待ってましたー!!

 三人に囲まれた秋塚はゆっくり立ち上がる。隙のない構えを作り三人を順に見据えた。

「フンッ…少し攻撃が通用したくらいで図に乗るなよ。もう食らわない」

 一気に集中力が高まった。最警戒モードに入っている事は、雰囲気を見ればわかる。その様子に三人も表情が引き締まった。

 あたしは立ち上がると鉄パイプを握り直す。

「春添」

「緑間君、大丈夫。あの人達が強い事はわかるもん」

 心配そうに声を掛けた緑間君を振り返り、安堵させるように微笑みを向ける。

「あたしもまだ戦えるから」

 頷いた緑間君を確認して、あたしは少し離れた位置で鉄パイプを構えた。

「何?結局春添碧も戦うの?戦力から外れたかと思ったけど」

「言われっぱなし、やられっぱなしは割に合わないので」

 鉄パイプを平晴眼の形に構える。これは剣道で言う中段の構えで天然理心流では平晴眼と言う。

 あたしの構えを見て、三人も各々構えた。

「いくぞ!!」

 ガタイさんが気迫のある声を掛けた瞬間、茶髪さんと坊主さんが飛び出し二方向から蹴りと突きを繰り出す。秋塚は二つを見極め坊主さんの拳を片手で防ぎ、茶髪さんの蹴りをもう片方の手で防いだ。

「ハッ!!」

「「ッ!!」」

 気合いと共にグルンと両腕を回し、ダンッ!と床に叩き付けた。

 そして両掌を二人に向けて波動を打ち込もうとする。

「させん!」

 秋塚の背後から一気に詰め寄り手の平を向けガタイさんが肉厚部分で突きを繰り出す。掌底という技で打撃を仕掛けるが、直ぐさま振り返った秋塚に容易に腕で払われ、逆に掌底を向けられる。

 伊月さん達が息を飲む音が聞こえた気がしたが、ガタイさんは空いている腕を顔の前に持って行きそれを防ぐ。距離が近く攻撃も素早くて見えなかったのに簡単に防ぐなんて、凄過ぎ。

 フッと口角を上げたガタイさんに秋塚が眉を顰めた。

「ナメて手加減していると後で自分の首を絞める事になるぞ」

「…黙れ」

 低く唸るように言った秋塚が右足をガタイさんの左足に掛け、胸倉を掴むと素早く翻し背中から床に叩き付けて抑え込む。

「待ってましたー!!」

「!? ぐッ…!」

 急に大声が聞こえたかと思えば、先程まで仰向けに倒れていた坊主さんが逆さに手を着きぐっと体を丸めて伸ばす反動と腕の力で飛び起き、その勢いのままガタイさんを抑え込んでいる秋塚の背後から首に両足を絡ませた。
 突然首の絞まりを感じ息を詰まらせた秋塚だが、ガタイさんの胸倉から手を離すもののその手をガタイさんに取られ、坊主さんが秋塚の頭を掴みながら後ろへ体重を掛けて秋塚ごと後ろに倒れる。

「ふ、ぐぅ…!人げ、ん…如きがァ…!」

「セイセイセーイ!」

 足できつく首を絞められ血流が首下に回らず、段々と顔を赤らませながら青筋を浮かべる秋塚。坊主さんは楽しげに声を上げながら更に首を絞め上げる。

 秋塚は両手を拘束しているガタイさんに向かって手の平を向けると波動を打った。それに気付き腹筋に力を入れたようだが吹っ飛ばされる。

「! 主将!?」

「は、なせェェエエ!!」

 空いた両手を頭上にいる坊主さんに向けて、鬼の形相で手に力を込めた。

「はーいそれはしちゃあ駄目っしょ〜」

 気配を消していた茶髪さんがその腕を蹴り坊主さんから反らせると、手から出た“気”が近くの壁を凹ませる。

「うわ…」

 本当にボソッと、今まで黙っていた花宮さんがドン引いた声を漏らした。あんなの食らったらとか、何だあの異次元な攻撃はとか思ったのかもしれない。大丈夫です。あたしも思ってます。

「コイツしぶとい!」

 意識を飛ばすまいと堪える秋塚を見て坊主さんが感心したように言った。その瞬間目を見開いた秋塚が床を蹴って両足を振り上げた。
 近くにいた茶髪さんが後退して足を避ける中、秋塚は後転の要領で坊主さんの方へ下半身を起こすと、柔らかい体で首を絞め続ける坊主さんの頭上を通り過ぎ坊主さんの背後の床に足を着けると、秋塚の首を絞めていた坊主さんは目を丸くして足を離す間もなく、勢いを殺さず秋塚は相手の体の軸を感知して首と肩の力で坊主さんを後方へ投げ飛ばした。

