出直して来い!!

【相田side】

「視えるならこっちのもんよ!やってやるわ!掛かって来なさい!」

 何処から出したのかは追求しないが葉山君から受け取った春添さんが愛用していたという刺股を持ち柄をダンッと音を立てて床に着きながら、まるで試合の前に選手へ鼓舞を送るように気合いを入れて声を張った。

 勿論恐怖心はある。でも視えない相手ではなくなったし何たってあの赤司君もいる。やってやろうじゃないの。さっきの仕返ししてやるわ。

 作戦は至ってシンプル。私が囮となって注意を引き付ける。その間に赤司君が床から本体を誘き出し倒す。
 本体というのも、先程銃を床の顔に目掛けて撃った際にあまりの痛みでか首まで頭が出てきたとの事。だからちゃんと本体がいるのではないかと推測を立てたらしい。

 情報が少ない中、取りあえずそれに賭けるしかない。

 私は桃井さんの守護者のお陰で視えるようになった眼を凝らし、床の妖に集中した。そして試しに(この呼び方はあんまり好きじゃないけど)読み取る眼アナライザー・アイを使ってみる。
 すると顔の周りに数値化された数字が並んだ。どうやら霊感が覚醒しただけではなく、妖相手にも身体能力の数値化は通用するらしい。

 そこで一番数値が低い部分を見付けた。赤司君を見れば同じ所を見据えている。

「赤司君」

「…はい。どうやら考えている事は同じのようですね」

 赤司君は銃を持ち直しながら頷いた。私は柄を持ち刺股のU字金具部分を妖に向ける。

「妖や私相手に勝てると思ってるの?春添碧なしで。無謀ねえ」

「…私達だってねえ」

 クスクスと小さく笑う夏富さんにヒクリと口元が引き攣り米神に青筋が浮かぶ。後ろに控えている桃井さんがヒッと小さく息を飲んだ音が聞こえた。

「あの子に守られっぱなしじゃないっつーのよ!ナメんな小娘がァァァ!!」

 私が数歩踏み出し距離を縮めて刺股を振りかぶると、夏富さんが素早く矢を一本放つ。私はそうくると先読みし、それを見越して刺股を自分の中の最速で振り下ろしていて、タイミングがかち合い矢を叩き落とした。

「なっ」

 まさか叩き落されるとは思わなかったようで驚く夏富さん。死ぬかと思ったけどタイミング合ってよかったわ…しかし本当にナメてたわね小娘。
 そして気付いていないと思ってたんでしょうけど、夏富さんに気を取られた私を捕まえるべく静かに忍び寄っていた妖に勿論気付いていた私は、勢いを殺さずそのまま床へとU字金具を叩き付けた。まさか攻撃が当たるとは思っていなかったらしい、彼女同様高を括っていた妖の鼻へ直撃した。

 まあこれはまぐれなのだが、狙っていたのは鼻。数値が低かった部分が鼻だったのだが、奇跡的に当たった。当たってしまった。

 痛ァァァ゛アあァぁぁ!?

 激痛を訴える声を上げた妖はぬっと床から顔を出し、鼻血を出しながら私の前にズイッとその大きな顔を突き出した。

「きゃっ!」

 普通に痛いんですけど!?

 眉と目尻を吊り上げ怒りの形相を浮かべる妖は、髪がない初老の男性の顔で、般若のように怒ったその顔に思わず叫ぶ。そして痛みを訴えたかと思えば、大きく口を開いた。目の前には不揃いな歯と舌と喉の奥。

「リコさんっ!」

 桃井さんが私の前に出た瞬間、大口を開けた妖はバチバチと桃色の電気を走らせながら弾かれた。

 ぐァあっ!!

「痛いのが嫌ならオレ達に歯向かわなければいい」

 怯んでいる妖に向かって冷静に言い返す赤司君は妖と私達の間に入り、銃を構えた。そして二発、両耳の耳朶へ当てる。その痛みに妖はのたうち回って悲鳴を上げた。
 そして眉間へと銃口を突き付けると、静かに冷たく言い放った。

「元の世界に帰りたいなら引っ込んでいろ。邪魔をするな」

 う…ひィ…!

