お前に決めた!
「まずは持ち帰った物を調べよう」
相田さんが意を固めたところで大坪さんがCチームの持ち帰った物を整理しようと声を掛けた。
一番気になるのは、鍵のついた本。南京錠がついて、随分廃れていて埃は被っているし本の端が破れ削れている。
「鍵は…」
「…ないよな」
大坪さんとその隣の木村さんが本を持って眺めている中で、日向さんが辺りを見渡すが伊月さんが頭を振って否定する。
「若松」
「ウッス」
「鍵壊してみぃ」
今吉さんに促されて本を投げ渡す大坪さん。若松さんが若干苦い顔をしたが言われた通り鍵の部分に力を込める。
「無理にして破れませんか?」
「破れたとしても鍵が外れるんなら読めるやろうでええわ」
桃ちゃんの言葉に対してあっけらかんと言った彼に思わず苦笑した。
若松さんが力を込める。手の筋が浮き立ち、頭の血管でさえも浮き出る程に力を込めているが、全くビクともしない。
「貸せ」
それを見て根武谷さんが声を掛けて受け取る。腕捲りをしている事で見えている腕の筋が浮き立ち、ボディービルダー顔負けの肉体美を見て少しだけドキッとしてしまったあたしはかなりの場違いである。ごめんなさい。
「…筋肉フェチ?」
「!? 違います!」
いつの間にか隣にいた相田さんがニヤけながら耳打ちしてくる言葉にビクッと肩を飛び上がらせれば、更にニヤニヤと笑みを深くする。男らしいなと思ったからであって相田さんが思うような事ではないと否定する。
赤司君が不思議そうな顔をしてこちらを見るので思わず目を逸らした。見透かされそうで怖い。
「ぐぬぬ…!開かねえな」
「チッ…じゃあ仕方ねえ」
この場で一番の怪力である根武谷さんでさえ開けれなかった鍵は余程頑丈なのだろう。何やら青峰君が溜め息を吐きながら前に出たかと思えば、静かに本を受け取り本を見下ろしている。
何か策があるのかと期待を持って見守っていると、桃ちゃんがやや眉を寄せて怪訝な顔をした。その顔の意味は?と疑問符を浮かべていると、何故か他のキセキの世代のみんなも同じ顔をしている。
「春添」
「?」
「お前に決めた!」
何やら聞き覚えのある調子でそう言いながらずいっと差し出された本。その本を見て青峰君を見る。本、青峰君と交互に数回見てから首を傾げた。
「やっぱり…」
「他力本願なら最初から受け取るな!馬鹿め」
桃ちゃんが額に手を当てて項垂れ、緑間君が苛ついた顔をしながら指摘する。
自信ありげに受け取っておきながら自分ではせずに最初からあたし頼みだった、という事でビンゴォ?…なんちゃって。
「その神に授かりし神聖なる木刀で叩き斬ってやれ!!」
「カッコよく言ってますけどキャラブレてますし何かムカつくのでやめてもらっていいですか」
ビシッと指差されたと同時に黒子君から手厳しいツッコミが入る。青峰君は気にせずあたしに押し付けるので、仕方なく受け取り床に本を置いた。そして木刀を頭上に構える、天の構えをする。
「…ふー…」
「……離れた方がいい」
あたしが深く息を吸い込み、吐き出す動作をゆっくり行う。そして集中を高めていると、何かを察したらしい岩村さんが近くにいる人達を離れさせた。
「おるるるぁああ゛ぁああ゛!!!」
この世界に来て一番、腹の底から巻き舌で発声をしながら木刀を力一杯振り下ろす。バァァァン!!と盛大な音を立てながら南京錠に木刀を叩き落とせば、勢いがつき過ぎてあたしの体が軽く跳ね上がり、埃も舞い上がって周りが少し咳き込む。
元の立ち位置に足を付け木刀を除けるが、鍵は割れる事もなく微塵も変わった様子がない。そして本も何の被害もなく静かに鎮座していた。
「駄目でした」
そう言って周りを見れば大分距離を取られていて少し傷付いた。そんなに離れなくても。
「…ちょっとやり過ぎじゃね」
「え、でも結局壊せてないし」
「いや、声が…」
「こんなの剣道では普通だよ。気合いが必要なんだよ」
青峰君がやらせたくせに、置かれた距離はそのままにドン引きの様子でそんな事を言われれば、もっと凄い発声をしている人はごまんといますけど!とムッとしてしまう。
拗ねたと思ったのか青峰君が誤魔化すように頭を撫でようと手を伸ばして近付いてくるので、逃げるように距離を置いた。すると次は彼がムッとして更に距離を縮めてくる。
「まあそう怒んなって」
「やだ。触んないで」
「…そう言われると余計に触りたくなるな」
「うわ…変態だよ、どうしよう桃ちゃん」
変なスイッチが入ったようにニヤッと笑った青峰君を見て背筋に冷たいものが走ったようにぞわっとした。桃ちゃんの所に逃げてヘルプを求めると、流石は桃ちゃん、守ってくれるように立ちはだかってくれた。
「碧ちゃんに触るの禁止!」
「お前が決める事じゃねーだろ」
「変態!」
「うるせえ!男はみんな変態だ!」
幼馴染み同士の言い合いを見て青峰君の意識が逸れた事を確認する。男はみんな変態の言葉に自分は違うと名乗りを上げる森山さんや高尾君を見つつ、静かに元の位置へ戻った。
「春添の攻撃を受けても全く変化がないのは可笑しいな」
「破れても可笑しくない威力だったっスよね」
「鍵を見付けるしかないって事だな」
笠松さんと黄瀬君が本を見下ろしながら言い、青峰君に文句を言ってスッキリした様子の森山さんが本を拾い上げ砂埃を払いながら言う。
「探索しかねーッスよ!!」
「だな」
早川さんが意気込むように言うとテンションを抑えるように小堀さんが彼の頭を押さえながら頷いた。
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