あたしと同じ考えだったね
横薙ぎに払われた木刀を跳躍して避け、次いで宙に浮いた状態のままクローンの顎を目掛けて蹴り掛かるが後退して避けられる。着地と同時に面を打ち込もうとするクローンに気付き、咄嗟に白刃取りで受ける。そして両手でしっかりと掴んだ。
「! 真剣だったら斬れたのに…残念」
「このまま受けてたら頭割れてあたし死んでるよ。守るのは当たり前でしょ」
クローンは抜き取るように引き、あたしは奪い取るつもりでぎっちりと掴んで離さない。ググッと互いに力を入れており次の行動に移さない。
「離して」
「嫌だよ」
「あたしの、だっつーの!!」
クローンがあたしの鳩尾を目掛けて蹴りを入れる。体がくの字に曲がりクローンはニヤリと口角を上げ、後ろに控えている大坪さん達が息を飲んだのがわかった。
「!?」
しかしあたしの体は崩れ落ちる事なく木刀を掴んでいる両手のうち左手のみ離してクローンの足首を掴み、利き手である右手でしっかりと木刀を掴んだまま顔を上げた。
「あたしと同じ考えだったね」
「!」
掴んだ足首を引っ張り体勢を崩したクローンが床に背中を打ち付けて転ぶ。その一瞬で緩んだクローンの手から木刀を抜き取り、掴んでいる足の太腿に木刀を振り下ろした。
「ぐああっ!!」
骨の折れる音が聞こえ、木刀を伝って手に伝わる。これで簡単には立てないはず。
手を離し、痛みに悶えている隙に自分の木刀を取ろうと一歩踏み出した瞬間、クローンは床の上で半回転し木刀を廊下の奥蹴り飛ばした。
「あっ」
「さ、せない!!」
次いで手の届く範囲にいるあたしに飛び掛かり、襟首を掴んでクローンは頭を振る。
ガッ!!
「春添ちゃん!!」
ぐわん、と脳が揺れる。強い頭突きを食らった瞬間、一気に脳へ映像が流れ込んできた。
薄暗い部屋で無造作に寝転がされた人。
箱などの狭い空間に敷き詰められるように隠された人。
手術台に手錠や足枷を付けられて拘束され眠る人。
…吐きそうだ。そう思い目を強く閉じた。
「うっ…!」
「…チッ」
急激な吐き気を催し堪えるように歯を食いしばる。すると頭突きを食らわせた張本人も忌々しげに舌打ちをしていて、あたしの襟元を掴んでいた手を突き離し奪った木刀を奪い返していった。目を閉じているあたしにはクローンも痛みを堪えるように頭を抑える姿を捉える事は出来なかった。
「春添さん!」
氷室さんの声が聞こえる中よろけたあたしが床へ倒れ込み体に走る痛みに堪えながら片目を開けると、歪みぼやける視界の中見覚えのある姿がそこにあった。
「!? まだいたの…!」
そこには先刻の戦闘中に気を取られた、箱を担いだ小さな妖達。目の前に倒れてきたあたしを見上げてわーわー言い合い吃驚している。かく言うあたしも吃驚だ。まだこの付近でウロウロしているとは…戦闘してるんだから普通なら巻き込まれないように逃げるはず。
何故まだ此処に、と思っていると妖のうち一人が小さく言った。
通れぬ。
そして指差す先には一部窪んだ床。確かに小さな妖には大きな落とし穴かもしれないが、思った事は一つ。
「避けて通りなよ…!」
廊下は広いんだから、と思わず出た文句。横目でクローンの方を見やれば倒れたあたしに近付けさせまいと、大坪さんと木村さんが銃を打ち、氷室さんが回し蹴りなど体術で後退させていた。片足の太腿を砕いたはずなのに動けるってどういう事なんだ。
吐き気は治まりつつある中で、今の内にとあたしは手の平で覆える程の窪みに手を添え穴を塞ぐ。
穴がなくなった。
おお、通れる。
ありがたや。
そう言って妖達はあたしの手の上を通って箱を運ぶ。その中身が気になりながらも、早く渡れと思った。
無事に渡り終えた妖達は揃って頭をペコリと下げて廊下の端を歩いて行く。
「邪魔ァ!!」
ガッと固い物を弾く音が聞こえ音の方へ顔を上げると、大坪さんが手を押さえ彼の持っていたであろう銃が宙を舞っていた。木村さんがそれを見てクローンへ銃を向けるが、それよりも速く間合いを詰めて彼を蹴飛ばす。
氷室さんへ狙いを定めたクローンは彼の目を目掛けて木刀を突き出すが、寸前で避ける。しかし体勢を崩している氷室さんの軸足を引っ掛けて転ばせた。
「死ね」
大坪さんの銃をキャッチし無防備な大坪さんへ銃を向け、狙いを定めた。
「大坪!!」
木村さんの声で弾かれるように立ち上がったあたしは、大坪さんに飛び付くように駆ける。
ドンッ!と銃を撃つ音、左肩を掠める痛み。それらを感じながら大坪さんを巻き込んで床へ雪崩れ込む。
「…高尾!!」
「ッハイ!!」
驚いたように目を見張りながらあたしを見下ろした大坪さん。クローンがニヤリと笑って木刀を掲げている様子を感じ取り、彼が声を張り上げる。すると今まで息を潜めていた高尾君がクローンの背後、廊下の奥から返事をしそれに驚いたようにクローンが反応していつの間に、と振り返る。
瞬間、クローンの脇をすり抜けて木刀が飛んできたのを咄嗟にあたしが受け取り、ジャリッと靴を擦り鳴らし踏ん張ったあたしは思い切り渾身の力を込めて胴を打ち込む。クローンは廊下の奥まで吹っ飛ばされ、壁や床に打ち付ける音と共に姿を消した。
高尾君のいる方へ飛ばされたので目を剥いて彼が吃驚していたが、持ち前の反射神経で避けていた。
「あっぶねえ!吃驚した!」
「ごめん。…ッ」
心臓を押さえながら駆け足で戻って来た高尾君に対し大坪さんから離れながら謝るが、視界が揺れて体の力が抜ける。
「肩の傷が…」
「…一旦退却する。まだ奴は倒せていないが春添が限界だ」
氷室さんがあたしを見て悲痛な表情を浮かべながら、噛まれた肩に受けた応急処置の布を染める赤と、その付近を銃弾が掠め傷になっている部分を見る。大坪さんがあたしの状態を見て判断し、横抱きにして抱き上げる。
木刀は高尾君が持ってくれた。
「急げ!」
奥から微かな物音を聞き取ったらしい木村さんの促しを受け、一行は二階へ戻った。
「…もう少しだったのに」
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