…逃げたなアイツ

【森山side】

《只今、一階のボスが倒されました。一階攻略おめでとうございます。この調子でどうぞ頑張って下さい》

「! 今の放送…」

「…春添か」

 三階探索チームのオレ達が廊下を歩いていると突然スピーカーから音がしてビクついたオレと若松。いやだって音割れしてるし…普通にこんな雰囲気の中じゃビビるだろ。
 宙に視線を向けながら呟いたオレに赤司が彼女の名前を出す。強いらしい彼女なら確かにやってくれそうだ。仕事が早いな。流石だ、オレの女神。
 ただ怪我をしていないかが心配だ。何かあったら野郎で体張って守れよ、と今更ながら床を睨み付けて一階に念を送っておく。

 そんなオレ達は三階に来てからというものの、特に怪異に出会う事なく色んな物を発見した。銃弾、鍵が掛けられた廃れた本、乾パンやビスケットなどの食料一箱分、ペットボトルの水1ケース。食料に関しては食べられるか微妙だが、持って行って損はないはず。いや、食べられなかった場合落胆はあるかな。

「怪異と全然会わないねー」

「一度戻るか?見付けた物結構重いしな」

 原と笠松の意見にみんなが頷き、二階のナースステーションに戻ろうとする。

「…待って下さい」

 踵を返して元来た道を戻ろうとすると赤司が制止を掛ける。足を止めて見遣れば、訝しい顔付きで先程まで進行方向だった廊下の奥を見つめていた。

「…何か視えるのか?」

「妖ではないです。誰かいます」

「ああ?…誰かそこにいんのか?」

 誰かいる。その言葉に赤司以外の四人で奥を見据え、笠松が声を掛けると、暗い奥の方からドアが開く音がした。
 キィ…と廊下に音が響く。雰囲気も相まってホラーだと思いながら緊張の面持ちで見据えていると、コツコツと靴の音が聞こえた。こちらに向かって歩いてくる。

 水を持っている若松、食料を持っている笠松、銃弾と本を持っている赤司以外のオレと原は武器であるハンドガンとライフルをそれぞれを構えた。撃った事はないが、怪異ならいよいよ実践の時か。そう思っていると、隠れていた奴が姿を現した。

「…男?」

 そいつは根武谷みたいなマッチョではないが、体格のいい男だった。ついでに顔もいい。

「あなたは誰ですか?」

「冬爪黒彦ふゆづめくろひこ」

「冬爪って、アレじゃん。玄武!」

 赤司の問いに答えた男。原は名前を聞いただけでピンときたようだ。

「北の武道家で通称玄武、柔道やってんだよね」

「ああ」

「じゃあ春添と同じ四神の一人か」

「そうなる」

 原と若松の問いに対し淡々と受け答えをしていく冬爪。何か機械的な返しだが、こんな奴なのか?と思っていると、冬爪は目力のある目でこちらを見据えた。

「僕は君達を排除する」

 この体格のよさで一人称が僕…とみんながちょっと微妙な顔をしたが、排除との言葉に緊張が走った。

「春添碧を誘き寄せる為、お前達には協力してもらう」

 春添さんの名前が出て目を見張った瞬間、オレの目の前にそいつが迫っていて気付けば床に背中から叩き付けられていた。

「森山!!」

「テメェ!!」

 笠松と若松の声が聞こえる。起き上がろうにも全身を打ち付けたようで直ぐには動けない。

「くッ…」

「次はお前だ」

 そう言って指差されたのは笠松だった。










【花宮side】

 一階での探索の成果は妖を退けてボスを倒したくらいだが、正邦を連れてAチームは二階に戻る。
 結局一階でナースステーションは見付けられてねえし、ない理由もわかんねえが、現段階で一応ボス倒して攻略出来たし取りあえず戻る事になった。まああそこに何か重要なアイテムでもあった場合また行く必要はあるし、その時の為にもナースステーションの謎は解明しておいて損はないだろうが、伊月の意見で攻撃を受けた春添やオレ、根武谷を診てもらうという事になった。

