辺りを押さえるようにしており苦悶の表情を浮かべている。建物の陰になっていてよくは見えないが涙まで流れているようにも見え、それを見て桃井さんと僕の体は何故か動かなかった。
「っ!」
何故あんなに苦しそうなのかと疑問ばかりが脳を占めたが、服の上から何かを掴んだ仕草をした後にガクッと崩れ落ち手洗い場の陰で姿が見えなくなったのを見てハッとし桃井さんの体を押し引き返す。外に出るには入ってきたドアからしか出られない。
何が起こっているかは視えないのでわからないが、今までの経験上霊障だ。直ぐに反応出来なかった事に歯を食いしばりながら外へ出ると、建物を回って手洗い場へと向かう。
日当たりが悪く汚れた手洗い場。土も湿っていてジメジメした所に、確かにそらさんはいた。手洗い場を背もたれに、というより頭を押し付けられているような姿勢でそらさんが前に手を突き出す。
「そらさん!!」
そう呼ぶと同時にジュワッと蒸発するような、何かが焼けるような音がして一瞬僕と桃井さんの目に黒と白い影が映り、それは直ぐに消えた。
そしてそらさんの体はダラリと力をなくして地面に倒れ、駆け寄り抱き起こすとグッタリしていた。傍には皺が付いてぐしゃぐしゃなお札が一枚。
「そらさん!そらさん!!」
「桃井さん、カントク達を呼んできて下さい」
「はっはい!」
泣きそうな顔をして桃井さんが駆けて行くのを見送り、僕はそらさんを横抱きにして抱き上げると振動を与えないように歩き出す。
火神君は重いので持てませんが女性一人くらいなら持ち上げられます。ナメないで下さい。進む速度が遅いのは突っ込まないで下さい。
建物の裏から出ると同時にカントクと相田さんが来て相田さんは僕の腕の中でグッタリとし目を固く閉ざしているそらさんを受け取ると足早にその場を後にし宿泊施設の中に入って行った。
「ありがとう黒子君、桃井さん。後はパパが診てくれるから戻りましょう」
僕達は顔を見合わせた後渋々頷いた。本当はこの場にいる三人も、そらさんがいないと知っているみんなも心配なのは当然だ。
でも最初カントクが言ったようにそらさんの気持ちを汲み取ってなるべく大事にはしない為と自分に言い聞かせ、取りあえず見付かってよかったと胸を撫で下ろした。
事情を知らない人が聞いたら血相変えて押し寄せるのも目に見えていますしね。
【そらside】
「…ん、」
「起きたか」
「…リコぴん、パパ…?」
「おー。大丈夫か?」
意識が浮上し目を開けると近くにリコぴんパパがいて、寝起きで虚ろな目を向けながら問い掛ければとそう質問を投げ掛けられるが状況がわからないままに頷き体を起こした。部屋を見渡すと宿泊施設の中の静養室ぽい所だった。
時間はまだ午前。丁度昼食を作り始める時間だった。
「静養室?」
「ああ。建物の裏で倒れてたらしくてな、黒子と桃井ちゃんが見付けた。頭を軽く打ってるがタンコブ程度だ、大事はねえから安心しろ」
「建物の裏…」
そう呟くと先程の光景を思い出しバッと自分の服の中を襟口から見るとブラに挟んでいたお札の破片が挟まっていた。じゃあアレは夢じゃないって事か。無事に此処にいるって事は撃退出来たのかな。
「何か思い出したか?」
「…うん。またちょっと厄介な事あっただけだから、今はもう大丈夫」
「そらちゃんの大丈夫はアテにならんが、まあ無事だからそういう事にしといてやる」
「ありがとっす」
リコぴんパパには霊感の事をハッキリと伝えた事はないしリコぴんからも聞いていない様子。だが何度かあたしが被害に遭っている場面に出くわしているのであたしの置かれた状況を何となく理解している上で、詳細を深く追求しないでくれてるから助かる。話してもいいけどうっかりあの世界の事口走っちゃうと面倒だし。
今回も何も聞かずに頭をポンポンと撫でてくれるのでその優しさが申し訳なく思いつつも嬉しかった。
「あの…あたしが倒れてたの知ってるのは…?」
「多分誠凛の連中と桃井ちゃんくらいだろう。大事にしたくねえだろ?後でそいつらにだけでいいから謝っとけ」
「はい」
よかった、あんまり話は広がってないみたいだ。リコぴん辺りが配慮してくれたのかな。夏合宿の二の舞になりたくないから無駄な心配掛けたくないし、言ったら言ったで特にきー君とかあっちゃんとか心配してくれて離れなくなっちゃうかもだったから。いや、喜ばしい事なんだがね。
少し違和感がある頭を触ればタンコブが出来ているのがわかるが、触るとそりゃ痛いけど自分でも大丈夫なのはわかった。
自分が動けるなら動いても大丈夫と言われ、無理しない事を約束して手伝っていた誠凛の元へ戻るとリコぴんが逸早く気付いて駆け寄ってきた。
「そらさん!よかった…」
「ごめんね。色々迷惑掛けたみたいで…もう大丈夫だから、ありがとう」
ホッと安堵の息を漏らす彼女を見てちゃんと話をしなかった事を少しだけ後悔した。やっぱり巻き込まないようにってする方がみんなに迷惑掛けている気がする。っていうかそもそもあたしが合宿についてくるのが駄目なんじゃね?
