お借りします
【降旗side】
「「春添!!」」
宮地さんと赤司の焦った声がこちらまで届く。オレには春添さんが肉片に挟まれ飲み込まれるように消えていく姿を、まるでスローモーションのようにゆっくり見えていた。
あのまま挟まれでもしたらあの肉塊と合体してしまうのか、死んでしまうのかなど頭を占めるが、叫ぶ事も声を出す事すらも出来ずオレは呆然とその光景を見るしか出来なかった。
目を見開いた春添さんの姿が肉片の陰で見えなくなる。
しかしその瞬間、その場を裂くような大きな音が廊下に響いた。
ドガガガガガッ!!
吃驚して体が飛び上がった。目の前でチカチカと弾く光が見え、同時に肉片がバラバラになり崩れる。そして肉片の間に挟まれ掛けていた春添さんが頭を押さえ、青ざめ縮こまりながらそこに立っていた。怪我もなく無事だったので安堵の息が震えながら漏れた。
音と衝撃からして、銃みたいだ。心臓がバクバクと激しく音を立てていて、自分の耳にまで届く程鼓動が煩い。吃驚したのはオレだけじゃなくて、みんな一様に目を見開いていた。
「危なかったなァ」
火薬の香りや煙が漂ってくる。音は止み、バラバラになった肉塊はピクピクと痙攣しながらまだ蠢いている。
そんな中廊下に響いた声は、独特な口調の第三者の声だった。
「! お前…!」
廊下の奥から現れたであろう声の主に気付いたらしい宮地さんが吃驚しながら声を上げる。赤司も少し目を丸くしていて、春添さんは状況が読めないようで疑問符を浮かべている。
そしてこちらに向かってくる複数の足音も聞こえ、ナースステーションの陰になっていた所からその姿は見えた。
その姿にオレ達も目を見張った。
「今吉…!?」
「おーおー揃っとんなあ。これで探す手間が省けたわ」
「また増えたか」
「まあ見付かってよかったやんか。なぁ高尾クンや」
「そっすね〜今吉サン」
笠松さんの声に反応した今吉さんは、相変わらず何を考えているかわからない笑みを浮かべながらこちらに手を振った。目の前の出来事の所為で顔色が悪かった青峰の顔色は、彼の登場によって違う意味で変わった。
そして無表情で死んだ魚のような目の確か…古橋、さんと、相変わらずの軽い調子の高尾。三人共が各自手にしているのは重そうに黒く鈍く光る銃。銃に詳しくないけど、今吉さんが持っているのはライフル的な…結構大きな銃だ。
何で此処になんて疑問は誰もが持っていたが、徐々に集まり形を戻していく怪物に気付きその話題には変わらなかった。っていうか、コイツ再生すんの!?
春添さんはオレ達が知り合いであるのを感じ取り、怪物から少し離れながら今吉さん達を見ている。今思ったけど怪物に巻き込まれそうだっただけじゃなくて、下手したら銃の弾が当たってたかもしれない彼女の危険な立場を今更ながらに理解してオレは更に青ざめた。よく青ざめて縮こまっただけで泣かなかったなと春添さんを尊敬した。
「さて、そこのお嬢さん。これでも使う?」
「ただの鉄パイプだけど!」
今吉さんは春添さんに持っていた何かを掲げて見せた。高尾の言う通り、ただの鉄パイプ。サビはなく使い勝手は良さそうで、ステンレス製よりは耐久性に優れているかなと思う。春添さんも同じ思考に至ったのか、自分の持つ刺股と鉄パイプ、そして元の形に戻ろうとしている怪物を見比べて頷いた。
「お借りします」
「ほな、どーぞ」
今吉さん達と春添さん達の間に遮るように立ち上がった怪物。互いの姿が見えなくなる前に今吉さんは鉄パイプを春添さんに投げ渡し、刺股を左手に持った春添さんはそれを受け取った。
「宮地さん。これ預かって下さい」
「は?」
「まだ壊れてないので使えますし」
勿体ない精神か。心の中でそう突っ込みながら、刺股を手渡されキョトンとする宮地さんと新しく手に入れた強度が高くなった武器を構える春添さんを見比べる。
撃たレた…痛カっタ…
人間、増エた。
殺シテやル!
イぃと思ウ。
「…よく喋るな」
口々に嘆いたり怒りを表したりとよく話す怪物に対し、淡々と抑揚なく呟いた古橋さん。春添さんは声を少し張った。
「皆さん、今から我流で戦うので巻き添えを食らわないようにナースステーションの中へ入って下さい」
そして怪物と対峙した彼女。そんな春添さんへ赤司が声を掛けた。
「…春添さん」
「大丈夫。もう同じ手は食わない。ああ、あと」
言わんとしている事がわかったのか、言う前に大丈夫だと言い切った春添さんは赤司の方を振り返ったが、こちらからではその表情は見えない。だが声色からして、きっと笑顔を浮かべているんだと思う。
付け足すように言葉を続けた春添さんの言葉に、赤司は僅かに目を見張った。
「さっきみたいに春添でいいよ。その方が気を遣われてないみたいで楽」
「…ああ。油断するなよ、春添」
「了解」
春添さんは怪物に向き直る。怪物は目の前にいる春添さんに意識が向いていて、彼女以外の五人は難なくナースステーションの中に入って来れた。
女ァ…
今度コそ…
「…確か宮地さん達の情報によれば、この階のボスはあのイケメン好きのオカマが“素敵な殿方”と評する程のイケメンさんみたいだから…」
不意にポツリと呟いた春添さんの言葉に全員が耳を澄ませた。
「あなたは男女の体が混合してるし両生類みたいなものなので、いくらボスっぽいとは言えボスじゃないよね」
「「何言ってんだお前」」
「ブッハ!!着眼点そこかよ!!」
真顔で青峰と宮地さんが突っ込んだ。そしてツボの浅い高尾は吹き出した。唾が飛んだのでちょっと睨んでみるが気にした様子なく腹を抱えてゲラゲラ笑っている。春添さんは笑われた事に対して少しだけムッとしていた様子から、面白い事を言おうと思って言ったんじゃないのはよくわかった。
「でも今までの怪物や怪異と違うのはわかる。少し強いというか、再生するし面倒。だけど…」
春添さんは鉄パイプを右手に持ち先端を怪物に向けた。
「ちゃんと戦えば弱点や隙は見付けられる。今の内にその体とちゃんとさようならした方がいいよ」
…ほザケ!
ふっと口角を上げ、挑発的に不敵に微笑んだ彼女の笑みを見て、安心感と少しのトキメキを感じた。い、イケメンだ…いや、イケ女ンだ。
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