 二階に戻ると待機組が新しく増えた正邦の三人に驚きながらも迎え入れ、伊月達が説明している間にBチームもナースステーションの声を聞いて戻ってきた。そして一階二階共に、あった経緯を話している。
 何より驚いていたのは伊月がちょっと妖視えたかも発言だ。また一人霊感ありが増えたとか何とか騒いでいた。

 それを聞きながら、誠凛の監督にオレの傷を診てもらう。つっても痣も何も外傷はねえし、春添曰く波動ってやつで体の内側(所謂内臓)に攻撃を食らったらしいが、痛みも最初に比べてかなりマシになったところを見ると大丈夫だと思う。誠凛の監督も損傷は見られないとの事で、一時的な衝撃なだけだった。
 根武谷も叩き付けられていたが傷もなく、体の鍛え方が違うとの事で無問題らしい。怪物か。

 春添は食らった数が違う。主に腹部が痛むと言っていたが、少し痣になっているらしい。内臓に問題はないとの事。頭突きを食らった額は赤くなっている為、ナースステーション内の水道が使えたらしく氷ではないが水に浸したハンカチで桐皇マネに冷やしてもらっているところだ。

 妖に首を絞められ怪異に攻撃を食らって。悲惨だなと思いながら見ていると、視線に気付いたらしい春添がこちらを見て気まずそうに声を掛けてきた。

「あの…花宮さん」

「あ?」

「すみませんでした。あの、庇ってもらって…あたしの不覚です」

 代わりに攻撃を受けた事か。

「ふはっ!勘違いすんなよ。お前が怪我しようが本来ならどうでもいいが、妖が視えて唯一まともに戦える奴だから戦闘不能にでもなられたら困ると思ってやった事だ。誰もお前の体なんか心配してねえよ」

 そう言えば春添は目を丸くする。泣くか?と思ったが、苦笑しながら「ありがとうございます」と礼を言われた。邪険に扱われてるっつーのに、何礼なんか言ってんだコイツ。馬鹿か。

「素直やないんやで、ホンマ」

 黙れサトリ。話を終えて様子を見ていたらしい今吉がオレを見てニヤニヤしている。オレはちゃんと本音を言っただけだ。

「オレも春添に謝っとく」

「え?」

「疑って悪かったな」

 根武谷が気まずそうに頭を掻きながら春添に謝った。秋塚が自分はクローンだと言った時に疑った事だろう。オレも言わないだけで可能性として考えたが、別に疑っておかしな話ではないので訂正する気も何もない。後悔もしてねえ。
 図体デカイくせに案外律儀な奴だなと思っていると、春添はブンブンと顔を横に振りながら否定した。その動きに桐皇マネが少し驚いているが慌てて冷やしている。

「気にしてません。あんなの言われたら疑っちゃいますし、あたしも急に振られて吃驚しただけなので…」

 春添がそう言うと根武谷がガシガシと春添の頭を撫で回した。荒い。桐皇マネがまたしても邪魔が入り困っていた。
 その様子を見て春添が申し訳なさそうにハンカチを受け取り自分で冷やす。最初からそうしろよ。

「それより、皆さん協力してくれてありがとうございました」

 そしてオレ達に礼を言う。それを見て伊月が苦笑しながら春添の頭に手を乗せる。

「協力で礼とか仲間なんだからそこはいいだろ、もう。こっちこそ、戦ってくれてありがとな」

「…いえ」

 春添が笑い返す。仲良しこよしを見て胸糞悪くなってきたので顔を背けた。どいつもこいつも、幸せな奴らだな。

「あとは三階の奴らか…」

「赤司がいるから大丈夫だろ」

 岡村の呟きに対して青峰が言う。赤司に対する絶対的な信頼ヤバイなと思っていると、春添が思い出したようにキョロキョロし始めた。それに気付いた桐皇マネが声を掛ける。

「どうしたの?」

「そういえば赤い着物の妖がいないと思って」

「あ…もしかしてオレが春添さんを助けてくれって言ったから、かも?借りが返せるならとか何とか言ってた気がするから」

 そういやコイツ、あの瞬間視えて聞こえたんだったか。伊月がそう言うと、春添が少し眉根を寄せた。
 
「…逃げたなアイツ」

 中々コイツも口悪いよな。
 呟いた言葉は近くにいた奴しか聞こえなかったようで、隣にいた桐皇マネや伊月が苦笑した。

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