誰も犠牲にしません
【今吉side】
「話戻してええか?」
「どうぞ」
銃を突き付けられとる春添さんにそう聞くと是非とばかりに頷かれた。それに笑いながら話を戻し、次は自分達の経緯を話す。
「まず一階におった人やけど、ワシと伊月、水戸部に相田さんに早川と緑間、劉と黛、んで瀬戸の9人や。今区切った別に分かれとって個室やったり廊下やったり色んな所で各自目を覚ました。ちなみにワシと伊月は廊下やったな」
「起きたら目の前にゾンビみたいな化け物がいて吃驚しました」
伊月がその時の事を思い出して少し青ざめる。ワシはそれに頷きながら周りを見渡すと、劉と相田さんが口を開く。
「他の奴らも敵に追われて逃げている間にみんな出揃ったアル。何処に行っても怪物はいるし今では安全とわかったナースステーションは見付けられないし、休める機会が殆どないのもあって疲れてきた時に目に入った階段を全員で登ったら怪物は追って来なかったアル」
「それで何とか無事に逃げ切ったのよ」
「…だとすれば、各階の怪物は違う階には移動出来ない、と?」
「そうやとワシは思う。ワシらは難なく移動出来るっちゅうのはありがたい話やな」
赤司が顎に手を添えながら呟いた言葉を肯定する。成る程と呟き黙った赤司を一瞥してから、何やら熱心にノートにペン走らせとる姿を見付けてそっちに意識を向けた。
春添さん。唯一この中でバスケ部に関係のない人物。帝光中出身とはいえ、特にキセキの世代と接触があった訳でもない無関係の彼女が呼ばれた理由が何か引っ掛かる。
まあまだはっきり確定しとらんけど、幽霊と怪物が入って来れやんナースステーションに入れとる時点で他の奴も含めて偽物じゃないんやろうとは思うけど。
色々聞きたいから話し掛けたいけど、経緯を話すのが先やと思って周りに視線を移した。
「で、や。二階に上がったら上がったで一階と三階におった奴ら以外の全員がおったんやけど、この廊下の奥にある大部屋に閉じ込められとったんや」
「探索していたら音が聞こえたのだよ。音のする方に行けば高尾と大坪さんが直ぐに見えたが、ドアがないにも関わらず出て来なかった。よく見れば透明な壁のような物に遮られていて、叩いても内側からでは出られないようだった。簡単には壊れないようだったが、伊月さんが近くでいくつかの銃が入った箱を見付けて、一か八かでそれを使い撃ち抜いたのだよ」
「…中に人がいるのに撃ったんですか…」
「それしか方法がなかったのだよ。部屋の中は中で、ロッカーから出てこようとする怪物を出て来ないように数人が押さえていたしな。簡易的な銃で誰でも扱えると扱い方の説明書付きで書かれていたし、早くしなければ襲われていたのだよ」
黒子が銃を使うその様子を想像したようで青ざめながら呟いたが、誤解を生まんように緑間が丁寧に説明する。
あれは見とるだけでも嫌やったなぁ。敵は二体だけやったけどあんなん密室に放たれたら誰でも嫌やろ。コイツらが簡単に殺られるとは思ってないけど、それでも心配はしたしな。
「そうでしたか」
「まあそれでみんな救出出来たんや。出て来たゾンビは銃で撃って倒した」
「その後待機組と探索組に分かれて、三つのグループで二階の探索をしている時に偶々ナースステーションの探索をしていた私達のグループを襲おうと怪物が来たんだけど、ナースステーションの前で跳ね除けられていたのを私が見たわ。それでナースステーションが安全じゃないかって話になって此処に留まっているの」
「…それでナースステーションでこれからどうするか話をしていたら上の階でドンドン音がするから、今吉さんと古橋と高尾の三人で様子を見に行ってもらったんだ」
ワシに続いて相田さんと伊月から説明があって、経緯を話し終えた。
三階組は経緯を聞き終え、武器がある事は特にありがたいと話す。
「武器は全部でいくつありますか?」
「ライフルが2丁、ハンドガンが3丁や。弾は沢山ある。あとの武器という武器は鉄バット、ナイフ10本、春添さんに渡した鉄パイプくらいやな」
赤司からの質問にそう答えると、武器が揃っていれば戦う術が大きく広がると安堵したように言う。
「春添ばかりに戦わせる訳にはいかないからな」
