さっさと追わんかい!

【高尾side】

 オレ達Bチームは二階に進む。今吉サンと黒子を先頭にオレと氷室サン、紫原と後について進んでいるが、オレは突っ込むか突っ込まないかで考えている事がある。

「ワンッ」

「このまま進んでも大丈夫みたいですね」

「いやー、やっぱ犬は凄いなあ」

 いやいや…と心中頭を振りながら前の光景を眺める。今吉サンと黒子の足元にはテツヤ2号という名の犬がいた。誠凛バスケ部の愛犬らしく、犬という事もあって霊感があるだろうという憶測で連れてきているらしいが、本当に視えてんのかとか本当に信じて進んでも大丈夫なのかとか色々考える。
 そんな2号は床の匂いをクンクンと嗅ぎながらテクテク歩いている。

 今吉サンでさえもその迷信を信じているのか、ただ気まぐれで成り行きを見守っているのか、いつもの笑みを絶やさずにそんな事を言う。呆れにも似た感情が心に芽生えていると、後ろの紫原が大きな欠伸をした。

「ウゥ…」

「…武器を構えぇ」

 少し歩くと、不意に2号が立ち止まり目先にあった部屋に向かって小さく唸る。そのドアは閉まり切っていて物音は何も聞こえない。
 いや、人間であるオレら聞こえていないだけで、嗅覚や聴覚が優れているこいつが些細な物音や変化に気付いたのかもしれないので何かいるのかも。

 黒子は2号を抱き上げ、今吉サンの指示で氷室さんが武器であるライフルを構えた。
 オレは鉄バットを手に鷹の眼を使って視界を広げ、周りへの警戒を怠らない。

 今吉サンはドアノブを静かに捻ると開くか確認をした。外開きで微かに開いたドアを確認し、一気に開け切った。

 ウ゛ブォォォォオオオ!!

 開イだァぁアア!!

「うわっ!!?」

 開いた瞬間、雪崩れるように二体のゾンビ…じゃなくて怪異が飛び出してきた。
 すっげえ2号!お前を見縊ってたぜ!怪異いたじゃん!!
 そんな感心をしていると今吉サンは咄嗟にドアの裏側に避け、近くで武器を構えていたオレと氷室サンも一歩下がって避け、狙いを定める為鉄バットとライフルを構える。

 倒れた一体と何とか転ばずに踏ん張った一体。その内の踏ん張った一体がオレ達を見ると予想とは外れ襲う事なく、怯えたように飛び上がってから今吉サンの横を通り過ぎて廊下の奥へを走って行く。ってハァ!?逃げた!?

「逃げたね〜」

「ああ、逃げたね」

「言ってる場合か!!」

 穏やかな紫原と氷室サンにツッコミを入れあれ見過ごしていいのか!?と思っていると、倒れ込んでいる怪異がもう一体に縋るように手を伸ばす。

 オ゛おお置イて行クナァァああ!!

「せりゃああああああ!!!」

 切ない叫びを遮るように部屋の中から更に気合いの入った声が聞こえた。目を見張っていると、怪異の頭に振り落とされた何か。
 それは足で、容赦ない踵落としを頭に喰らい一瞬で砂煙になって消えていった。
 突然の出来事に目を白黒させていたが、踵落としをした人物を見て一同目を見張った。

「君は、」

「さっさと追わんかい!」

 黒子が名を紡ごうすれば踵落としをした張本人の一番に目に入る坊主頭に手が乗っかり、その人物の背後から人が飛び出てきて頭上を飛び越えると、素早い身のこなしで一気に逃げた怪異に追い付き、背骨を折る勢いの跳び蹴りで動きを止めた。そしてトドメを刺すように後頭部を蹴飛ばす。
 逃げた怪異も砂煙になって消えていった。

「フー。危ない危ない。逃げられるかと思ったわ〜」

 かいてもない汗を拭う素振りをしながら戻ってきた跳び蹴りをしたその人の顔にも見覚えがある。

「内側からでは開かなかったが外からなら開くんだな。助かった」

 そしてもう一人、部屋の中から出てきたガタイのいい人を見てやっとオレが声を上げる。

「せっ、正邦!!正邦の人ッスよね!?」

「津川君」

「春日と岩村、やんな?」

 オレに続いて黒子が先程呼べなかった名前を紡ぎ、今吉サンが残りの二人に確認を取った。

「ああ。お前達もいたんだな」

「何なに?勢揃い!?」

「どんな状況?これ」

 呼ばれた岩村サン、津川、春日サンがオレ達を見渡してから口々に言う。
 また人が増えた。そしてこの三人は心強い。










 二階も含め、どの階も全ての部屋を探索をし終えているわけではない。よって、探索していない部屋から人が出てきても更に人が増えてもこの世界なら何ら不思議とは言えない現象だ。いやオレからすれば充分不思議なんだけど。

 聞けば放送が鳴る少し前に部屋の中で目が覚め、放送を聞いてから唯一あるドアから出ようとなったもののドアが開かず途方に暮れて三人で固まって話していたら、突然床の一部が外れてそこからわんさか怪異であるゾンビが湧いて出たそう。

 そこで三人は絶望…ではなく嬉々とし、特別な相手で特訓が出来ると喜んで三人でその湧いて出る怪異を倒しまくっていたらしい。嬉々とするってあたり、体術を心得ている正邦らしいなと思ったのは此処だけの話だ。

 ただ怪異は簡単に消えてしまうのでつまらなく、もっと骨のある奴出て来いや!と挑発したものの、怪異達が怯み湧いて出て来ていた床を閉めてしまった。既に上がっている仲間を見捨てて怪異が逃げた事で残された怪異が絶望していると、少しでも自分達の相手になるようにと(脱出出来ないので暇潰しを兼ねて)特別稽古を付けていた、という事らしい。

 そして残り二体となったところでドアが外側から開き、逃げ場を失っていた怪異が飛び出して行き逃すわけにはいかないとトドメを刺す事にし、後は今に至るって流れらしい。

 その話を聞いて、紫原が抑揚のない声で言った。

「あの子以外にもチートいたんだね〜」

 それな!

「あの子?」

 津川が疑問符を浮かべる中で、次は今吉サンと氷室サンが経緯を話す。
 その間に、2号は室内で戦う物音を聞いて気付いたという事で黒子と紫原からよしよしと撫でて褒められていた。今回は幽霊とか妖が視えたわけではないけど、まあ活躍したからオレからも褒めてやろう。そう思って頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振るので可愛過ぎかと一瞬で悶えた。犬やっぱ可愛いな。

「ええ!?春添碧いんの!?会いてー!!」

 春添ちゃんを知ってるらしい津川が興奮して声を上げる。オイオイ、その声で怪異とか寄ってきたらどうすんだよ。ってコイツなら大丈夫か。
 一方春日サンと岩村サンも同意見なのか少しソワソワしている。何なの、武道繋がりだとそんな有名なの。かく言うオレも春添ちゃんの名前聞いた事はあったけど。

「でも今は一階の探索に出ているので」

 合流は後になりますね、と続けた黒子に津川は一瞬止まってからぐるんと黒子に顔を向けた。

「あれ!?黒子いたの!?」

「最初からいました」

 気付くの今かよ!おっせえ!

「じゃあ今から見に行ってくる!」

「オイ、勝手な行動は慎め津川」

 そして駄々を捏ねんな!こいつ結構面倒くせえぞ!

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