ワタシのイチオシ!

【赤司side】

「おい、赤司起きろ」

 揺さぶられる感覚で重たい瞼を持ち上げる。ボヤける視界に入ったのは二つの顔。焦点を合わせると秀徳の宮地さんと誠凛の降旗だった。

「…此処は、」

「わからねえ。オレ達もさっき起きたばっかだ」

 固い床に長く寝転がっていたのか少し痛む体を起こし辺りを見渡せば、そこは見覚えのない廃れた部屋だった。口を突いて出た疑問の呟きに対して宮地さんから返事が返ってくると、宮地さんが先に起きて降旗、オレと起こしたらしい。

「な、何なんですかね、此処…廃墟の一室みたいな…(っていうか何でこの面子なんだろう…オレ死ぬのかな…)」

 降旗が緊張した声色で怖々聞いてくる。WCでもう一人のオレと対峙して恐怖心があるのは知っているが、オレに戻ってからも変わらぬ反応や様子に思わず苦笑が溢れた。取って食いはしないのに。

「若干薬の匂いしねえか?ベッドが4台…病院の相部屋みてえだな」

 確かに目を覚ましてからずっと香っている薬品の匂いはオレも感じていた。宮地さんの言葉を聞いて納得する。

「誘拐か?」

「どうでしょうか。…二人共此処に来る前の記憶は?」

「オレは家で受験勉強してた、と思う」

「お、オレは部活帰りでみんなと別れて一人で家に帰ってる途中だった、ような…」

 二人共曖昧な口調だが、いつのタイミングで此処に来たかがあやふやなんだろう。オレもそうだ。部活後に監督と話をして帰る途中だった気がする。
 オレも此処に来るまでの記憶を伝えると、「みんなバラバラか…」と宮地さんが呟いた。

 その時、部屋にあるスピーカーから放送が流れてきた。その内容を聞いて、何かに連れ込まれた事を理解した。オレ達に以外にも人がいるかもしれない。

「ど、どうしましょうか?」

「この部屋を調べてから他の部屋を調べてみようか」

 降旗が青ざめながら必死に状況を飲み込もうとしているのを見て、少しでも安堵出来るよう口調や声色に気を付けて声を掛ける。少しだけ肩の力を抜いた彼は頷き、オレは視線を宮地さんに移すと頷き返された。

「じゃあオレはこの一角調べるわ」

「オレは…こっちで」

「お願いします」

 宮地さんがドア付近の小さな棚が不規則に並ぶ辺りを、降旗がベッド周辺を、オレは磨りガラスのようにボヤけて外が窺い難い窓周辺を調べる事になった。
 ちなみにその窓は開かず、叩いてみるが割れない固さだった。

「おい、此処に鏡があんぞ」

 暫く調べていると、宮地さんが棚を退けた際に鏡を見付けたようでしゃがみながら声を掛けてきた。二人で近寄ると、足元に近い壁に掛けられた汚れた鏡。棚で隠されていたとなると余計に怪しい。

「何かヒントが隠されてたり…?」

「あり得るな」

 降旗がそう呟く。オレが肯定した後、片膝を着いて宮地さんに並び鏡を覗き込んだ。

 そんなに見ないでよォ〜

 不意にぬっと鏡一面を覆うように男の顔が中から現れた。ニヤァと鋭い牙を剥いて怪しく笑った男の表情と声に鳥肌が立つ。

「うっわああああぁぁぁ!!?」

「っ、!」

「ぐえええっ!!」

 オレと宮地さんが喫驚しながら跳び退こうとしたが後ろに立っていた降旗が恐怖に叫び、逸早くオレ達二人の襟元を後ろから鷲掴みにして勢いよく後ずさり、オレ達も背後へと引きずられた。
 突然の苦しさに息が詰まるが、鏡の方を見やれば男が鏡から這いずり出していて、オレ達がしゃがみ込んでいた所まで上半身を出している。

 宮地さんは蛙が潰れた以上の声を出しており、男から距離を取った所で降旗が手を離した。首の絞まる苦しさからと間一髪男から逃れられて一息吐く。
 宮地さんは苦しそうに咳き込み、降旗を軽く睨んだ。

「お、まえなぁ!」

「すっすいませんんんんん!!つい!!焦って!!悪気はないんです殺さないで下さい!!」

 ズシャアと音を立てて土下座をする降旗を見て宮地さんは目を見張ったが、結果助けてもらった事になるので強くは言えず軽く舌打ちをして首を摩りながら立ち上がった。

「馬鹿か、殺さねえよ。結果避けられたがあのやり方は首が絞まって苦しいからやめろってだけだ」

「はい!勿論次は気を付けます!」

「降旗、ありがとう。助かったよ」

 次は立ち上がって敬礼する彼。オレも軽く咳払いをした後に礼を言うと、一度目を丸くしたがコクコクと数回頷いて少し照れたように頭を掻いた。

 そして鏡から出てきたであろう男の方を見ると、既に全身が出終えたようでゆっくり立ち上がった。

「も〜避けちゃうなんて酷いじゃなぁい?顔打ちそうになっちゃったじゃない」

 野太い声で女性のような口調で話す男。牙は鋭く、口紅を塗っているかのように真っ赤なぼてっとした唇。ピンクの薄い生地で作られたミニドレスで筋肉質な体を覆う、視覚的に攻撃的で精神に悪影響を及ぼす格好だ。
 俗に言うオカマ、ニューハーフなどというものだろうか。オレの知っているそれらの限度を超えるインパクトの持ち主なので、比べられる彼ら(彼女ら)が可哀想ではあるが。

 男は薄暗い部屋を見渡し胸板部分の服から何かを取り出すとそれに明かりを灯した。それは大きめの蝋燭だったようで、部屋が暖かい光で灯される。
 そこではっきり見えるオレ達の顔をじっと見つめると、男は一瞬にして目を輝かせて頬を染めた。

「あら!イケメンばっかりじゃなぁい!?ラッキー!」

 蝋燭を棚の上に置いて「イエイ!」と一人ハイテンションで手を叩く男。視覚的な攻撃を受けた上、そんな意味深長な言葉を言われたらこちらとしてはたまったものではないし、どうしたらいいかわからない。

「…お前が放送で言っていたボス、という奴か?」

「ん?いいえ、違うわよ。この階のボスは素敵な殿方よ!ワタシのイチオシ!」

 質問したらウインク付きで答えられた。失礼な話だが吐き気を催した。いや、恐らくこの男は怪異なのだろうし、失礼も何もないのかもしれない。

「でもあなた達も素敵ねぇ。食べてみたいわぁ…」

 オレ達に向いていた視線が顔から徐々に下に降りていく。ねっとりと舐め回すような視線に悪寒は止まらずオレでさえ少し引く。というか結構引いている。
 三人で色んな意味で青ざめていると、男は自分の唇を指でなぞりながら舌舐めずりをした。

「そうねぇ、よし!決めたわ!」

 男は名案とばかりに嬉々としながら両手を叩き笑みを浮かべた。

「今すぐ食べてあげるわねんっ」

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