僕が聞きたいくらいです
【黒子side】
「……ん、?」
不意に目を覚ました。眠っていたのかとぼんやり考え、寝起きで働きにくい脳を動かそうとしながら上体を起こし、体を見れば寝ていたのに掛け布団はない。そこで自分の体が冷えている事、固い所で眠った時のように節々がやや痛む事に気付く。今まで寝ていたこのベッドは自分の物ではなく、まるで病院にあるような(薄汚れた)白いベッドだった。
そして辺りを見渡せば、そこは薄暗い廃れた部屋だった。
壁は茶色や黒と随分色褪せ汚れ、傷が付いている。ベッド以外に部屋にはボロボロの棚とロッカーしかなかった。
顔や手に当たる空気はゾッとする程冷えており、寒気がして自然と腕を摩った。ホラー映画にでも出てきそうな部屋ですね。あ、ちょっと待って下さい今のフラグ立てたつもりないですから断じて。
今の格好は部活のジャージ。時期は冬なので着込んではいるが、それでも肌寒い。
ベッドから降りるようとすると、ぐにっと靴で何かを踏んだ。靴を履いていた事に今気付きながら踏んだものを見ると、そこには真っ黒なジャージに青い髪の人。
「…青峰君?」
うつ伏せになっているが、身丈などから彼であると判断する。ジャージと髪の間から見える首が真っ黒で、薄暗い周りと同化している。言ったら本人に怒られるので言わないが。
うつ伏せに寝ている彼を仰向けにさせると、涎を垂らして爆睡していた。よく気持ちよさそうに寝られますね、こんな所で。呑気な寝顔に少し気が緩んだ。
すると、同時に青峰君はパチッと目を覚ます。
「……ん…あー、テツ?お前何でこんな所に…」
「こんな所って、此処が何処だかわかってるんですか?」
「…あ?あー…知らね」
完全に寝ぼけている彼の頭をバシバシ叩きながら起きるよう催促すると、面倒臭そうに頭を掻いて大きな欠伸をしながら起きた。そして辺りを見渡してから僕を見て一言。
「お前の部屋か?大分変わったな」
「そんなわけないでしょう。こんな悪趣味な部屋に住んだ覚えはありません」
「じゃあ何処だよ此処」
「僕が聞きたいくらいです」
そんな掛け合いをしていると、部屋にあるロッカーの戸が少し開き、キィ…と金属音が響く。
急な物音に二人でギクッと肩を上がらせ、見てはいけない気がするが見ずにはいられず、ギギギと緊張で固まる首を動かしそちらを向けば、僅かに開いた隙間。そして二人して顔を見合わせ、ゴクリと息を飲む。
この状況でこのシチュエーションは、あまりいい気はしないです。
そしてその勘は当たった。
突如バンッ!!と大きな音を立ててロッカーの戸が全て開いた。その中から出てきたのは、先日バイオなハザードの映画が新しく公開されると、流れていたCMに出ていたゾンビさんのような容姿。
ア゛アアアォォァ、ウ゛オォォ
「ギャアァァァァァァ!!!」
涙目で大絶叫をした彼を見て、ああそういえばホラー系が苦手だったなと思った。僕は青峰君の手を引いて立ち上がって走り出し、難なく開いた部屋のドアから出てその奇妙なモノから逃げるのであった。
ソイツは動きが遅くてロッカーが部屋の奥だった事もあり、僕達には追い付けていなかった。
駆け出したのは僕の方が早いのに、直ぐに立場が逆転して僕が手を引かれる事なんか大体想像していましたよわかっていましたよ青峰君のまっくろくろすけめ。
大分走ってから階段横の物陰に身を潜める。上がった息を整えていると隣の青峰君がうんざりしたような声色で静かに呟く。
「何だアレ…ゾンビじゃん…つかマジ此処何処だよオレ誰だよ…」
「ゾンビでしたね。何処かは知りませんが君は青峰君ですよ」
「知ってるわ!冗談だ!語呂よかったから言っただけだ!」
「静かにして下さい。隠れているのがバレちゃいます」
そう言うとぐっと言葉を飲み込んだ青峰君。そして渋々黙り深く溜め息を吐き出した。
「此処、病院みたいですね。それも廃れた」
「あー…廃病院ってやつか」
先程の部屋から出て此処に来るまで幾つか部屋があった。その一つに診察室、と書かれていたプレートがあった気がするので、廊下の構造的にも病院だと推測。しっかり調べないとわかりませんけど。
「あり得ねえ…帰りてえ」
怖過ぎだろ…と呟く彼に何と声を掛けようか思っていると、廊下でペタリ、と音がした。
「シッ。青峰君、静かに」
「あ?」
人差し指を口元に立てて耳を澄ませれば、ペタリ、ペタリとやはり足音が聞こえる。緩慢な足取りで、裸足で歩いているように聞こえる。青峰君にも聞こえたようで、彼の口元が引き攣った。
そっと物陰から音の聞こえる廊下を覗くと、廊下の先の薄暗い中に黒い影。その影はゆっくりこちらに近付いて来ていた。
顔を引っ込めようとした瞬間、その影は俯いていた状態だったのか、バッと顔を上げた。そしてニヤァ、と笑った気がした。
「またかよ!」
いつの間にか一緒に覗いていてまた叫んだ青峰君に対し、叫ぶともっと奇妙なモノが寄ってくるのではとちょっとイラッとしながら、先程とは打って変わって足早に迫ってくるソイツを睨んだ。影が迫る。
だがその瞬間、鈍い音がしたかと思えばソイツが前に倒れ込んだ。
「…やはりな。聞き慣れた声がしたかと思えばお前だったか青峰。黒子も一緒なんだな。二人とも大丈夫か?」
「あ…」
その影の背後にまた一つの影。それは白いジャージに赤髪を持った、見慣れた姿と声だった。
「あ、あ、あ、赤司ぃぃぃ!!」
物陰から飛び出ていつになく一目散に赤司君に縋り付く青峰君。キャラ崩壊していますけど大丈夫ですか。中学の頃は怖がっているのを必死に隠そうとしていたじゃないですか。
僕も後を追うように物陰から出ると、安心させるように声を掛けていた赤司君と目が合う。
「取りあえず此処から離れよう。他にも人がいるんだ。そっちに行こうか」
救世主の赤司君に後光が差していて眩しいです。青峰君と二人で拝むと苦笑された。
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