冗談じゃないよ

「ね〜、探索の前に腹拵えしなーい?」

「オレもそう思う」

 そんな中で紫原君と火神君が乾パン等の非常食が入っている箱の前にしゃがみ込み、箱を開けながら待てないとばかりに意見する。
 それに逸早く気付いた岡村さんが二人の前から箱を奪うと庇うようのその場から離れた。

「あー!ちょっと何すんの〜アゴ!」

「アゴ言うなァ!!これだけしかないんじゃ!それに食べられるかもわからんじゃろうが!」

 確かに食べられると確定していないし、最悪毒が含まれているかもしれない。そんな危険性がありながら早速袋を開けようとした二人を見て、随分食い意地が張っているんだなと思った。

 やいやい言い出した紫原君や岡村さん、その周りを眺めながら毒味をしてくれそうな妖がいないのが惜しいと思った。戻って来ないかな、着物の妖。

「安全性が確証するまで食わせる事は出来ん!」

「毒味すればいいじゃん!オレがする!」

「危ないじゃろうが!後輩にそんな事させられん!」

「別にそんな気遣いいらねーし!キモい!ケチー!アゴ!ケツアゴリラ!」

「くう…っ!言い慣れ過ぎて全く響かんわ!ハハハ!!」

「泣いてっけどな」

 紫原君の暴言に涙を流しながら笑う岡村さん。福井さんが哀れそうに見つめながら細やかなツッコミを送る。そんなにお腹空いたのかな。
 ふと箱を揺すった拍子に一袋零れ落ちたビスケットを見付ける。それを拾い上げ日付が書いていないのを確認し封を開けた。香りを嗅ぐが問題ない。色も特に問題なし。

 そんなあたしの行動に気付いたのは赤司君。あ、と口を開いた彼を視界に入れながらも素早く一つ摘んで口内へ誘った。
 サクッと齧り咀嚼する。

「「あ」」

「んー」

 もぐもぐと咀嚼をしているあたしを見て、食いしん坊の二人と周りが唖然とした。

「ちょっと何勝手に食ってんの!?オレのだけど!!」

「違ェよみんなのだよ!つか何食ってんだお前!!」

 凄い形相で迫ってきた紫原君と火神君にガクガクと前後に揺すられる。揺らされながらも嚥下したあたしは安心させるように笑おうとした。

「う゛っ!?」

「「!?」」

「ほら言わんこっちゃない!!どうするんじゃあ!!」

 突然胸を押さえて苦しみ出したあたしを見て二人は手を離し、岡村さんがオロオロしながら半泣きでこの状況をどうするのかと叫ぶ。揺すったから喉に詰まったとかは考えないんだね。

 胸を押さえながら俯くあたしに周りがどよめく。しかしお察しの通り、

「美味い」

「こんな環境でありきたりな事してんじゃねえ!!」

 当然嘘で、毒にあたった訳でもなく喉に詰まった訳でもないのでケロッとして言えば火神君にバシッと頭を叩かれた。普通に痛い。
 ちょっとふざけてみたくなっただけなんだけど、この状況での王道ネタは怒りを買ってしまったようだ。

「ジョークは程々にしてくれ。吃驚するから」

「すみません」

 苦笑した氷室さんにも注意をされて少し悄然としながら残りのビスケットを食べようとすると、その半分のビスケットを摘んでいる右手を誰かに掴まれた。顔を上げると同時に食べられたビスケットは、紫原君の口内に消えていった。

「あっ」

「食べていいなんて許可してないから。これもオレのだし〜」

「だからお前のじゃねえっつってんだろ!轢くぞ!」

 サクサクと咀嚼する紫原君がジャイアン的発言をしているのを聞いて宮地さんが青筋を浮かべた。
 まああたしは毒味をしただけで空腹ではないので、奪われたのは特に気にならず手を離してもらう。
 食べられると確定した事でどう配分するかをみんなが話し合い始めた。みんなも言わないだけでお腹が空いていたみたい。

 結果、他にも出てくるかもしれないし反対に出てこないかもしれないので、どうしても空腹が我慢出来ない人以外は食べない事にして、我慢出来ない人は少量分け与えられていた。

「春添ちゃん。本当危ないから相談なしに毒味とかやめろよなー」

「あたしお腹強いから大丈夫かなって」

「いやいや、賞味期限切れならまだしも毒入りだったら死んでるからね?賞味期限切れも侮れないけど」

 確かにそうだけどこんな事に時間掛けるのもと思ったからだと心中呟きながら、普通に心配してくれている高尾君にもちゃんと謝った。軽率と言えば軽率な行動だし。

「……」

「…何?赤司君」

 不意に視線を感じ見てみれば赤司君が無言で見つめてきた。じっと見つめる視線に居心地が悪くなって問い掛けると、ふわりと笑った彼はとんでもない事を言った。

「春添の行動を制限しようかと思ってね」

「えっ」

「飼い犬の躾は主人がきちんとしないといけないだろう?」

 か、飼い犬、だと。…怖い!
 待って。何でそんな話になったの?いつからご主人様とペットの関係になったの?

「あの…冗談キツイっす」

「冗談じゃないよ」

「……」

「嘘だよ。そんな目で見なくても」

 何が冗談で本気かわかんないのが余計に怖い。

「行動を制限するのは嘘じゃない」

 でも最初の言葉は偽りでも何でもないらしく、笑ってはいるが有無を言わせない雰囲気を感じ即座に頭を深く下げた。

「自重しますので許して下さい」

「わかればいいよ」

 ここで謝らなかったら本気で制限してきそうだし、次はないなと思えるような素敵な笑顔だったので謝って正解だと思った。赤司君を怒らせるべからず。

34/50
←|→

BACK/TOP
ALICE+