二回も言われました

【宮地side】

「キモ…うっぷ」

「吐かないで下さいよ」

 あまりの気持ち悪さに青峰が嗚咽する様子を見て黒子が淡白にそう言った。そういう本人も顔色は悪い。

 オレは春添が何もない前方に話し掛ける様子を間近で見たり突然風が吹く様子を目の当たりにしたりする事で、先程話していた霊感があるだの目の前に幽霊がいるだのって話を信じ切れていなかったがこの状況では信じざるを得ないと感じた。
 急にキレてクソババアっつったのには吃驚したしキレたら大分口が悪くなる意外性を感じたが、一瞬でさっきいた所から移動して飛んできた何かを弾き返した時は、俊敏な動きや良過ぎる動体視力に呆気に取られた。

 奥から来た奴に警戒しながら刺股を構える春添と怪物を呆然と見ていると、隣の赤司が苦笑しながら呟いた。

「このままではオレ達がいる意味がなくなってしまいますね」

 全くだよ。オレ達出番なくてちょっとトホホだよ殺すぞ。って何がトホホだよオレ死ね。
 変な世界に巻き込まれて思考回路がおかしくなったに違いねえ。

「赤司君、宮地さん」

「あ?」

「何だい?」

 不意に現れた肉塊の怪物から遠ざかるように元の位置まで後ずさってきた春添が背中を向けながら声を掛けてくる。
 それに反応すると春添は振り返った。

「ドタキャンってありですか」

「えっ今!?」

 青ざめながら冷や汗を滲ませ、涙目で引き攣った笑みを浮かべる春添に瞠目する。
 いやお前さっき勇敢にもあの投げられたっぽい鎌弾き返したろ!無理に戦えとは言わねえが今それはねえよ!
 オレだって嫌だわ!!

「段々近付いてくるアイツが鮮明に見えるようになって凄く気持ち悪いなあって…」

「馬鹿か!んなもんオレらも同じだ馬鹿か!」

「二回も言われました」

「さっきまでの威勢はどうした!?」

「おっぷ…」

「オイこっち向いて吐くなよ!?」

 ビチャビチャと血が落ちる音が廊下に響く。本当に顔色が悪いところを見るとふざけているわけではないようだが、こっちを見て口元に手を当て嗚咽する春添から一歩後ずさった。条件反射だ。

「何か刺股じゃ勝てない気がしてきて」

「…それもそうだろうね。さっきので少し柄の部分にヒビが入ってる」

 赤司が春添の持つ刺股を見てそう言った。
 いや、あの衝撃を受けてステンレスで出来た刺股がヒビだけで済んだって事自体が吃驚だから。

 全く、情けないね。本当に先程までの挑発する余裕や威勢は何処に行った?

「だって脂ギッシュ…」

 フン。やはり人の子は脆い。口先だけであったかおぼろろろろろ!!

「「いやいや…」」

 急に脂ギッシュだと呟いた春添。かと思えば赤司と一緒に同じ方向(恐らく幽霊がいる所)を見ながら明らかに引いている二人。何だ何だ。何やってんだ何話してんだオレも混ぜろ。

「幽霊…妖が嘔吐しました」

「…幽霊でも吐くんだな…」

 幽霊も吐くという初めて知った事実。春添に駄目出ししつつ自分がダウンしたとかいうオチだろどうせ。

「オイお前ら話ばっかしてんじゃねえ!!来るぞ!!」

「「「!」」」

 春添の雰囲気に飲まれて怪物の存在を忘れ掛けていたところに笠松の声が聞こえた。ハッとして視線を怪物に向ければ随分近くまで来ていて、こちらを見てケタケタと笑っていた。

 人間、人間。喰ウ?

 イぃと思ウ。

 体にシタァい。

 不気味な声を廊下に響かせ、集まった体達が各々喋り、こちらに向かって鎌を持っていない細長い腕を伸ばしてきた。
 それを避け、固まっていた三人が少し離れる。

「ナースステーションも確実に安全とは言えねえからな!警戒は怠んじゃねえぞ!」

「ああ!わかってるよ!」

 オレがそう言うと笠松が応答するが、不意に怪物の目がナースステーションへ向けられた。
 そっちの方が人数は多い。怪物はニタリと笑うと二つの手を伸ばした。
 笠松達の顔色が変わる。

「!」

 それを見て春添が刺股で片手を叩き落とし防ぐが、もう片手はナースステーションのカウンターから中へ侵入しようとした。

 バチンッ!!

 しかしその手は透明な膜のような物に阻まれ、強い電気を走らせながら弾き返される。

「やはりか」

 赤司はそう呟くと、ナースステーションで見付けたらしい箒の柄でその片手も叩き落とした。

 人間、生意気。

「この階だけかもしれないけどナースステーションは安全なんですね。ゲームでありきたりだけどよかった」

 怪物が悔しそうな声を出し少し後退する。春添はその様子を見て口角を上げた。コイツもゲームとかすんのな。

「妖も入れないの?」

 残念ながらな。

 春添が誰かに質問する。一瞬突然何だと思ったが、恐らく幽霊に問い掛けたんだろう。視えねえ奴と話す様子は中々慣れねえな。

「何だって?」

「入れないそうです」

 聴こえねえオレがそう尋ねると春添が答え、下がった怪物に対峙しながらヒビが入っている刺股を構えた。

 殺シてヤる。

 すると怪物はグワッと全部の顔を強張らせ威嚇しながら物凄い勢いで走ってきた。
 周りにはビシャビシャと血が飛び散り、肉片が落ち、引っ付き切れていない体が床を擦る。

「下がって!」

 グロいその様子を見て春添は青ざめながらも目を逸らさず、離れた位置にいるオレ達にそう言った。

 言われた通り下がると、春添は腰を落とし刺股を居合の構えで構えた。

「“電光剣”」

 目前にまで迫った怪物に春添は目で追えない速さで素早く斬り掛かった。そして怪物はまともにそれを食らった。
 しかしその瞬間、怪物はまたもニタリと怪しく笑う。

 掛かッたァ!

 怪物の喜ぶ声が廊下に響いた。怪物はそのまま縦に斬られ両断されたが、全て崩れる事なく再び結合しようとする。
 怪物の肉塊の間に挟まれた春添を巻き込んで。

「「春添!!」」

 オレと赤司の声が重なった。

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