寧ろ逆かなぁ

【花宮side】

 非現実的な世界に来てからあれよあれよと事は進み、全く剣道に無関係なオレでも知ってるくらいに剣客として有名な春添碧が霊感があるとかで危ない奴だった事実知ったり霊障とやらを実際に見たり聞いたりして、一応こう見えても困惑している。混乱はしてねえが、受け止め切れない、というより信じられない出来事なので受け止めたくないのが本音だ。

 それでもこんなクソゲーをクリアするしか脱出出来ねえってんだからやるしかねえと思って渋々探索に出たはいいが、正に前途多難。急に春添は飛んでくし風とか起こるし、マジで意味わかんねえ。伊月は伊月で目を細めたり見開いたり忙しいし。コイツ霊視えてんじゃねえの。
 取りあえず霊が視えている春添の指示に従ったはいいが、妖がいなくなったと安堵しているコイツらを眺めていたら、不意に近くで気配を感じた。

 気付けば春添の真後ろに華奢な体格の男がいて。

「ひと段落ついて油断しているね」

 鳥肌が立つくらいに甘い、女子にはウケのよさそうな声を聞いて気持ち悪い感覚が背筋を走ると同時に直感的に嫌な予感がし、自然と体が動き春添とそいつの間に割り入った。
 そこでそいつが拳を繰り出している事に気付き、防ぐ間もなく腹に突きが入る。軽い突きのように見えたにも関わらず衝撃が重く、堪え切れず後ろにいた春添に寄り掛かるように崩れ落ちた。

 部活で鍛えている為多少の突きは腹筋力で耐えられるが、今の突きは普通の突きとは違った。
 胃からせり上がってきそうなくらいの吐き気、鈍痛に声が抑えられず呻きながら腹を押さえていると、周りで状況についていけず混乱している奴らが男の存在に気付く。

「マジウケる」

 何がマジウケるだよ。何もウケねえよ。痛えし。
 オレが苛立ちながら睨み上げると、男は無表情な顔を変える事なく声だけが明るくカラカラと笑った。

「いい目をするね、君!」

「攻撃って、花宮さん…!」

 春添がショックを受けた顔をする。不意を突かれ攻撃を受けそうになった事と、その攻撃をオレが受けた事が原因か?ハッ、不意を突かれた事に対してプライドが傷付いたとか、自分の所為で人が傷付いて「自分は悪くないのに周りからは悪いように見えてしまうのが嫌だ」とかの自責の念からショックってか?よくいるよなそんな奴。それか「誰も傷付けたくないのに傷付いてしまった」とか…ナースステーションで傷付けたくない的な感じの事言ってたしな。

「ボケッとしてるからだよ。青龍ともあろう奴がこんな場で気を抜いてどうする?もっと気を張るべきだよ。君くらいしかまともに妖は視えないんだから、守りたいなら油断しない事だね」

 心中毒づいていたが、男の遠慮に言葉に対して春添の表情が強張る。それを見てなんとなくワケありっぽい事は察した。興味ねえけど。

「そんなんじゃ誰も守れないよ。何の為に君は強くなったんだ?そんなんだから妖達に付け込まれて襲われるんだ。いい加減学習したまえよー」

 春添の表情が更に曇り、眉根が寄せられた。その様子を見て伊月が声を上げる。

「急に攻撃しておいて何を偉そうに言ってるんだ。その前に、一体お前は誰だ」

「オレは秋塚八白あきづかやしろ」

 名前を聞いてピンといた。コイツも春添と同じ四神の一人だ。顔は知らなかったが西の武道家、合気道の通称白虎と呼ばれている奴。

「と言っても本物ではないよ。オレはクローン、所謂コピーだね。このゲームの為に作られたんだ」

 クローンだと?その言葉に全員が瞠目する。

「オイオイ。じゃあコイツも実はクローンとか言うんじゃねえだろうな?」

「え。違います、けど…」

 根武谷が親指で春添を指しながら言えば春添はギョッとしながら直ぐさま否定する。ここにきてまた疑われ始めたら本人も堪ったもんじゃねえだろうしな。オレも信用してるわけではないが。

「残念ながら彼女は本物だよ。オレ達は春添碧と戦う為に作られた」

 秋塚の言い回しでは、他の四神の残り二人もコピーされていると受け取れる。

「四神全員、本物が来れば一致団結してしまうかもしれないだろう?そうなってしまったら簡単に攻略されてしまうかもしれない。それ程四神は強い事は知ってるからね。そこでマスターは四神の中で一番に目を付けた春添碧をゲームの参加者に選び、彼女によって簡単にクリアされないようにオレ達と戦わせる事にした…そんな感じかな。マスターからすれば一種の余興みたいな感じだと思うよ」

