握手して下さい

 一応話にひと段落ついたので、頭の中で整理しながら再び違うページにまとめたメモをしていく。
 このS.O.Tゲームの現段階の状況は…参加人数は45人と1匹。敵の数は不明だけど種類はゾンビ、化ける能力のある怪異、オカマ、体の集合体。クリア・脱出する為には各階のボスを倒す必要があるけど四階はないし五階まで把握しているものの何階まであるのか不明。

 このゲームマスターって人にはクリアすれば会えるらしいし、犯人が知りたいけど焦らないようにしよう。気持ちが急いてしまうのはあたしの悪い癖だ。落ち着いて考えよう。

 簡単にクリア出来ないって言っていたけど、今のところ行き詰まってはいないよね。敵も強いわけじゃないし…ただボスがどれだけの強さなのか気になる。鉄パイプが武器のあたしで勝てるだろうか。…いや、勝たなくちゃいけないんだ。
 せめて愛用の竹刀があればなぁ。木刀なら尚よし。

 さて…偉そうに妖を助けたいとは言ったものの、どうしよう。方法がなぁ。転送、出来たりしないかな。あーあ、おばあちゃんがいてくれたら。ちょちょいってしてくれるだろうにな。
 …でも転送か。わからないけどやってみる価値はあるかもしれない。現実味を帯びていないけど、って今更こんなゲームの世界に来て現実味もクソもないか。

 霊感がある人は…あたしと赤司君、そして黒子君、か。他にはいないんだろうか。便乗して暴露する人はいなかったのでわからずじまいだ。
 桃井さんは見てるだけでも守護力がかなり高い事がわかる。本人は無自覚だけど、流石桃の印が付いているだけある。妖が嫌がるわけだ。となると、身近にいる人も安全になるな。もう一人先輩っぽい女の子がいるので、一緒にいてもらった方がいいかな。後で進言しよう。

 他には…と、ぐるりと見渡すが霊能力者ではないあたしには誰が霊感ありかはわからなかった。当然だ。
 でもそれっぽい人はいる。高尾君と誠凛の…あの吊り目の人。あと女の子の先輩。“眼”が他の人より特殊な感じのオーラが見える気がする。気がするだけだけどこの勘は結構当たるんだよね。
 この三人さんは視えていても気付いていない無自覚パターンかな。

 あたしが周りを見ながら唸っていると、人が近付いてきた気配を感じた。座りながら見上げるとそこには今吉さんの姿。
 よいしょと言いながらあたしの隣に腰を下ろす。先程から視線を感じるとは思っていたが、まさか話しに来るとは。

「帝光中学校所属の時に全国中学校剣道大会の団体戦、個人戦共に三年連続優勝。その実力はホンマもんやったな」

 え。と今吉さんの方を見れば意図を感じさせない笑み。彼はにっこり微笑みながら言葉を続けた。

「東の武道家、剣道の春添碧。通称青龍、あるいはドラゴン。自分が思っとる以上に有名やで?名前を聞けば聞いた事があるくらいにはな」

 な、何だこの人。何であたしの功績をこんなに語ってるの。何が目的…?

「青龍と言えば、今や全国の高校生の中で“四神”として名高い。まさかこんな所でホンマもんに会えるとは思ってなかったわ。光栄や。後の三人は、西は合気道の白虎、南は弓道の朱雀、んで北は柔道の玄武…やんな」

 そう。全国の高校生の武道家の中で特化した才能を持つあたし達四人を世間は“四神”と称している。他の三人とは会った事ないしどんな人かわからないのでこの異名をどう思っているかは知らない。
 何度も言うようだけどあたしはこの異名は中二病臭くて本当に嫌だ。だからこの話を振られるのは恥ずかしいからやめて欲しいんだけど、先輩だしちょっと言いにくい。

「で、や」

 今吉さんが目は開いていないがあたしをしっかり見つめながら口を開く。何を言われるかドキドキビクビクしていると、そっと手を差し出された。

「握手して下さい」

「…は?」

「あと、また後でええからサインも欲しいなあ」

「…え?ええ?」

 明るい声でそう言われたのであたしがポカンとしているとずっと手を差し出しながら待っている今吉さん。つい反射的にその手を取り握手に応えるとやったーと喜ぶ。え、何?

