…不気味だって?
「…一度病院に連れて行った方がいいと思う?」
「幻覚が見えるって言うのか?それとも幽霊が視えるとでも?勘弁してくれ…どっちにしろ、周りにバレたらおかしな目で見られる」
「(…おかしな、め…?)」
「今日から碧ちゃんはおじいちゃんとおばあちゃんの家に住む事になったの。パパもママも…その、仕事が忙しくなって、碧ちゃんと一緒に過ごせる時間が少なくなっちゃうから…寂しい思いさせちゃうし、ね?」
「…うん。おしごとがだいじょうぶになったら、おむかえきてくれる?」
「……ああ」
「うぇぇ…ママぁ…パパぁ…」
「寂しいからって直ぐに泣くんじゃない!ワシらがおるじゃろうに!しゃんとせい!!」
「うっ…びええええええ!!」
「ちょっとあんた!!竹刀振り回すのはお止めよ!!」
「天然理心流奥義!むみょ「奥義なんかを今此処で使ってどうするんだい!?」
「うう…おばあちゃん…」
「大丈夫、大丈夫。おばあちゃんがついてるからね。お化けもおじいちゃんも何にも怖くないよ」
「おじいちゃんが一番怖い…」
「ふふ、そうかい。あれでも碧をとっても可愛がってるんだよ?私達は碧よりうんと年寄りだからね。いつでも助けに行けるわけではないから、一人でも悪い奴に立ち向かえる度胸と技術を身に付けさせたいんだよ。わかっておあげ」
「…女はどきょ…男はあいきょ…?」
「逆だねぇ」
「春添さん、大丈夫…?」
近くで聞こえた柔らかい声に顔を上げると、桃井さんがあたしの前にいて心配そうに眉を下げていた。
今吉さん達と話をしていたが、そこへ霧崎第一の原さんという方が加わり、あたしの武勇伝とやらを話し出した。あたしはそれを聞き流すように立てた膝に顔を埋めていたのだが、そのまま少し寝てしまったらしい。
寝起きで少し重い目を擦り、辺りを見渡せば然程時間は経っておらず、皆さんの位置は殆ど変わっていないようだ。
桃井さんはあたしが寝ているのを見て気分が悪くなったと思ったみたいで様子を見に来てくれたらしい。未だ心配そうな表情をしているので笑みを返す。
「大丈夫。少し寝てただけ」
「そっか。よかった」
にこりと微笑む彼女は相変わらず可愛らしい。そんな中でまだ近くにいて今吉さんと諏佐さんに武勇伝を語り続けていた原さんの声が耳に入る。
「春添ちゃん寝てたの?折角話してたのにー」
頬を膨らませる代わりに風船ガムを膨らませる原さん。そして話を続けた。
「天然理心流道場での伝書は確か“免許”の階梯だったよね。かの有名な新選組局長だった近藤勇に並ぶ、異例のスピードでの昇進だって話だよん。剣道での段位については、実力はあるんだけど年齢制限もあって現在三段。次の試験では一回目で四段確実だって言われてるよん」
ご丁寧に…。確かにそうなんだけども。段位昇格についても順調だけども。
恥ずかしさから逃れるように視線を落とした。
「そうらしいなー。いやぁ、ワシらの近くにはホンマ凄い者揃いやな。春添さんといい、キセキの世代といい」
あたしといいキセキの世代といい、中二な異名を付ける人が多くいるもんだ。そんな事を思いながらあたしは話を摩り替える。
「今吉さんも、凄そうです」
「何がや?」
「色々。何か嫌がらせとか上手そうです」
「…中々言うなァ。春添さん」
第三の目とか額に出してきそう。そこは黙っておくが、あたしがズバッと言った事に対して今吉さんは笑みを深めてあたしを見つめた。その笑みが既にアレなんです。
あたしも微笑み返して二人で笑みを浮かべ合っていると、桃井さんと諏佐さんと原さんの視線を感じる中で赤司君の声が聞こえた。
「これからいくつかのチームに分かれて探索に出ようと思います。ゲーム攻略の為の情報収集をしながら怪異を倒し、春添が言っていた妖の救出が目的です」
そう言うや否や、バラバラに集まっていたみんなが集まってくる。あたしと今吉さんも腰を上げると桃井さんと諏佐さんは息を逃していた。安堵の息みたいだ。喧嘩でもすると思ったのかな。
「3チームくらいがいいんじゃないか。人数は4〜6人程度が動き易いか」
「そうですね。個々の能力を考慮して組みましょう。今よりある程度情報が集まったらボスを探し出して倒す算段です。探索の途中で出会った場合も可能なら倒しても構いませんが…まあ、それは春添に限ります。強さなどがわからない今のような状況では避けた方が無難ですね」
あたしはいいんだ。赤司君の言葉で数人の視線が向いたので思わず目を逸らしてしまった。チートのように聞こえるのでやめて下さい。万能ではありませんので…。
「あの人は大坪泰介さん。秀徳の三年生だよ」
そういえばさっき口を開いたガタイのいい真面目そうな人の名前は何て言うのかな、と思っているといつの間にか桃井さんが隣にいて耳打ちしてくれる。彼女曰く、情報収集が得意らしくみんなの事をよく知っているそうなので他の方全員の名前も簡単に教えてもらった。
後で聞こうと思っていたけど手間が省けて助かった。
桃井さんにお礼を伝えると同時に、再びあたしの名前が紡がれる。
「妖の救出は春添にしか出来ません。黒子は感じる程度で、オレも彼女程視えるわけではないので。妖と上手く意思疎通が出来ない事もあるかもしれない。だから妖と出会った時にどうすればいいか指示をするのは春添、君に任せる。いいね」
「わかった」
あたしがしっかり頷く様子を見て赤司君は微笑んだ。その場でチーム分けをしている中、桃井さんが話し掛けてくる。
「ごめんね、春添さん」
「?」
「…本当は少し春添さんが怖かったの。中学の時から幽霊が視えるって噂があったし、さっきも妖?と話してたみたいだし…」
「…不気味だって?」
「う…うん。一方的にごめんね。だけど…」
急に謝られて何事かと思ったらそんな事だったのか。怖がられたり不気味がられたりというのには慣れてしまったから、寂しいだけで怒りはない。
正直に話をする桃井さんは気まずそうに視線を落として話していたが、あたしと向き合うとしっかり見つめて話を続ける。
「春添さんの妖を助けたいって気持ちが真剣だったし、こんな状況なのに前を向いている姿がカッコイイなって思った。中学の頃から春添さんは強かったから憧れてた部分もあったんだけど、ね」
少し照れたように笑った彼女はそっとあたしの手を取ると、マメのない柔らかい両手で包み込んだ。
「だから、もう怖くないよ。私に出来る事があったら協力したいと思う。…こんな私だけど、仲良くしてくれる…?」
不安そうに瞳を揺らす。その様子を見て、友達になろうと言われている事を理解した。こんな事は初めての事なので少しトギマギしてしまうが、純粋にその言葉が嬉しかった。
気を抜けばちょっと泣いてしまうかもしれないな、なんて思いながら頬を緩ませる。
「勿論。宜しく、桃井さん」
「さん付けなんていらないよ。私も碧ちゃんって呼んでもいい?」
「うん。じゃあ桃ちゃんって呼ぶね」
「うん!えへへ」
照れ笑いをした桃ちゃんの笑みに、あたしも何だか照れてしまって笑って誤魔化す。
そんなあたし達を見て黒子君が微笑ましげに見つめているのに気付くのはもう少し後だった。
そうこうしているうちに、チーム分けが終わったようだ。
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