INFINITY WORLD
あたしと氷室辰也

【氷室side】

 もう直ぐ志望大学の試験がある。秋田からでは遠いし時間が掛かるという事で前泊しなくちゃなと思っていたが、タイガがいつでも来ていいと言ってくれた事もあり少し早めではあるがオレは東京に来ていた。

 街中では今日はバレンタインデー。恋人やそうではない人達もクリスマスに次いで浮き足立っている時期、オレはタイガの家で今日も今日とて勉強をしていた。

 タイガは部活でいない。空き部屋を借りてそこで寝泊まりし勉強に勤しんでいたが、休憩をしようとキッチンへ向かい珈琲を淹れる。その時、ポケットに入れた電話が鳴った。画面を見るとそらさんの名前。

「そらさん?…はい」

『もしもしたっちゃん?やっはろー』

「やっはろー?どうしたんだい?そらさんから掛けてくれるのは珍しいね」

『(やっはろーとかぎゃんかわ…!!)えへへ、まあね。ごめんね忙しいとは思ってたんだけど』

「構わないよ。何か用事かな?」

 そう聞くと少し申し訳なさそうな声色でタイガにオレがこっちに来ている事を聞いた経緯を簡単に説明された。

『でね。大変な時期はわかってるんだけど、ほんのちょっと、数分だけでいいから今から時間もらえないかな…?』

 そらさんから何かして欲しいと言われる事が少ない為僅かに目を見張りつつ即OKした。折角の彼女からのお願いを断るはずがないし、迷惑だとも思っていないからね。寧ろ嬉しい事だ。

 直ぐに出ると言ってコートを羽織りマンションを出る。近くの公園で待ち合わせたので向かうと、いつもは嵌めているはずの手袋をせずに寒そうに手をすり合わせ息を吐き掛けるそらさんがいた。
 合宿以来顔を合わせていなかったので姿を見るだけで嬉しかった。こちらに来たのは受験の為なので、一度会ってしまうと何度も会いに行ってしまう気がして我慢していた。結局今こうして会ってしまってはいるが。
 オレは自重するように小さく笑うと足早にそらさんに近付く。

「そらさん、お待たせ」

「たっちゃん。ごめんね、もう直ぐ試験でしかも勉強中に」

「丁度息抜きしたかったところだよ。大丈夫」

 そう笑い掛けると苦笑して礼を言われた。そらさんは時間をとらせない為か、早速本題にとばかりにオレの前に紙袋を差し出す。

「これは?」

「…バレンタインのチョコ。たっちゃん受験頑張ってるし、応援の為にお守り付き」

 袋の中を見てみると可愛くラッピングされた箱。そして合格祈願と書かれたお守りが入っている。それを見て自然と笑みが零れる。
 そういえば今年は誰からもチョコをもらっていなかったな。今年はって嫌な言い方をしたけど、毎年もらってはいるから。

「ありがとう。ちなみに、これは本命チョコかな?」

 顔を上げてそうやって揶揄を投げ掛けてみたが、そらさんの表情を見て目を見開く。
 言った途端に真っ赤になったからだ。

「……え、本当に?」

 今まで望んできた事だけど突然の朗報が信じられなくて、オレから言ったにも関わらず恥ずかしくなって緊張して少し声が震えてしまいながら確認をすると、そらさんは視線を忙しなく動かしてからオレを見つめコクリと頷く。
 Wow, a miracle happened.(奇跡が起きた。)

「…ずっと考えてた。みんなあたしの事よくしてくれるし好きだって言ってくれる中で、あたしも恋愛として誰が好きなのかってずっと考えてきた。それで答えが出たから…」

 そらさんは一歩オレに近付き距離を縮めると、ぐっと拳に力を入れて顔を上げ頬を染めながら言い切った。

「たっちゃんが好きです。あたしと、付き合って下さい…!」

 羞恥心に負けないように必死に耐えて、ありきたりな言葉でも一生懸命気持ちを伝えようとしてくれているのがわかる。
 そらさんは一度視線を落とすとオレの返事を聞く前に話を続けた。

「たっちゃんは誰にでも優しいし紳士だし、学校潜入して改めて思ったけどモテモテだし…ああ、それは他の子にも言える事なんだけども。たまに何かエロくて流石アメリカンって思ったり、でも悪戯っ子な時があってかがみんにちょっかい掛けてみたりして年相応なとことかあって。部活も主将として最後まで頑張ってて、カッコイイなって思ってた」

 そらさんの言葉を聞く度に心臓の鼓動が速くなる。ドキドキして頬に熱が集まるのがわかる。
 全く意識されていないとは思っていなかったけど、そこまで見てくれていた事が嬉しくて、無性に抱き締めたくなった。

「たっちゃんはあたしを甘えさせるのが上手なんだよね。これからも…これからはあたしを特別にいっぱい甘やかして欲しいとか、あたしだけを見て欲しいとか、単純にそう思って。あっ束縛とかする気ないよ!けど、他の人とは違う扱い受けたいなって…思いまして…」