「気にしなくてもいいのに」
「そういう訳にもいかないさ。全員で脱出する為にはみんなで協力し合わなければね」
春添さんは顔を上げると赤司を見て苦笑した。確かに今この場で一番強いのは春添さんやと思う。彼女の功績はそれなりに把握しとる。けど一人だけに負担は掛けられへんのは当然やな。
「経緯の説明ありがとうございました。これからどうするかですが、」
「あたしから、いいですか」
全員の経緯を聞き終え、これからこのゲームを攻略する上でどうしていくか赤司が指揮を取って話し合おうとすると、春添さんが挙手をした。全員の目が彼女に向く。
「今までの事をサラッとですけどまとめた内容を言います。怪物の種類としてはゾンビや体の集合体、化ける事が出来る怪物など様々。各階にボスがおり倒さないと攻略出来ない。怪物に物理攻撃は効く。怪物は他の階に行き来出来ないが逆に人間や妖は出来る。四階がない。ナースステーションが現段階で安全区域だけど一階には今のところ見当たらない。三階のボスは怪物の情報が正しければ素敵な殿方。外に出られず窓から見た風景は空が緑色…最後のは余談ですが、こんな感じですよね」
メモをした小さめのノートを見ながら春添さんは話を続ける。
疑いが完全には晴れていない空気の中で自分の意思を伝える事は億劫になってしまうもんやけど、自分の考えはこうやって言える彼女は芯の強い人間なんやなと感じた。
「それと、霊感があると知られる前には言いませんでしたが、あたしが一人の時に妖…細い幽霊と会いました。その幽霊と今廊下にいる妖は“この世界に呼ばれた”、“元の場所に帰りたい”と言っていました。この事はあの妖を説得する時に言ったので赤司君達も聞いたとは思うけど…」
春添さんは一度目を閉じ、真っ直ぐ真剣な目を全体に向ける。
「あたしは、このゲームに連れて来られた妖をみんな元の世界に返したいです。あたし達同様、マスターとかいう人の勝手な理由で巻き込まれた、言わば同じ被害者です。どうすれば助けられるかはまだわかりませんが、やらせてもらえませんか」
「自分達を守るだけで精一杯だってのに、ゲームクリアを目指しながら妖だの幽霊だの助けろと?生きてる人間の命粗末にするつもりかよ」
すると、根武谷が意外にも正論を言った。確かに自分達の事で手一杯の中でワシらには視えへん奴らを助けるなんて、リスクが高い気がするな。妖怪や幽霊がワシらに危害を全く加えんなんて保証は何処にもないし。
「妖も幽霊も…死ねば消滅するという事です。あたしはそんなの嫌だ」
しかし春添さんも食い下がる。意見を変えない様子に花宮も何か言いたそうに眉根を寄せたが、春添さんは目を伏せて言葉を紡ぐ。
「妖の中には生きている者もいます。幽霊は主に死んだ方の魂ですが、妖怪は古より生き長らえている者も多い。彼らにどんなにちょっかい掛けられても命を狙われる事があったとしても、あたしは一つの命を見過ごす事なんてしたくない」
その様子や表情から、過去に彼女が“視える”所為で苦労してきたのが少しばかり窺える。それでも助けたいという気持ちが強いのは、一体何でなんかが気になるけど聞いたところですんなり教えてくれるとは思わへんし、霊体験なんて経験ないで納得も出来へんのやろうなと思った。
「自分が犠牲になっても?」
「誰も犠牲にしません」
次いで実渕もやや厳しい声色でそう尋ねるが、やっぱり春添さんの考えは変わらんかった。
「あたしがこの手で救い出します。誰かに何があっても、必ず」
「……わかった」
自分の手のひらを見つめギュッと握り拳を作った春添さんの真剣な訴えに、赤司が理解を示した。コイツが承諾したとなれば、文句言う奴は殆どおらんくなるなぁと呑気にもそう思った。
「だが優先すべきはオレ達だ。オレ達の命が危険と判断した時は、止む終えず諦めるなどの指示を出すがそれに従えるか」
「…そうならないように努めるよ」
一応交渉成立、ってとこかいな。
余談やけど、わかりやすいようにこの世界で作られたであろう怪物達は“怪異”、春添さんや赤司達一部の霊感ありだけが視える幽霊とか妖怪は“妖”で統一する事になった。
19/50
←|→
BACK/
TOP
ALICE+