「有名人やん。会えて嬉しいから記念にな。こんな所で今から協力し合うわけやし、交友を深める為にも丁度ええやろ」

 いや何が。

 丁度いいとは…と、あたしがあまりにも怪訝な顔をしていたんだろう。今吉さんはくつくつと喉を鳴らして笑う。

「まあ、仲良くなりたいっちゅう事や。此処を無事に出てからも一緒に出掛けてみたいなぁ。普段何処行くん?」

「えぇっと…」

 仲良くなりたいと言われて嫌な気はしない。だがこの人の考えている事がわからないからこそ、あたしを見張りたいのかななど捻くれた思考に移ってしまう。要は警戒してしまうという事だ。純粋に仲良くなりたいと思っているとするなら大変申し訳ない話だけど。
 話の方向が変わっていく事にオロオロとしていると、ポンと今吉さんの肩を叩く手。

「今吉。春添が困惑してる」

「ん?諏佐か。スマンスマン。だって会ってみたい人ランキングの上位に入る春添さんに会えたんやで?嬉しいやろ〜」

「そんなランキングあったのか」

 何だか嘘臭い。諏佐さんという方と二人して一緒の顔をしていたのか、「胡散臭いとか言いたげな顔やな」と今吉さんが苦笑した。

「それにしてはナンパのような感じだったぞ」

「んー、でもナンパっちゃあナンパやな。春添さんとお近付きになりたいし。」

「…あたしといると呪われますよ」

 あたしが低い声で小さくそう言うと二人がキョトンとする。だけど今吉さんは直ぐに小さく吹き出して笑うとあたしの頭をワシャワシャと撫で回した。

「それ、中学ん時からよく使っとった言葉なん?霊感ある所為でよく変な事に巻き込まれるからあえて人を遠ざけようとするとかか?」

「いえ、ふざけただけです。どんな反応するのかなって」

「意外とお茶目やな。ブラックジョークにしか聞こえんかったけど」

「すみません」

 あたしが言うと余計にそうですよね。霊感があると知ってもお近付きになりたいだなんて初めて言われたからどう返せばいいか迷ってそんな事を言ったんだけど、やっぱりブラックジョークになっちゃうんだな。
 諏佐さんも苦笑しながらやり取りを見守るかのように今吉さんの隣に腰を落とす。

「そういえば、春添は流派とかあるのか?」

「天然理心流です。剣術自体は幼少の頃から祖父に教わってて、10歳の頃正式に入門しました」

 諏佐さんも話に混ざってくれるらしい。正直今吉さんと二人は緊張するし探られている感が否めず疲れてきていたので、一見穏やかそうというか落ち着いた雰囲気のある人が入ってくれるのはありがたかった。

「それまた何でや?」

「祖父がその流派だった事と、戦術が実戦向きなので強くなりたかったから極める事にしました。今も道場に通い続けていますが稽古は週末だけで…学校でもずっと剣術に浸っていたいので剣道部に入りました」

「強くなりたかったんは何で?やっぱり妖関係なん?」

 今吉さん質問多いな。グイグイくるな。そんな事を思いながら視線を二人から外して足元を見つめる。

「…それもありますけど、他にも色々あって」

 出来るだけ普通を装いたかったけど、少し声のトーンが落ちてしまった。これでは気を遣わせると思いながらも、落とした視線が上げにくい。





「……碧。何を見てるんだ?」

「そっちには何もないよ?」

「え…だって、おとこのこがおいでって…」






「…大丈夫か?春添」

「! はい、すみません。目を開けて寝ていました」

「魚か」

 意識を過去の記憶に向けていたが諏佐さんの声にハッとして顔を向けると二人共あたしの方をじっと見ていた。慌てて繕うと今吉さんから細やかなツッコミを頂く。流石です。

「スマンな。聞かれたくない事聞いたみたいで」

「いえ。そんな事ないんですけど、話す程の事ではないなと思って」

「そうか」

 それ以上は詮索してこない今吉さんと諏佐さん。今吉さんは意外だった。もっと根掘り葉掘り聞いてくると思っていたからだ。

 でも深追いされないのは助かった。ふう、と小さく息を吐き出すとまたあたしに近付いてくる気配。見上げれば前髪が長く目が見えてない人。

「オレも春添ちゃんの武勇伝知ってるよ〜」

 いやもういいです。勘弁してくれ。





実際の天然理心流道場の規約等違う点だらけですが、あくまで創作という事をご理解下さい。


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