それはこれを見ればわかる

 妖がいなくなった。確かに助けてもらったがもう少し利用しようと思ったのに…アイツ逃げやがって、くらいに思っていると視線を感じカウンターの方へ顔を向けた。そこにはふよふよと胡座で浮遊している例の赤い着物の妖。何だよ、いたの。

 逃げたとは人聞き悪い。

「だって事実じゃん」

 それよりいいのかい?

「何が?」

 上の階の奴ら。苦戦しているようだよ。

 ハッとして思わず顔を上げる。帰ってきていないのは赤司君達Cチーム。あたし達が戻ってきてからそう時間は経っていないが、妖の口振りやニヤニヤと面白そうに笑う意図が気になる。

「何か知ってるの?」

 騒がしいから見に行ってみたら面白い事になっていたからねえ。私が助ける義理もないが、最後に教えてやってもいいかと思ってね。

 もうこれで借りはきっちり返しただろう、と何だかんだ律儀だった妖はスッと姿を消した。怪異に会わないように身を隠すのだろうか。

 それより苦戦しているとの言葉。怪異に秋塚のような強敵がいた場合安易に突破出来ないのも頷ける。いくら策士の赤司君が一緒とは言え、みんな喧嘩の意味で戦った経験は少ないだろう。余談だがあたしの場合喧嘩は人間ではなく妖とするのが殆どだ。

 あたしの様子を見ていた桃ちゃんが心配そうに見ていたので妖が言った事を伝える。伊月さんはもう結構視えて聴こえているようで、ぼんやり影が視えノイズが聴こえる程度らしいがカウンターの妖の存在を認識していたらしく、やや険しい顔をして周りにも説明した。

「助けに行くか」

「誰が行く?」

「あたし行きたいです」

「でも春添さんもさっき行ったばかりで怪我もされてるんでしょう」

 日向さんと相田さんが提案し、あたしがそれに乗ると黒子君が心配そうに止めに入る。怪我はまあ痛いと言えば痛いが動けなくもない。

「大丈夫。それに秋塚みたいな奴だったら一筋縄ではいかないでしょ」

「オレも行く!もっかい春添とコラボする!」

「オレも〜」

 コラボって何ぞ。遊びじゃないんですよとジト目を向けるが、津川君と春日さんは楽しそうにしながらも真剣なようである。岩村さんが呆れたように溜め息を吐いた。

「津川と春日が一緒に行くなら大丈夫だろう。他は…木村行くか?」

「怪異にプロレス技試してみるのもありだな」

「接近戦だけじゃなくて遠近戦も視野に入れた方がいい。ここは射的が得意な人が行ったらどうだ」

 大坪さんと木村さんも話していたが、そこへ岩村さんが戦術として助言すると納得した大坪さん達が周りに視線を向けた。

「オレ射的好き〜」

「じゃあ紫原、行けるか?」

「でも行くのめんどい〜さっき行ったし〜」

「おい」

 なら何で名乗り出た。木村さんとあたしの心が一致した。

「オ(レ)も得意ッスよ!!エアガンも持って(る)ッス!!」

 早川さん。勢いよく手を挙げた彼を周りが意外そうに見つつ、それでもお祭りが似合いそうだなと思えば納得出来た。

「じゃあ早川、頼むぞ」

「うっす!」

 小堀さんに言われて頷いた彼と春日さん、津川君の四人で早速三階へ向かう事になった。
 正邦の二人は素手でいけると言うが念の為ナイフを一本ずつ持ち、あたしは鉄パイプを持って早川さんは先程氷室さんが持っていたライフルを持つ。アサルトライフルという銃でG3シリーズだの何だのと興奮して言っていたがあたしにはよくわからない。

 あたしは興奮している早川さんを促し、急いで三階に向かった。










 三階に着いた。最初にいた時と変化は特に感じられず、一回の時のように妖が影響を成している様子はない。
 物音は聞こえず、戦う音でも聞こえるかと思ったが静か過ぎるこの雰囲気を怪しむ。

「静かー」

「ですね」

「取りあえず進もう!!」

「「もっと声抑えて」」

 津川君の元気な声を聞いてあたしと春日さんの声がダブる。素早い指摘をしたあたし達を見て早川さんも察して口を結んだ。

 あたしと津川君が前に出て歩く。後ろは春日さんと早川さんに任せて前に集中して警戒していると、津川君に肩を掴んで止められた。

「?」

「何か聞こえた」

 しーっと人差し指を立てる津川君。足を止めたまま耳を澄ませると、暗い廊下の奥から呻く声が聞こえた。
 早川さんがライフルを構え前に出た。すると、コツコツと靴の足音が廊下に響き、奥から人が姿を現した。

「…あんた誰ー?」

「冬爪黒彦」

「冬爪って…」

「また四神!?玄武でしょ!って事はあと一人で全員揃うじゃん!」

 そこにいたのは程よく体格のいい男の子。春日さんの問いに答えた彼は冬爪と名乗り、その名前にはあたしも聞き覚えがあった。津川君が興奮したようにテンションが上がり、嬉々としたまま尋ねた。

「じゃあまた秋塚みたくクローンなの?それとも本物!?」

「それはこれを見ればわかる」

 冬爪君(仮)は懐中電灯をポケットから出して彼の後ろ、廊下の奥を照らした。そこにあった、いや、いたのは三階の探索に出ていたCチーム。

「赤司君!」

「主将、森山サン!!」

「若松サンと…あとガムの人!」

「原さんだよ!」

 津川君に思わず突っ込みながら、奥で蔓に拘束されている五人を見つめた。
 更に奥には廊下に不釣り合いな木が生い茂っている。そこから伸びる蔓に絡まれていて、五人とも気を失っているようにグッタリしていた。木も蔓も蠢いている。
 最初三階にはいなかったはずだけど、冬爪(仮)が用意でもしたのだろう。見るように促したという事は、敵という事。

 つまり、疑う余地なく秋塚と同じクローンだという事。
 あたしは冬爪に対峙するように鉄パイプを片手に前に出た。

「…あ」

 春日さんが声を漏らしたので耳を傾けると、木を見ながらそっと耳打ちされる。

「あの木の葉っぱが生い茂ってるとこ。何か木刀っぽいの見えね?」

「…本当ですね」

 葉の部分に突き刺さるようにあるのは見るからに木刀。自分の竹刀ではなかったものの、竹刀より殺傷能力のある木刀を見付けた事で少し気分が持ち上がる。何とかして手に入れたいな。

「彼らを返して下さい」

「それは無理な相談だ。春添碧を誘き寄せる為の駒をそう易々と返すはずもない。お前を倒した後怪異にでも取り込ませる。お前の後ろの奴らもだ」

 その言葉に他の三人も構える。

「春添碧は今作られている途中のお前のクローンにでも融合させよう。そうすれば完全体以上のモノが出来る。マスターも喜ばれる」

 あたしのクローンも作られてるんですか。まあ何となく予想はしていたけど…と思っていると、隙のない構えをする冬爪。あの構えは柔道か、とまた相性の悪さを感じながら三人に声を掛ける。

「あたしが冬爪の相手をします。その間に赤司君達をお願いします」

「おーよ」

「任せろ!ナイフ持ってきてよかった!」

「動いて(る)けど狙ね(ら)え(る)かな…」

 やや不安げな早川さんを信じる事にし、鉄パイプを平晴眼で構えた。

「春添碧」

 低い声であたしの名を紡ぐ冬爪。一度目を閉じた彼は、目を開くと同時に覇気を出した。

「勝負!!」

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