小難しい顔をしながらそう思っているとテッちゃんが近付いてきた。
「テッちゃんとさっちゃんが見付けてくれたんだってね。ありがとう」
「いえ。無事で何よりです」
そう言うとテッちゃんは微笑んであたしのタンコブがある所を優しく撫でた。痛くないけど違和感。
だがテッちゃんはその手を下ろすと少しムスッと拗ねたような顔をして呟いた。
「でも、何かあったら一部の人でいいですから言って下さい。水臭いじゃないですか」
あたしはそれを聞いて目を瞬かせた後苦笑して謝罪する。
「そらさんが大事にしたくない理由はわかっています。でも何も知らない時に後で知った方が寂しいです」
「…すみません」
「…まあ今の状況では他の人に言えば過保護な彼らの事ですから、折角距離置いているのに近付いてきて意味なくなりますし。今回は目を瞑りましょう」
「え」
あたしが唖然としているとテッちゃんは少し意地悪そうな顔をして微笑み練習に戻っていった。流石観察眼に優れているだけあるな…テッちゃんよ。
その後他の誠凛のみんなとさっちゃんにお詫びをしに行き昼食作りの為厨房に向かった。その際に手洗い場を視てみるがそこには何もおらず嫌な感じもしなかったので、何とか撃退は成功したようだと確信した。
「三日間ご苦労だったな」
「「お疲れっしたぁー!!」」
そして合宿が終わった。夏合宿より一日短いからかあっという間に感じた三日間だった。でも少し寂しい合宿になってしまった。いつもはみっちり絡んでいくところを大分セーブして傍観に徹したからな。
フフン。でも得たものもあったのだよ。改めてみんなを見つめ返すと気付ける事も沢山あったからね、悪い所もいい所も。この場にいない人の事も入浴中に考えていたりする。何か乙女だなあたし。
監督達の挨拶を聞きながらニヤニヤしていると頭を叩かれた。
「っ!!?」
「何笑ってんだよ」
「いや…別に…っ」
「?」
丁度タンコブの所だったので痛さに悲鳴を上げそうになったが挨拶中だと思い飲み込んだあたしを誰か褒めて欲しい。
叩いたのは峰さんで頭を押さえキッと涙目で睨みながらも何も言わずに前を向き直すと疑問符を浮かべていた。きっとあれだ。あんま絡めなかったから寂しくてちょっかい掛けてきたに違いない。
そう思ってまたニヤニヤして峰さんを盗み見るとゴミを見るような目で見られた。あんたあたしの事好きなんだよね?そんな相手を見る目じゃねえよ。
挨拶も終わり解散の時。前のようにみんなは公共交通機関で帰るがあたしは相田カーに乗せてもらうので此処でお別れだ。
「そらっち寂しいっスよ〜」
「このまま秋田においでよー」
「それはいい案だね、アツシ」
「いやよくねえよ」
全然絡み足りないっス〜と言いながらクネクネするきー君にキモいと目を向けると何故か顔を赤らめていた。Mかよ。
あっちゃんとたっちゃんの相変わらずなペースにツッコミは欠かさない。
「そらさん。今回はあまり話が出来ませんでしたが…」
「?うん」
「楽しみにしていますから、ね」
赤君はそう言うと意味深な笑みを浮かべた。当然彼はあたしの行動の意図する事を理解しているんだろうけど、あたしがこれからどうするのかわかっているような口振りにちょっと怖くなってドキッとした。え、エスパー…いや、これが予知する能力の天帝の目…!?
「違うと思います。そらさんがわかり易いだけだと思います」
「心の中を読まないで下さい」
あたしの背後に立っていたテッちゃんが無表情に突っ込んでくるのを聞いて両手で顔を覆った。
不意に辺りを見渡せば他からも同じような意味深な視線を向けられていて、あたしってそんなにわかり易い奴だったのって疑問ばかりが浮かんだ。傍観姿勢の大っぴらな態度とは言えみんな察しがいいですね。
何かを期待するような眼差しを受けて緊張するが、いよいよ腹を括らねばなと思い深呼吸をした。
こうして冬合宿は終わり、あたしは次のステップを踏む事になる。
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