叫ばないようにね
【氷室side】
暗い階段を上へ登り三階の次に五階と記されている踊り場の壁を見ながら、本来ならば四階に位置する場所にある五階へと向かった。
先頭には春添さんと高尾君、その後ろにオレと、最後尾に木村さんと大坪さんの三年生が続いている。
まだ誰も踏み入れた事のない領域だ。全員が警戒をマックスに、緊張の面持ちで踏み込む。
一番に五階へと足を着いたのは春添さんだ。全員が五階へ足を着くと、彼女は足を止める。
「…何か感じるか?」
「いえ。特には」
じっと暗い廊下の奥を見据えながら、彼女は大坪さんの問いに答える。見た感じでは他の階と変わりない。
オレは横に顔を向け、更に階段が続いているのを確認する。五階と上の階の階段踊り場を見上げれば、そこには次の階を指し示す6/5の字。これで六階がある事が確定した。
「やはり四階だけないのかな」
「上は普通に六階か。…よくよく考えれば4って数字は死を意味するとかで病院の個室とかには使われないよな。それと関係ねえのかな」
「それは最初、あたしも思いました。単純に考えればそう思いますよね」
オレがそう呟くと木村さんが顎に手を添えながら難しい顔をする。確かにアメリカにも忌み数はあるし、他の国だってそうだ。日本では4を避ける事がある事は知っているが、ただ単純に避けているだけのように思えないのはこの世界だからだろうか。
春添さんが木村さんの話に同意を示しながら、五階の奥へと足を進めた。オレ達はそれに続く。
「…出来れば、」
「ん?」
歩きながら春添さんが何かを呟く。それを聞き取った高尾君が首を傾げて彼女の方を見つめると、春添さんは真っ直ぐ前を見据えながら続きを呟く。
「この階のボスが残りの四神ならあたしのクローンじゃない方がいいんだけど」
「えー?何で?」
後頭部に手を組みながら高尾君が疑問をぶつける。それに対して春添さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「得意なところも弱点も、互いに熟知していると思うから…正直やりにくい」
「あー…漫画でよくあるやつね」
高尾君曰く、自分の分身に手を焼くのは漫画でよくあるパターンらしい。確かに決着が着く想像がつきにくいな。
「そうじゃなけりゃいいね〜。…あ!」
不意に高尾君が何かに気付いて小走りで先へ走っていく。それに疑問符を浮かべながら続いていくと、廊下の隅に座り込んでゴソゴソしている彼。
「どうしたんだい?」
「テッテレーン!アイテムゲットー!」
声を掛ければ軽快な音を口に出しながら持ち上げたのは両手で程の大きさの古びた木製の宝箱。まるでファンタジーゲームに出てきそうなアイテムだ。
「よく見付けたね。色的に周りと同化してるから気付きにくいのに」
「それがオレの眼だかんねー」
へへっと笑った彼に春添さんが感心する。しゃがんでいた高尾君は立ち上がって、オレ達にもよく見えるように渡してくれた。
大坪さんが受け取り開けようとするが、やはり簡単には開かないようだ。
「壊してみましょうか」
「叫ばないようにね」
「…善処します」
木刀を持ち上げた春添さんに先程の気合いを思い出し冗談のつもりで言えば、ややムッとしながらそう言った。ちょっと拗ねてしまったかな。
「…ほっ!」
大坪さんが床に箱を置き、春添さんが両断するように木刀を叩き付けると、木の折れる音と共に簡単に宝箱は壊れた。というか、掛け声軽快だね。気にしているところが可愛い子だなと思った。
「おお!」
「流石春添ちゃん!」
木村さんと高尾君が賞賛を送り、壊れた宝箱の木屑の中から中身の物を出す。するとそれは古びた鍵だった。
「あれ!これってもしかして?」
「あの本の鍵、かもしれないね」
だとしたらgreat!あの何をしても開かなかった本が開くという事。他に鍵が必要な所は今の所ないし、大きさ的にも部屋の鍵などというより小さめなのであの南京錠にぴったりだ。
嬉しそうにする一年二人を微笑ましく見つめていると、何かに気付いたらしい大坪さんが人差し指を口元に立てる。
「シッ!…何か奥から音がする」
大坪さんの言葉に反応する前に、廊下の奥から何か固い物を引きずる音が聞こえた。
「…春添。どうやら願い通りにはいかないようだな」
「…そうみたいですね」
木村さんが奥を見て思わず小さく苦笑を浮かべた。春添さんが眉根を寄せながら頷き、体を奥の音のする方へと向けた。
その言葉の意味は直ぐにわかった。
奥から姿を現したのは、黒のセーラー服の上にベージュのカーディガンを着た少女。それはこの世界に来て見慣れた姿。
「この先は通しません」
そして聞き慣れた声。引きずっていた手に持つ固いそれを持ち上げる細い腕。固い木で出来たその切っ先をこちらに向ける。
「初めまして、あたし」
向かい合う少女、春添さんがにこりと微笑んだ。対してオレの目の前にいる春添さんは睨み付けるように見据えていた。
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