INFINITY WORLD
あたしと花宮真

【花宮side】

 今日はバレンタインデー。朝からテレビでしつこいくらいに宣伝されていて鬱陶しい。
 オレの学校は男子校だが女子が押し寄せてチョコを渡しに来るっていうのが毎年見る光景だった。オレも幾つかもらうし他校の奴に告白されてきたが、今日はそんな疎ましい行事に巻き込まれなくていい。一月の学年末テストを終えてから三年生は自由登校だからな。

 夕方。大学受験の為の勉強の合間に珈琲でも飲もうと思いリビングに降りていくと、丁度インターホンが鳴った。母親は仕事で出ていて夜中まで帰って来ないので、めんどくせえなと思いながらドアを開けて出る。

「はい」

「んブフッ…や、やほー」

「あ゛?」

 めんどくせえなって感情を顔に出さずに得意の猫被りで出るとそこにいたのはそら。そんなオレを見た瞬間に吹き出して口元を覆うので、オレは青筋を浮かべイラッとした。何早速顔合わせて笑っていやがんだコイツは。

「マコマコ宅に突撃ほうもーん!」

「帰れ」

「ちょっま、っでええええ!!」

「大声出すな!!近所迷惑だろうが!!」

「マコマコも充分煩い」

「殺すぞ」

 サッと閉めようとすると足を挟んでドアを閉めるのを防ぐそらは、膝まで挟んだのか声を上げて痛がった。自分の事を棚に上げて涙目で言うコイツにまたイラッとした。何しに来たんだよコイツ。

「マコマコに渡すものがある」

「あ?」

「これ」

 ふざけた様子ではなく真剣な声色で言うので閉め掛けたドアを開けると、そらは手に持っていた小さめの紙袋を差し出す。何かわからず眉根を寄せながらそらを見遣って目を見張る。耳まで赤かった。

「…何だよ」

「ば、バレンタイン」

「はぁ?」

 何でオレにと不明瞭な顔をしながら受け取ったが、認めたくはないが少し嬉しくなくもない。そらは少しの間俯いて顔を上げると、真剣な顔をして口を開いた。

「好き」

「は」

「マコマコ好き」

 耳を疑った。だがそらが嘘を吐いているような顔をしておらず、茹でタコみてえに真っ赤にしてプルプルと羞恥で震えている。
 少し呆然と見つめていたが、玄関先でのやり取りという事を思い出して近所の誰かに見られないよう、咄嗟にそらの手を引いて中に引きずり込んだ。

「うおお!?」

 女らしくない声を上げて中に雪崩れ込むように入った鈍臭いそらを支えドアを閉めた。夕方のこの時間は薄暗く玄関の電気を点けていないので外より暗く感じた。

「…お前何言ってるかわかってんのか?」

「え、うん」

「…赤司とか、紫原は」

「……だから、考えた結果。マコマコが好きなんだってば」

 薄暗くてもわかる程に赤面したそらを見下ろす。オレが口を開く前にそらが話し出す。

「マコマコはゲスいし酷い事しか言わないし常に見下してくる最低なゲス野郎だけど」

「喧嘩売りに来たのかてめえ」

「好きって言いに来た!!」

 真っ直ぐオレを見上げるそらに口噤む。別に怯んだんじゃねえ、ゴリラみたいな勢いに負けただけだ。

「でも、優しい所もなくはないし何だかんだあたしの事世話焼いてくれるし」

「お前鈍臭いからな」

「そうやって余計な一言が多いし、別にマコマコに見下されたり虐められたいMなわけではないけども。ないけども!大事な事なので二回言いました」

「さっさと言え」

「いてっ」

 勿体振るというよりどうでもいい話を混ぜるから話が長くなるそらの頭を軽く叩いた。頭を摩りながらも顔を上げたそらは、自分の手を握り締めて一呼吸置いた。

「マコマコの傍は落ち着く」

 そう言うとオレの服の裾を掴んだ。皺になんだろうが。

「円堂の事で色々あった時に探し回ってくれたし、その後もあたしが不安なの汲み取って抱き締めてくれたし、何だかんだマコマコに支えられてるなって思って。あたし馬鹿だから、そーゆーマコマコみたいなぶっきら棒な優しさとか配慮とか必要なんだよ。居心地がいいから…一緒にいたい」

 そこまで言い切るとそらは手を離して俯いた。髪の間から見える耳は相変わらず真っ赤で、ガラにもねえ事色々言って羞恥心に負けてやがる。
 オレが深く息を吐き出すとそらの肩が少し上がる。何不安に思ってんだよ。バァカ。

 ガラにもねえのはオレもそうだ。心臓が煩く気温が低くて寒いのに体は熱い。好きと言われて安心して嬉しく思っている自分に反吐が出る。自分が気持ち悪い。

 オレはドアに背を向けているそらの体をドアと挟むように覆い、左腕をドアについて顎に手を添え俯く顔を上げさせる。若干潤んだ目と目が合い吹き出した。

「ふはっ、ブッサイク」

「失礼過ぎる」

「でもまあ、お前がどうしてもって言うんならいいぜ」

 そらはそれを聞いて目を丸くさせた後少しムスッと拗ねたような顔をした。

「…マコマコも好きなくせに」

「あ?」

「あたしの事。素直に好きって言いなよ」

「なに言ってんだテメェ」

「康ちゃんが教えてくれたよ」

 康ちゃんの名前を出すとピクッと口元が引き攣った。

「直接教えてくれたわけじゃないけど、気付かせてくれたのは康ちゃんだよ」

 こないだの初詣の時の事言ってんのか。確かにあの時何か会話してオレの方をコイツが見ていたが、恐らくその時だな。
 古橋の奴余計な事言いやがって。チッと舌打ちするとそらは笑った。