「どわあっ!?」

「おおー。凄いネバーギブアップ」

 軟体動物かと突っ込みたくなるような技で坊主さんを離す事に成功した秋塚は、噎せながら声を荒げた。

「ナメるなよ…このオレを!!秋塚八白の!!代わりに現実世界に行って!!いーっぱい人を殺しまくってやる!!アハハハハハ!!」

 瞳孔が開いている目を三人に向けた後、あたしに目を向けた。

「その前に春添碧…君は殺しておかないといけない」

 血走った目を向けてくる秋塚を見据え、あたしは目を閉じ一つ深く深呼吸をした。そして瞼を持ち上げよろけながら立ち上がる秋塚を真っ直ぐ見つめる。

「酸素が回っていない頭って、上手く考えがまとまらないよね」

「…はあ?」

「さっきあたしもそうだった」

 あたしの話に反応するが、一拍遅れている。明らかに思考が遅くなっているのを感じ、あたしはその場を踏み込んだ。

「反応も鈍くなる。この絶好のチャンスをあたしが逃すとでも思うの?」

 あたしが目前に迫った秋塚は目を丸くしている。そして悔しげに眉を寄せ咄嗟に右拳を突き出すが、あたしはそれを相手の左側に避け回避する。

「…天然理心流」

 声を聞いてあたしが左側にいると気付き左肘を突き出してくるが、動きが鈍くなったその攻撃はゆっくりに見える。それすらも避けて背後を通り相手の右背後に佇めば、鉄パイプを両手でしっかりと握り締め八相で構える。

「っ!!」

「“月影剣”」

 これは夜間の雲間に出る月のように、相手の不意に出る技だ。見事に不意を突いたあたしは秋塚の頭部へ鉄パイプを、渾身の力を込めて振り下ろした。

 ガンッと鈍く重い音を立てて当たった鉄パイプ。秋塚は頭部から砂煙になっていくとゆっくり崩れ落ちる。

「く、ソ…」

「三人に感謝します。とてもやりやすくなりました」

 全身が砂煙となって空気と同化して消えた。

「次に秋塚八白君に会った時に罪悪感が芽生えるので後味は最悪ですけどね」

 あたしは深く溜息を吐き、消えた秋塚クローンの跡を見下ろした。

「う、うおおおお!すっげえ!やったな!!」

 投げ飛ばされた形で静止していた坊主さんが興奮したように声を上げて飛び起き、目をキラキラ輝かせながらあたしの前まですっ飛んできた。

「春添碧も技も初めて生で見た!オレ津川智紀!同じ一年!宜しく!」

 言うや否や手を取られブンブンと大きく縦に振られる。勢いに負けてされるがままになっていると、茶髪の人が止めるようペチンと頭を叩いて止めた。

「いてっ」

「やめんしゃい。春添さんが困ってんしょ。大丈夫?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「今のもそうだけど、大分体力削られてんじゃない?一回みんないる所に戻った方がよさげ」

 茶髪さんの言う通り、たった二回の戦闘での疲れが早くも出てきたのか、手が痺れたように微かに震える。それに軽く舌打ちをして握り締めると、そっと手を覆うように握られた。顔を上げると茶髪さん。え。何故握る。

「大丈夫です。それよりあの人の方が…」

「あー、岩村?あいつ頑丈だから大丈夫大丈夫〜。なー?」

「ああ、問題ない」

 あたしがガタイさんに目を向けると平然とした様子でこちらに近付いてきた。確かにあの波動を受けたにも関わらずピンピンしているので、かなり頑丈なようだ。受け方もよかったのかもしれない。

「あいつは岩村努。オレは春日隆平。オレも春添さんに会ってみたかったんよ」

「オレもだ。会えて光栄だ」

「岩村がこんな嬉しそうな顔すんの初めて見た気がするわー」

「「(いや別に普段と変わんねえよ…)」」

 自己紹介を受け、岩村さんがあたしの手を握る春日さんの手を叩き落として握手を求めてきたので応える。視界に入った花宮さん達が気になり目配せをすると岩村さんと春日さんを見てじと目というか、少し白けた目を向けていた。

 ピンポーン

 その時、音割れをしている館内放送が院内に響く。

《只今、一階のボスが倒されました。一階攻略おめでとうございます。この調子でどうぞ頑張って下さい》

 低いモザイク声が流れた。このタイミングという事はさっきの秋塚クローンがこの階のボスだった事になる。確かに強かったから納得。
 にしても言い方癪に障るな。何がどうぞだ。

 ボスが一体倒せた事で安堵の息を吐いた伊月さんが岩村さん達に声を掛ける。

「三人は何で此処に?」

「あ〜。さっきまで二階にいたんだけど、この子がいるって聞いて会ってみたさに勝手に来たんよ」

「聞いたって誰にだ」

「黒子達!」

 花宮さんの問いに津川君が答えた。じゃあ黒子君達に会ったんだ。黒子君達に会った上であたしに会いたさ故に此処まで来てくれたと…古武術してるって言うし、あたしみたいな武術馬鹿なのかな。何にしても来てくれて助かった。

「まあ来たお陰で倒せたわけだしな」

「はい。ありがとうございました」

「どいたま〜。春添って呼び捨てでいー?」

「勿論です」

 根武谷さんに同意してお礼を言うと春日さんが頭に手を乗せて撫でてくる。ボディタッチが多いなと思いながら優しい手つきは嫌いではなく心地いいのでそのままにしておく。

「取りあえずナースステーションに戻るのだよ」

「だな」

 緑間君の言葉に正邦の三人の話も聞きたいし、と続けた伊月さん。満場一致で戻る事になり、あたしは庇ってくれた花宮さんを盗み見ると痛みは治まったようで平然と歩いていく様子を見て安堵の息を逃した。
 後できちんとお礼を言おう。

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