ほら、やろうよ
元々整った顔立ちをしていながら見ている限りでは綺麗な笑みを浮かべる黄瀬君の急な変わりように心中ビビりながらも、相田さん、伊月さん、黒子君と順に赤司君にしたのと同じように記憶を送った。難なく三人共成功し、こんな事も本当に出来るんだと自身の額に触りながら感心している三人は何だか可愛く見えた。
「確かに…顔付きや髪型が虹村先輩と灰崎君みたいな感じですね。もう一人は…何だか知っている気がするんですけど、顔がはっきり見えなくてわかりません」
「黒子もそう思うか。オレもだよ」
閉じ込められている三人の内の二人は黒子君達の知り合いらしいけど、残りの一人がわからないと首を捻る黒子君と赤司君。性別は恐らく男性。相田さんと伊月さんは心当たりがないようでピンと来ず考え込むような顔をしている。
「春添ちゃん」
「?」
「オレにもやって。デココツ」
不意にトントンと肩を叩かれて顔を向ければ、呼び掛けた本人である高尾君が期待の込めた目を向けている。デココツと言われて先程のやつだと直ぐにわかったが、真意が理解出来ず首を傾げる。
「高尾はする必要ねえだろ」
「霊感覚醒してないんだろう?」
「まさか下心で言ってるんじゃ…」
宮地さんと大坪さんがあたしの言葉を代弁するように疑問を投げ掛ける。そこへ怪訝な顔をしながら木村さんがそう言うと、あらぬ疑いを掛けられて高尾君が少し慌てる。
「違いますよ!確かに可愛い女子にデココツされたらそりゃ嬉しいッスけど!」
「嬉しいんかい」
「いや、まあ…ってそうじゃなくて!もしかしたらこれを機に霊感が目覚めるかもしんないじゃないッスか!」
正直に嬉しいと言った彼に春日さんが突っ込む。そのやり取りに笑いそうになりながらも、高尾君の言い方だとあたしが可愛いと言われているようで、変な勘違いに繋がるし紛らわしいのはやめてくれと思った。思い込みも甚だしいかもしれないけど。
真意は彼の言う通り高尾君が望んでいる霊感覚醒の為であるようなので、協力したいと本心で言ってくれていると信じているので応じる事にした。
「僕が出来れば僕がするんですが…」
「誰が男同士デココツしてる所見たいよ」
黒子君があたしを見て気遣ってくれる。それに笑みを返していると高尾君がブハッと吹き出して笑っていながらも拒否を示す。目が怖いよ。
「オレなら出来そうだけど?」
「え!?い、いや、大丈夫!オレ春添ちゃんにしてもらうし!」
「遠慮しなくてもいい」
「…春添ちゃんがいい!!」
そこへ赤司君が冗談か否かにこやかに声を掛けたが、まさか赤司君がそんな事を言い出すとは思わなかったのか高尾君が目を剥いた。少ししどろもどろしながらも遠慮を示す彼に、見た感じ面白がっている赤司君が一押しすると高尾君があたしに泣き付いてきた。
その必死さに周りと共に若干引きながらも顔を押し返して引き剥がしながらさっさとやろうと思い声を掛ける。
「わかったから引っ付かないで」
「春添ちゃん冷たい」
「ほら、やろうよ」
塩対応…と消沈する彼の頭を両手で掴んで記憶を送る。急にしたけどじっとしている高尾君に少し笑ってしまった。
「…どうだ?」
あたしが手を離し距離を置いた所で成り行きを見守っていた緑間君が静かにそう尋ねると、高尾君はいつの間にか閉じていた目を開けて真剣な面持ちで口を開く。
「いい匂いだった」
「…轢いていい?いいよな?」
「…大目に見てやれ宮地。失敗だったんだ」
真顔でそんな事を言うのであたしは恥ずかしくなり片手で顔を覆う。心中を察してくれたらしい宮地さんが青筋を浮かべながら笑って近くにあったパイプ椅子を持ち上げようとする様子を見て、大坪さんが呆れた顔をしながらも止めた。
「ちえー。やっぱ駄目だわ」
先輩の様子を見て笑って誤魔化した高尾君は頭を掻きながらつまらなさそうに呟く。それを見てあたしは思わず声を掛ける。
「高尾君」
「ん?」
「霊感ある方が有利だし、協力する為に霊感覚醒を望んでくれているとは思うけど…無理しなくてもいいんだよ。霊感なんて本当はない方がいいんだし、此処を脱出出来たとしてもなくなるかなんてわかんないんだから…」
じっと見つめられて尻すぼみになっていきながらも自分の気持ちを伝えると、高尾君はニッと口角を上げて笑いあたしの頭をガシガシと撫で回した。急な事に目を白黒させる。
「無理してんのは春添ちゃんだろー。春添ちゃんや他の人が無理しなくていいようにオレも頑張りたいから、可能性があるってんなら覚醒したいだけ。あんがとな」
太陽のように明るく笑う彼が眩しくて思わず視線を落とした。そして頭をゆるゆる振るうと、高尾君は手を離しながら歯切れ悪そうに呟く。
「あー…でも、元々霊感がある春添ちゃんからすれば霊感欲しいなんて言ってるオレウザいよな。そこはごめんな」
「え、いや全然そんな事を思ってないよ。脱出する為だもん、仕方ない事だし」
「そ?ならいいんだけどさ」
軽い気持ちで言っているのではない事はわかっているので否定すると、安心したように微笑んだ。
その様子を見ながら、今までこうやってあたしに霊感があるとわかっても気味悪がらずに親身に接してくれる人は祖父母しか心当たりがないあたしは、初めての感覚に少し戸惑った。こういう状況だからこそ、受け入れなければならない状況だからこそ相田さん達が受け入れてくれているだけだとしても、あたしはこうやって気遣ってくれる事を申し訳なく思いながらも素直に嬉しいと感じ、温かく感じた。
高尾君とのやり取りを静かに見守っていた今吉さんがキリを付け、閉じ込められている人物がわかったのなら探索に出ようと提案する。みんなで話し合い、二つのチームを組む事にした。
あたしが行けない中あたしのクローンがまだ倒せていないという状況で、閉じ込められている人を探しながら戦う為に赤司君と黒子君、紫原君と岡村さんと春日さんの五人が五階へ行く。春日さんが中心になってあたしと戦うらしい。あたしと本気で戦ってみたいが、まずクローンから相手にしてみようという魂胆らしい。
そして閉じ込められている人を探す事を重点に、相田さんと伊月さん、日向さんと青峰君と黄瀬君の五人で探索チームを組む事になった。
出発準備をする2チームを見守っていると青峰君が渋っている様子が見え、本人は隠していたが怖がっていたから嫌なんだろうなと推測した。その影で小さくガッツポーズをして安堵している火神君が見え、もし選ばれなくて安堵しているのであれば彼も青峰君の同類だなと思った。
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