「あたしはマコマコが好き。これからは一番近くにいて欲しい。…返事を聞かせて下さい」

 畏まって改めて告白するそらに、何故かしてやられた感じがして癪に思い、自分でもわかるくらいに口をへの字に曲げた後煩い口を塞いだ。
 今まで何度も触れたいと思った柔らかい感触にぞくりとし、何か言いたげなそらに喋らせねえよう深く口付けた。

 舌で口内を掻き乱し簡単に呼吸が荒くなったそらに口角を上げてほくそ笑むと解放してやる。真っ赤な顔で酸素を吸い込むそらの顔を上げさせたまま額同士を引っ付けた。

「オレが嫌になって別れるとか言い出しても聞かねえからな」

 余裕がないのが自分でもわかる。いつもより低い声が出たが気にせずもう一度唇を塞いで今まで溜め込んできた想いをぶつけるように唇を重ねた。

「…好きだ」

「ふ、へ」

「なっさけねえ声出すんじゃねえよ。好きだっつってんだよバァカ」

 一回で聞き取れと言い女にしては身長が高めだがオレからすれば充分に低いそらの頭を抱き寄せた。胸元でくぐもった声で唸ったが、じわりと生温かいものが服を濡らすのを感じ泣いてる事に気付く。何泣いてんだこの馬鹿は。

 こんなに距離が近く抱き締めたのは前以来だったが、これからは堂々とオレのモンだと自慢しても誰にも文句言われねえ事を思えば自然と口元が緩んだ。

「そら」

「な、に」

「…来い」

 返事を聞く前にヒョイと持ち上げるとオレの部屋に連れ込んだ。階段を登っている最中に高い怖い焼かれて食われると言って騒がしいコイツにまたイラッときながらも、ベッドに投げ下ろすとボフンと跳ねて転がった。鈍臭えな。

「荒いわ!」

「うっせえよ」

 ギシッと音を立ててそらに覆い被さるとそらは目に見えて慌てて、さっきの恐怖で治まった赤みがまた増した。…チッ。ちょっとでも可愛いとか思ったオレ死ね。

「オレは充分我慢した」

「は?」

「我慢してやったんだ。折角晴れて恋人同士になったんだ、これからは何したっていいわけだ」

「何それ。あたしの事めっちゃ好きじゃん」

「悪いか」

 本人はからかったつもりのようだが素直に認めてやると瞠目して狼狽する。阿呆だ。

「いや、あの、マコマコさん?」

「何だよ」

「受験勉強…しなくていいの?」

 机の上の教材を見て逃げ道をと話をすり替えようとするがその頑張りを無視してそらの服に手を掛ける。

「ふはっ!オレを誰だと思ってやがんだ。一応毎日してはいるが受からねえはずねえだろ、このオレが」

「すっごい自信…」

 遠い目をしている隙にパーカーのチャックを下ろすとそらがその手を掴み、冷や汗を滲ませながらオレがさっき机の上に置いたコイツにもらった紙袋(チョコ)を指差す。

「あっ!ちょちょちょチョコ!!マコマコビターチョコ好きでしょ!?カカオ100%のチョコ使ってガトーショコラ焼いたから早速食べてみて!!」

 必死にこの状況を打開しようとするそらに吹き出して笑った。嫌なわけではないんだろうが、大方心の準備がとか言うんだろうな。
 気にせずオレの手を掴むそらの手にキスを落とすと漸く煩い口は閉じられ動きが止まった。

「オレが今から食うのはお前。あれはお前が帰ってからいつでも食える」

 ボンッと音を立てて真っ赤になったそらにクツクツと喉を鳴らして笑うと、顔の横に手を着いて近付く。

「本当に嫌ならやめる」

「……嫌じゃ、ない。けどっ」

「嫌じゃないならいい。恥ずかしいとかは聞かねえ。いい年こいて乙女ぶんな」

「全国の成人女性に謝れ!!」

「ふはっお前限定だバァカ!…腹括れよ」

 まだ何か言いたげな顔で口を開こうとするそらの口をまた塞いでやった。










【そらside】

 告白には成功したはずなのに何でこんなに辛いんだろう。ああ。暴言が遠慮なく上から降ってくるからだ。クソ。

 あたしが告白すると目に見えて顔が赤くなっていた。本人が隠す素振りないって事は気付いてないのかな?何か新鮮だ。

 その場の流れで部屋にお持ち帰りされてしまったが恐怖や不快感はなく、手出すの早いなーとか思いながらも熱っぽい目を見てしまうと拒否する気すら起きなくて、本気で嫌なら抵抗出来る力加減で触れてくるもんだから身を委ねてしまった。
 少しだけ手が震えているからマコマコも緊張している事が伝わって、好きだなぁとか可愛いなぁとか思って自然と頬が緩む。

 オレが嫌になって云々〜言ってたけど、こんな性格の人だって知ってて好きになっちゃったんだから今更嫌になる事ないと思う。
 寧ろあたしが飽きられる側かもしれないから、嫌われないように日々進化しようとかちょっとは女磨こうかななんて思いながら目の前のサラサラな黒髪に手を伸ばした。
 結局そんな事しても鼻で笑われて「意味ねえ事すんな」とか「無駄な努力だ」とか言われてありのままのあたしが好きだとか思ってくれてたらいいな。










Makoto Hanamiya END.

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