 余興。改めて聞くと本当に自分勝手な奴がマスターを名乗ってるもんだと思った。自分の快楽の為に人様巻き込んでんじゃねえよ。

「ならオレ達が選ばれた理由はコイツ繋がりかよ。キセキの世代と同中なんだろ?春添を見付けてからキセキの世代、バスケって辿ってったんじゃねえだろうな」

 それは暗に春添伝いにオレ達が巻き込まれたと言っているようなもんだ。まあそう思うだろうな。疑われている事や自分が巻き込んだかもしれない事実を突き付けられ、悲しげに春添の表情が落ちる。
 まあ、巻き込んだっていうにはあまりにもマスターの身勝手さが目立ってるが。

「あー、いい線はいってるよ。けどこれも残念ながら外れだ。寧ろ逆かなぁ」

 逆との言葉に一同目を見張る。

「マスターが君達に目を付けたのは、WCの一件からだよ。そこからキセキの世代や無冠の五将…って辿っていって、帝光中学校まで行き着いたんだ。そこで春添碧が見付けられた。そう聞けば寧ろ君達が原因じゃない?それに無冠の五将には君も含まれているよね、根武谷永吉」

 秋塚はこてんと首を傾げてあざとく振る舞いながら、淡々と無表情に言った。秋塚の様子に根武谷が眉を寄せる。

「女の春添碧ばかりになすり付けようとするのは、男としてどうかな」

「その女の子の春添さんに殴り掛かって言う事じゃないだろ」

「まあそうだよね。それもそうだ!」

 あながち否定は出来ないが、それに対し伊月が反論すればポンと拳を手の平に叩いて乗せ、一本取られたねと戯けたように言う秋塚。コイツ、表情ねえくせに声や仕草は明るいから人形の中に明るい人間が入ってるみたいで気持ち悪い。

「さて、雑談は終わりだよ。オレが此処に来た理由はさっきも言った通り、春添碧と戦う為だ。お相手願おうか」

 すると、ずっと黙っていた緑間が春添の前に庇うように一歩出た。

「それを聞いて、そうかと差し出す馬鹿はいないのだよ」

「同意見だな」

 伊月もその横に並び、オレと春添の前に立ち塞がっている。それを見てフンと鼻を鳴らした秋塚は、やれやれと頭を振った。

「オレは秋塚八白のクローンだよ?言っとくけど、彼の武術はそのまま反映されている。よってオレは強い。君達みたいな少し背の高くてひょろっこい奴らとは力量が違うんだよ」

 ひょろっこいのはお前だろうが!男にしては華奢な体格のくせして、と誰もが思った事だろう。だが秋塚は合気道を使う。合気道は一般的に怪我をしにくい人に優しい武術と言われている為、華奢なコイツでも出来る事に納得はする。
 秋塚が根武谷に視線を移した。

「まあ春添碧以外の中で唯一戦えるとすれば、単純に考えて君なんだろうけど」

 根武谷に静かに歩み寄る秋塚はゆっくり手を伸ばす。根武谷が身構え、その手を自分に触れる前に逆手に取ってやろうと手を伸ばし掴もうとした。

「秋塚八白は合気道を駆使する。合気道は特別なパワーは必要ないんだ。何故なら人を殺すのではなく“生かす”武術だから。基本的に怪我をしないように抑え、投げる技が多い」

 だから、と続けた秋塚は根武谷の手首を掴み、簡単に捻ってするんと巨漢である根武谷を引っくり返し床に叩き付けた。あまりの静かで自然な動き、無駄のない洗練された動きに思考がついていかなかった。
 投げられた当の本人も突然の出来事に頭がついていかないようで、目を白黒させる。痛みという痛みはなかったようだが、そのまま抑え付けられていて動けない。

「オレより大きい君でもほら、こんなに簡単に捩じ伏せられる。よって君達にオレを倒す事は無に等しいんだよ。それに扱いを極端に変えれば人を傷付ける事なんて容易い。もっとも、秋塚八白のように手練れであれば合気道を軸に“殺す”手法に変える事も、ね」

 スッと手を離した秋塚は根武谷を解放し、春添に真っ直ぐ視線を向けた。

「さあ。こうなったらオレの相手が務まるのは系統は違えど武術に慣れ親しんだ君しかいないよね。春添碧」

 春添はオレを支えていた手を離し、立ち上がる。

「此処でオレと戦わないと、みんな死んじゃうよ?」

「…言われなくてもそうするつもりです」

 春添は鉄パイプを握り直すと緑間と伊月の前に進み出た。今まで以上に真剣で、緊張感や威圧感のある雰囲気を纏いながら。

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