寿命だな

【春日side】

 春添が冬爪に向かって鉄パイプを振るう。直ぐさま反応した冬爪はしっかり筋肉のついた左腕で受け止め、右手で鉄パイプを掴み掛かる。それに気付いた春添は持たれれば力に負けて取られると思い鉄パイプを引いて後退し、体勢を整えてから再度袈裟斬りに打ち込む。

 その隙にオレ達三人が横を通り過ぎ、木の蔓に絡まれている五人の救出に向かう。地面を這うように蠢く蔓を避けながら一番近い赤司に近付き、体にしっかり絡み付いている蔓に手を伸ばすが、全く離れる気配がしない。というか強過ぎっしょ、頑丈過ぎ。

 その合間にもオレを捉えようと蔓や枝が伸びてくるが、ナイフを取り出し適当に片手で振り回して捕まらないようにする。弾かれる蔓はめげる事なく伸びてくる。

「あーもう!しつこいなあ!」

 森山と原の近くにいる津川も同じようにナイフで対抗しているが、振り切れない蔓に苛々した声を上げる。
 それと同時に、廊下に蔓延る木が唸りを上げるように低音を出す。このオレ達の物音に気付いて怪異が寄って来るのも時間の問題だな。
 怪異に負けるつもりはないけど、この木があると邪魔で仕方ない。

 何かゲームとかならこの木にも弱点があってそこを突けば力が弱まるとかありきたりな展開だけど、そうもいかんのだろーね。

 そんな事を考えながら赤司の体に巻き付く蔓を片手で持ちナイフで地道に切っていると、オレの背後で動く気配がして視線を向ければ伸びてくる蔓。

「春日先輩!!」

 津川の声が聞こえた直後、廊下に響く銃声。そしてオレの横を過ぎる風と背後で弾が当たって弾ける音。蔓は微塵に砕け恐る恐る視線を銃弾が来た方に向けた。

「え」

「…え!?今の早川サン!?」

 津川も目を見開いて驚きの表情で振り返れば、そこにはライフルを構える早川。
 喋れば煩い口は閉じられ、真剣な眼差しでオフハンドポジションで構えている。しっかりと頬をストックに付け、バットプレートは肩の前面に押し当てた完璧な構えで狙っている。

 狙いを津川の方に変えた早川は、また引き金を引き津川を狙った蔓を撃ち落とす。狙いも完璧じゃん。流石自称射的の名人。そこまで言ってなかったけど。

「すっげえ!!早川サンすっげえ!!」

 大興奮の津川は手元を見ずにスパパパとナイフを振った。オイ森山と原に当たっから!と心配になったが杞憂に終わる。どんな技だと疑いたくなるナイフ捌きで森山の拘束を解いた津川は蔓が届かぬようにと早川の方に投げた。
 オイオイ仮にも先輩だから。他校といえど先輩だから。

 早川は蔓の動きを読みながらオレ達の邪魔をしないように先制してくれている。その間にオレも赤司の拘束を解いて、肩を貸す形で急いで木から離れようとする。

「っ、う」

「! 赤司?」

「、はい……春日さん?」

 意識を戻した赤司が締め付けられていた体が痛むのか顔を歪ませながらも顔を上げてオレを確認する。オレがいる事に少し驚いたように目を見張るが直ぐに安堵したように僅かに口角を上げた。

「ありがとうございます。もう、大丈夫です」

「大丈夫ってお前さん…」

「それより、春添が戦っているんですね」

「お〜よ」

 体勢を立て直した赤司が離れると状況を読み取る為に辺りを見渡し、攻防を繰り返している春添と冬爪を一瞥した。
 そして木に目を留めると何かを見付けたように目を細める。

「あれは…」

「あー、木刀な。あれあったら便利だけどあそこ今は行けんしな〜」

 赤司が目を付けたのは木刀。葉の部分に突き刺さっているが、その近くにはいくつもの蔓が遮るように蠢いている。

「…オレが行きます」

「は?マジで言ってんの?そんなんまた捕まるっしょ」

「ナイフがあります」

 いやそれはオレも持ってる。そう意思を目に宿しながらナイフを持ち上げると、赤司が取り出したナイフを右手にしっかり持って苦笑した。

「でも早くしないと春添がもちません。彼女の持つ鉄パイプもそろそろ限界です」

 一刻を争うってか。仕方ないとオレは止めるのを止め、残りの原と笠松と若松を助ける事にした。赤司はオレが止めない事を確認すると直ぐに木刀の元へ向かう。
 蔓の動きを見破っているかのようにひょいひょいと避けながら近付き、漂う蔓をナイフで切り落としていく。

 蔓を切り落とす度に唸る木を不気味に思いながら笠松に絡み付く蔓を地道に切り離し、津川が原を救出する。そして津川は最後に一番離れている位置の若松を助けに入った。

「はあッ!!」

「うぐ…っ!!」

 ダァン!!と聞き慣れた音に顔を向ければ、春添が巴投げをされた後で床に背中を打ち付けていた。苦しそうに声を漏らした春添が締め技に入ろうとする冬爪を擦り抜けて回避し、後退するも追撃を受けて壁に吹っ飛ばされた。