 段々と尻すぼみになって自信なさげに声が小さくなっていくそらさん。何でそんなに自信がないんだろう。こんなに素敵な女性なのに。

「あたしなんかがこんな事言うのはあれだけど、でも、たっちゃんが好き。たっちゃんの周りにいる他の可愛い女の子にも負けないくらい!…会った事ないから、多分」

 急に自信満々に言い切ったかと思えばやっぱり自信がなくて、押しが弱くなるそらさんを見て、コロコロ感情が変わる様子がそらさんらしいなと思った。本当に飽きない人だな。
 オレは目の前にいるそらさんに手を伸ばし、顔を隠してしまっている髪の毛をそっと耳に掛けてやる。冷気にさらされてしまうが、表情をちゃんと見たかった。

 顔が赤く恥ずかしいからか少し目が潤んでいて、ああ女の子だなぁとわかりきった事を思う。この人に告白されたんだと充足感が胸を占めて、オレは答えを出す為に口を開いた。

「オレは誰にでも手を握ったり抱き締めたりほっぺにキスしたり、優しくするわけじゃないよ。いつでもオレにとって、そらさんだけが特別だよ」










【そらside】

「オレも、そらさんが好きだよ。だから、オレなんかでよければ付き合って下さい」

 あたしの頬を撫でるたっちゃんを見上げながら、自分から告白したくせにポカンとしてしまった。たっちゃんはそんなあたしを見てクスクスと上品に笑った。何だそのあたしより気品溢れる笑い方は。何だその慈しむような目は。
 何で、そんなに嬉しそうな顔して笑って、赤くなってるの。

 って、あたしOKされた?マジで?

「……え、本当に?」

「オレと同じ事言ってるね。本当だよ」

 手を握られたり頬にキスされたりボディタッチが多かったから期待しつつ、その反面あたしの事をからかってるだけだとか恋愛感情ではないんだと思ってた。
 アメリカ育ちだしボディタッチには慣れてるからわからなかった。他の子みたいに告白されたわけでもなく、「そらさんはオレにとって姉のような妹のような、そんな感じだよ」とか言われると思ってた上で、答えを出さなくちゃと思ってあたしから告白した。そしたら、叶った。

 いいのか、あたしがこんな幸せで。

「…泣かないで」

 そうたっちゃんに言われ涙を掬われて、初めて自分が泣いている事に気付いた。何で泣いてるんだろう。
 少し俯くと涙が口の中に入ってきた。甘い涙。確か嬉しい時は甘くて、悲しい時や辛い時はしょっぱいんだよね、涙って。人間の神秘。
 嬉し涙だった。それと安心したんだ。

「ごめんね」

「謝らなくていいよ」

「う、嬉しくて」

「うん。オレも嬉しい」

 絶対目も鼻も赤い不細工な顔になってるけど顔を上げるとたっちゃんは優しく微笑んでくれていた。

「覚えてるかな」

「な、にを?」

「バスケ教室の時。子ども達に囲まれている中で家族に見えるかなって、オレが言ったの」

 あの時はドキッとした。そんな家族に見えるかなんてあたしなんかが厚かましい!と思ってたけど純粋に嬉しかったあの言葉。
 あたしが頷いて肯定すると、たっちゃんは未だ勝手に流れる涙を拭って続ける。

「あれも本音だよ。見えてたらいいなって思った。だから今こうして恋人同士になったんだから、そらさんとの将来見据えて自惚れていいよね?」

 そんな確認しなくてもいいのにって思いながらも何度も頷いた。自然と頬が緩むのがわかるとたっちゃんは目を細める。

「やっと笑った」

 そっと顎を持ち上げられ綺麗な顔が近付いてくる。ドキドキしたし近過ぎて後退りそうになるがこの先の事を考えグッとこらえあたしが目を閉じると、少し冷えた唇が重なり優しくキスをされた。また涙が流れたけど、変わらず嬉し涙だ。二人の熱が伝わり、冷えた唇は直ぐに熱くなる。

 ちゅ、とリップ音を鳴らして離された後ぎゅうっと抱き締められた。間近で感じる暖かさに縋るように、細身なのに案外広い背中に手を回す。こういう時男の人だって思う。

「いつか幸せな家庭を築けるように、これからの受験も大学も仕事も頑張るよ」

 今喋ると変な声が出そうでコクコクと頷くと頭を撫でられた。凄く心地よくて腕の中で目を閉じる。
 あたしも頑張る。仕事もたっちゃんが言う幸せな家庭を将来的に築けるように。たっちゃんが無理しないように、一緒に頑張ろうって思った。

 少しと言って時間を大分割いてしまったが、たっちゃんは嬉しい事があるとやる気が出てくるって笑った。頑張れたっちゃん。










Tatsuya Himuro END.

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