無事に終わりました

【赤司side】

 誰からにしようかと人差し指をこちらに向けながら見繕う男。食べるとはどういう意味でだろうか…どんな理由でも考えたくもないが。
 さて、武器もないこの状況をどう打破しようか警戒を解く事なく三人で考えあぐねていると、急に締め切られていたドアが開いた。

「お邪魔するよ」

 爽やかな笑みを浮かべて入ってきたのは陽泉の氷室さん。突然の来客にこの場にいる全員が目を見開いた。
 そして開け切られたドアからもう数人の姿が見られた。黒子と青峰、海常の笠松さん。そして見覚えのある少女。
 確か彼女は春添碧。氷室さんを見てポカンとしていた。

「おい!作戦練ってから入るだろうが普通!!」

「だって早くしないと食べられちゃうかもしれませんし」

 唖然状態から逸早く覚醒した笠松さんが怒りの声を上げた。話している二人を一瞥した後もう一度春添さんに目を向けると部屋の状況を見極めようと気を取り直しこちらに視線を向けていた。

 男は氷室さんを見ると途端にまた目を輝かせて、頬を染めた。

「いい男!また新しい子が来たわ!あら、そっちの子もそっちの子も…あなたも!」

 黒子達三人を見て益々テンションが上がる男。しかし春添さんを見た瞬間に動きを止めて固まり、険しい顔になった。

「…あらぁ?あなた、女じゃない」

「あ、一応」

「女は嫌いよ。お呼びでないわ、帰りなさい。今からこの子達とハーレムしながら乱交パーティーを楽しむんだから!!」

 一気に冷めた目になって罵倒する男に対し、春添さんは発言の内容を聞いてドン引きしていた。オレ達も以下同文。

「悪いけど、君と遊ぶ為に来たんじゃないよ」

「んもう!そんな冷たい事言わないでよぉ、いけずぅ!そんなところも好きっ!!」

 笑顔だがはっきり断る氷室さんの言葉に堪らず体をくねらせながら抱き着こうとした男。しかしその瞬間、男の顔面に氷室さんの蹴りが入っており蹴り飛ばされ壁に打ち付けられた。

「正直に言わせてもらうけど、気味が悪いというよりただただ怖いよ」

 氷室さんも笑顔ではあるがドン引きしていた。

「もう怒ったわ!!何もかもあんたの所為よ女ァ!!あんたがいなけりゃ苛立つ事もなかったわ!!でもその前に、この子は躾けなくっちゃねぇ!!」

 壁にめり込んでいたが直ぐに起き上がった男は、目を吊り上げ目に見えて怒りを露わにして巨大化する。完全にとばっちりを受けている春添さんに男が凄い剣幕で捲し立てた後、氷室さんに向き直り牙を覗かせ口を開く。
 その覇気に思わず少し後退し、全員が攻撃が来る事に備えた。

「えい」

 軽い掛け声と共に物凄い勢いで何かが飛んできて男の口の中に突っ込まれる。刺股だった。
 見ると春添さんが刺股のU字金具部分を持ち柄を男の口に勢いよく突っ込んでいて、喉の奥に刺さる刺股に目を白黒させながら嗚咽をする男。勢いを殺さぬまま男を後ろに押し倒し、仰向けに倒れた男の胸板に春添さんが立ちグッと刺股を押し込む。

 メキメキと骨が砕ける音、苦しそうな男のくぐもった声、口から溢れ出る血。それを間近で見て聞きながら、春添さんは顔を下にいる男に向ける。こちらからは髪で顔が隠れていて見えない。

「性的暴行しようとするのって、男女関係なく最低です」

 男は絶命を許されない、だが容赦のない攻撃を受けてフーッと鼻息を荒くしながら血走った目を目の前にいる彼女に向ける。
 青筋を浮かべながら睨み上げてくる男に対し、春添さんは顔を上げ見下した。

「気色悪い」

「ッ!!調子乗ってんじゃあ゛ああ゛!!ないわ゛よ!!」

 起き上がろうとする男に反応して、春添さんは差し込んだ刺股を抜いた。その拍子に攻撃に転じてきた男の拳を、体の上から退く事で避け刺股を下段で構える。

「うお゛あああ゛ぁあ゛あああ!!」

「“虎口剣”」

 口を開き血と涎を滴らせながら大きな体で覆い被さるように襲ってくる男を見据え、ポツリと春添さんが呟く。
 そして彼女が押し潰されると思ったその時、ドッと音がして空間に振動が伝わる程の衝撃が走り、男は動きを止めた後白目を剥いてふらりと前に倒れ込んだ。

 春添さんはそれを横にズレて避け、刺股を軽く振って構えを解く。
 覆い被さる男を金具部分で突き上げ、失神させたらしい。空気を振動させる程の鈍い音がしていたので相当の衝撃を受けたと思われる。そして春添さんは気絶している男の頭に刺股の柄を突き刺し、男は塵となって静かに消えていった。

 流れるような躊躇いのない動きにただただ目を奪われる。

「無事に終わりました」

「あ、ああ…よくやった…」

 平然とした表情で笠松さん達の方を向いて報告する春添さんに対し、一連の出来事を呆然と見ていた彼が返事を返す。そこでハッとしたように黒子が入ってきて、駆け寄ってきた。

「三人共、大丈夫ですか?お怪我は?」

「ああ、問題ない」

 宮地さんと降旗は未だ呆然としたまま春添さんを見ているので、オレが代わりに答える。その答えを聞いて安堵の息を漏らした。

「赤司お前…本物か?」

「どういう意味だ」

 青峰も入ってきて、オレに近付いてきたかと思えば第一声がそれだった。思わず目を見張った後、偽物かと疑われている事を理解して無意識に些か怪訝な顔をしてしまったようだ。
 青峰が聞き返したオレに冷や汗を滲ませて弁解する。

「いや、此処に来る前にお前に化けた奴と会ってるからよ。確認だ確認」

「へえ。それは詳しく聞かせてもらいたいな」

 黒子までも冷や汗を滲ませている。会って早々そう言われたから少しムッとしただけだ。不機嫌な訳ではないからそんなに怖がらなくても。

「…お前、誰だ?」

 やっと状況が飲み込めたであろう宮地さんが春添さんに問い掛けた。春添さんは刺股の柄を床に着けて持ちながらストレッチをするように首を回していたが、問い掛けを受けて向き直る。

「初めまして、春添碧です」

「春添さんは元帝光で僕達と同学年です。今は…何処の高校ですか?」

「富師ふし高校です」

「富師高っつったら…剣道部が強豪のとこか」

「よくご存知ですね」

 黒子が補足をする。高校名を聞いて、やはり彼女はそこに進学したのかと納得した。宮地さんも知っていたようだ。

「秀徳から結構近いしな。そうか…だからあの構えか」

 納得したように呟く宮地さん。そしてハッとした顔をすると突然彼女を指差した。

「春添碧っつったらお前…!東京を代表する剣術の使い手とかいう、四神の青龍じゃねーか!」

「やめて下さい本当それ」

 しかも結構詳しい。呼び名が恥ずかしいのか、片手で顔を覆った春添さんの頬は少し赤らんでいた。

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