何だい、あの娘は。

【桃井side】

「…大丈夫でしょうか…」

「…下手な心配すんなよ。あの人は死んでも死なねえタイプだろ。異名のサトリは伊達じゃねえさ」

「そそそそんな異名本人の前で言ったら殺され…ひいいい!すいませんすいません!!」

「いや別にオレ怒ってねえよ!?」

 立てている膝に顔を埋めて座りじっとその時を待っていると、近くで同じように座り込み不安そうな声色をしている良君が呟いた。きっと表情も不安に染まり、いつも以上に怯えて周りを見ているんだろうなと思った。
 そんな彼の隣に立っている若松さんが暗い雰囲気を払拭するように言ったが、余計な言葉もあった。その言葉によって若松さんに怒られていないが今吉さんが怒る姿を想像して、恐怖に震え上がる良君は若松さんに落ち着けと肩を掴まれていて、顔を少し上げその様子を視界に入れれば少し笑えた。

 今吉さんと高尾君、古橋さんが三階へ様子を見に行ってからそんなに時間は経っていないけど、大丈夫か心配だ。戻ってくるまで静かに待っていたが、再び脳内を占めるのは幼馴染みと想い人。そして元チームメイト含む数名。

「大丈夫よ」

「…リコさん」

「みんなを信じなさい」

 私の隣に座り同じく静かに待っていたリコさんが頭を撫でてくれる。私より小柄なのにふわりと優しく笑った彼女はとても綺麗で、とても頼もしい。普段は貧乳だ何だと反応が面白くてからかってしまうが、流石は先輩。高二なのにこの貫禄には本当感心する。

「はい」

 ざわついていた心が落ち着き、笑い返すとリコさんも微笑み返してくれた。

「ただいま〜」

「! 帰ってきた!」

 ナースステーションの入り口から聞こえてきた高尾君の声に反応し、私を先頭に気になるみんなが出ると探索しに行った三人が帰って来ていた。そして後ろには数名の新しい人の姿。

「テツくううううううん!!」

「桃井さっんぐうっ!」

「おい毎度やめろそれ。テツが死ぬ」

 心配して心配して止まなかったテツ君の姿が見え、ほぼ条件反射的にその胸へ飛び込むと潰れたような声を出すテツ君。飛ばされそうになった彼を後ろに立っていた大ちゃんが支え咎めるられるが気にしない。これは既に私とテツ君の挨拶なのである。

 なんて冗談は抜きにして、詫びながら離れると近くにいた赤司君と目が合って苦笑された。よかった、赤司君も無事に見付かったんだ。

「…ん?」

「え?」

「…ええっ!?」

「え?え?」

 新しく来た人達、笠松さんに氷室さん、宮地さんに降旗君がチームメイトと再会に喜んでいる様子を目配せしながら確認していると、見覚えのある顔がいて思わず声が漏れる。それに反応した彼女は疑問符を浮かべるが、私が彼女がよく知っている彼女と認識して声を上げると更に疑問符を増やして私を見つめた。

「な、何で春添さんが!?」

 てっきりバスケ部に関係のある人達が集められたものだと思っていたけど、元帝光の春添さんがいるなんて誰が予想しただろうか。
 驚く私に春添さんは「あたしにもよくわからないんだ」と苦笑を返し、春添さんを知らずポカンとしたり不信な目を向けたりしている人に頭を下げて挨拶をした。

「富師高校の一年、春添碧です。宜しくお願いします」

「彼女は元帝光中なんです」

 赤司君にも紹介され、納得した人が数名。でも全くの無関係な人が来た事によって、少し全体的に緊張感が高まった気がする。
 それを見越していたのか、春添さんは気にする様子なく、当たり障りないようにナースステーションのカウンター前へ移動するとその場に座り一息吐いていた。

 強い女性ってみんな憧れると思う。そう思っていた当時の私も、そう思っている今も、彼女の存在は輝いて見えている。
 噂通り不審な行動を見た事はあるけど、剣道場で相手を真っ直ぐ強い視線で見据え、戦いに挑んでいた彼女の姿に心を打たれた覚えがある。
 特別関わった事はないけど、これはチャンス!

 何だい、あの娘は。

「何が?」

 …桃の印が見える。

「ああ。桃井さんだからね」

 な、名前知っててくれた!嬉しい!
 …ってちょっと待って。小声で誰と会話してるの?春添さんが視線を向けた先に誰もいないよ!?
 帝光で噂されていた“ナニカが視えている”という噂が脳内を占め、この場の雰囲気も合わさり背中がゾッとしその場を動けなかった。

「…これで全員ですか?」

「ああ、確かに全員じゃ」

 赤司君の言葉に対し岡村さんが答える。少し広めのナースステーションの奥にいた人達も呼んできて、広い空間で話をする事になったが何せ人数が多い。学校に分かれてその場に座る人もいれば立ったままの人もいる中で話は始まる。

「春添。自己紹介は…」

「大丈夫。みんな顔見知りなんだよね。時間取らせちゃうしまた個別に聞くから平気」

「そうか。まず誠凛は…」

 赤司君は春添さんに確認をしてから点呼を取る。誠凛はリコさんも入れて全員で12人と1匹。テツ君そっくりのワンちゃんもいる。
 海常は6人。桐皇は私を入れて6人。残りの秀徳と陽泉と洛山と霧崎は各5人。そして富師の春添さん。45人と1匹の大人数だ。

「誠凛は部員全員呼ばれてんのか…」

「偏りが激しいっスね」

 笠松さんときーちゃんが不思議そうに言う。確かに海常は中村さんもいるし、偏りがある。マスターと呼ばれている人の意向なのか、気まぐれか。

「それぞれの経緯を話そうか」

 大坪さんが全体を見渡しながらそう言うと、それを聞いて春添さんが近くにいた赤司君に声を掛ける。

「赤司君」

「…君の気持ちはわかる。さっきは君の判断なしに高尾達に伝えてすまなかった。だがこの場の全員と同じ情報を共有しないと脱出する為に協力し合えないだろう。それに、この場では隠し通せる事じゃない」

「……わかった」

 何の話かはわからないけど、少しだけ不安そうな春添さんの表情を見て、私も不安になった。

17/50
←|→

BACK/TOP
ALICE+