「春添!」

 オレは呼び掛けながら笠松を救出し終え、蔓を黙々と撃ち落とし続けている早川の元に移動させる。
 そして春添に追い打ちを掛ける冬爪へ背後から回し蹴りを仕掛けた。

「! フンッ!!」

 不意を突いたとは言え流石は四神。腕で防いでオレの足を掴み床に抑え込む。無理な体勢が体に負荷を掛けるが、オレは冬爪の首の前側に掴まれていないもう片方の足の膝裏がくるように掛けて足の力だけで絞める。

「っ、生意気な」

「どっちがだっつーの…!」

 ギリギリと互いに絞め合う。視界の隅では赤司が木刀に手を掛け引き抜こうとしている。しかし簡単には抜けない。

「春日さん…!」

 痛む体に鞭を打って立ち上がった春添が鉄パイプを横一文字に振り翳す。防ぐ間もなく冬爪の側頭部に直撃した。

「「!?」」

 が、鉄パイプはボキッと音を立てて折れてしまった。それに目を見開くオレと春添。冬爪の側頭部は赤らみながらも大打撃を与えた様子はない。石頭かよ。

「寿命だな」

 鉄パイプの、か。春添はぐっと歯を食い縛ると折れた鉄パイプを突き刺すように振り下ろすが、絞め合っていたオレを持ち上げると春添の方に向かって投げた。
 簡単に絞めていた足は離れ春添を巻き込む形でオレは飛ばされ、二人で床を転がる。

「いっ、ぐう…!!」

「っ、て〜…!春添!」

 痛みに耐える声を背後で聞きながら直ぐに起き上がる。オレの重みと衝撃で春添が痛みに顔を歪めながら倒れていて慌てて抱き起こす。

「この程度か。このくらいの強さで秋塚が負けたとは…笑わせる」

 ゆらりと立ち上がった冬爪がまた構える。春添がオレの服を掴みながら倒れそうな体を支え、冬爪を睨み上げた。

「早川さん!此処を狙って下さい!」

 不意に赤司の声が廊下に木霊する。意識を向ければ木刀を引き抜く体勢のまま赤司が早川に呼び掛けていて、指し示す方は木の根元。銃弾を受けた跡があり、そこが弱点か何かなんかも。
 今まで無表情だった冬爪の眉がピクリと動いた。

「おう!!」

 早川が言われるままに狙いを定めて邪魔が入らぬ内に撃ち込んだ。すると一層大きく唸る木。気にしてなかったけど、さっき一瞬木の唸り声が大きくなったかと思ったがこれだったんかね。

 撃たれ唸った瞬間蠢いていた蔓が動きを一瞬止め、退くように幹に蔓を手繰り寄せる木。赤司は木刀が突き刺さっている所にトドメとばかりにナイフを突き刺し、木刀を思い切り引き抜いた。

 見事引き抜かれた木刀。それを見た冬爪が黙っているわけもなく、赤司に向かって行く。

「赤司君!」

「どっせええぇぇえい!!」

 春添がオレから離れて一歩踏み出すと同時に、煩い声が廊下に響き渡った。
 その声の主は若松で、ふんぬ!と重たそうな箱を冬爪に投げ付けた。何あれ?と思っていると冬爪が避ける為に後退する。若松は津川が助けたんな〜、ファインプレーファインプレー。

「春添!!」

 そしてその隙に赤司が春添に向かって木刀を投げた。

「させん!!」

 それに気付いた冬爪が阻止しようと手を伸ばすが、何かに弾かれたように木刀に手が届かなかった。行く手を阻まれ目を見開く冬爪。何が起こったんだと唖然とするオレの傍ら、春添は口角を上げた。

「ありがとう赤司君。黒胡麻ちゃん」

 黒胡麻ちゃん?と疑問符を浮かべていると、回転しながら手元に届いた木刀をしっかり受け取った春添は抜刀術の構えをする。
 うわ、この構え見た事あるわ。流浪する剣心の抜刀術にそっくりだわ。え、もしかしてあの漫画のファン?なあファンなの?

 片膝を着いて最も低い姿勢を保ち、項垂れるように頭を下げながら集中力を高める春添。さっきまでの痛みに顔を歪めていた様子は何処へやら、一気に勝負に出るように覇気が漂う。

「…フン。木刀を手にしたくらいで、僕に勝てるとでも思っているのか」

「“鉄より木が強いわけないだろう”…とでも言いたいんですか?」

 静かに紡がれる春添の言葉。冬爪が目を細める。

「安直な考えは捨てた方がいいですよ。木刀は竹刀よりも鉄パイプよりも、真剣に近いんです」

 そう言った春添の髪の隙間から見えた目は獲物を狙う目だった。

30/50
←|→

BACK/TOP
ALICE+