 赤司君の背中しか見えないので彼がどんな顔をしているのか、声だけでの判断だが相当な冷酷な顔をしているのではないかと推測する。だって赤司君の顔を見上げた妖がこれまでにないくらい怯えきっているんだもの。

 小さい悲鳴を上げた妖は尻尾を巻いて逃げるようにその場から姿を消した。

「くっ…よくも私の僕を…!」

「じゃあ次はあんたの番ね!やっとオレ達の出番!!」

 歯を食いしばりながらも弓矢を構えた夏富さん。しかしその背後にはいつの間にかニンマリと笑う葉山君がいて、彼の声に驚き振り返った夏富さんだが構えていた弓矢を蹴飛ばされる。その衝撃で弓矢は粉砕した。

「オレ達が移動してる事に気付かないとか致命的過ぎっしょ!」

「まだまだ修行が足りん証拠だな」

 静かにそう言った岩村さんはどっしりと構えていて、弓矢を壊され体のバランスも整っていない夏富さんの腰を背後から両腕で固定し、ヒョイと持ち上げた。

「出直して来い!!」

 そのまま後ろへ仰け反り、夏富さんの頭から盛大に床に叩き付けた。確かあれはジャーマンスープレックス。プロレス技ね、見事だわ。

 男性と言えど外見は女性。制服もスカートだったので丸見えのパンツに居た堪れない気持ちになったが、白目を剥いて倒れた夏富さんは砂煙になって消えていった。

 途端に静寂が辺りを包み、緊張の糸が解れた。
 ふう、と息を吐き出せば力が入らなくなりずるずるとその場に座り込む。刺股を床に置いて両手を着き、深く息を吐き出した。

「終わったぁ〜…」

「…終わりましたね!やりましたよリコさん!」

 桃井さんもしゃがみ込んで嬉々としながら私の手を取った。多分ちゃんとバリア張って防御出来たのと倒せたのが嬉しいのね。可愛いところあるじゃない。
 私は疲れから苦笑を返す事しか出来ず、取りあえず早く帰りたいと思った。

「お疲れ様でした。大丈夫ですか?」

「はは、何とか」

 赤司君の労いの言葉にも苦笑を返していると、葉山君が後頭部で腕を組みながらあっけらかんと話をする。

「いやーしっかし呆気なかったなー!実際も夏富とかいう人四神の中で一番弱いのかな?」

「体術が優れている三人と比べれば確かに弱いとも言えるかもしれんが、本来的への命中率は100%だと思うぞ。まあ接近戦向きではなかっただけの話だ」

 何処かに潜んで狙われていたらもっと状況は変わっていた、と言う岩村さんの言葉に少しゾッとした。よかった。素直に姿表して出てきてくれて。

 その後探索を続けようとの話になったのだが、立ち上がろうとしても腰が上がらず冷や汗が流れる。

「? リコさん?」

「…こ、腰抜けちゃった…かも」

 引き攣った笑みを浮かべるとみんなはキョトンとしてから少しだけ笑って、桃井さんが肩を貸してくれた。そして一度ナースステーションに戻る事になった。

「面目ない…」

「気にすんなって!慣れない事だらけなんだしさっ!」

 悄然とする私に葉山君が明るく声を掛けてくれる。方や桃井さん、方や葉山君に支えてもらいながらナースステーションへ一行は戻る。

 ピンポーン

《只今二階のボスが倒されました。二階攻略おめでとうございます。もう少しペースダウンしながら頑張って下さい》










【高尾side】

「あ…」

「ッ…春添ちゃん!!」

 床に仰向けに倒れて一切動かない春添ちゃん。その光景にオレ達は足が地面に根を張っているように動かない。
 オレの声に反応しない春添ちゃんの元へ、もう一人の春添ちゃん…クローンが歩み寄りながら自身の口元の血を手の甲で拭った。

「あなたの言う出来損ないに負ける気分はどう?悔しい?恥ずかしい?」

 クローンはしゃがみ込んで顔を覗き込むが、彼女から反応が返ってこずつまらなさそうな顔をした。

「反応なし、か。仕方ない。じゃあ今の間に味見をしようかな」

「な、にすんだテメェ…春添ちゃんから離れろ!!」

 春添ちゃんの背中に手を差し込みゆっくり大切そうに上半身を起こしてあげるクローンの仕草に、一見すれば手厚い看護をしているように見えるが、嫌な予感が止まらない。何をするのか確認するよりも離れろと声を上げたが、クローンは大きく口を開いて春添ちゃんの肩口にがぶりと歯を立てた。

「やらやだ」

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