お前なー…人間ナメ過ぎ
【春日side】
「あの春添があそこまでやられるって事は相当強いんだろうな〜」
「あの子チートだもんね〜」
五階へ向かう中でオレが頭の後ろで手を組みながら歩いてそんな事を言えば、隣にいた紫原から同意を示される。チートな。マジでチートだよな。まあ他にもオレの前にチートな赤髪の奴もいるけど。
「春添のクローンなら納得は出来ますね。でも完璧に本人をコピーしきれているとオレは思いません」
「どういう事じゃ?」
「春添は春添だけだという事です」
まあ言いたい事はわかる。春添がああなったとはいえ、全てをコピー出来ているとは断言出来ない。からこそ今回ちゃんと確かめる。
「…やっと来ましたか」
五階へ続く階段を登り切れば、先へ続く廊下の奥で木刀を片手に座り込む影。春添のクローンだ。
スカートなのにも関わらず胡座とは…けしからんな〜。パンツ見えそう。
「このまま逃げ出すかとも思いましたけど…来てくれてよかったです。まあ本物のあたしはいませんけど仕方ないですよね。あれだけあたしに痛め付けられれば」
春添が先程の戦闘で折ったはずだという足を庇う様子も引きずる様子もなく、平然と立ち上がる春添のクローンが木刀を担ぐ。もう治ったのかね。流石怪異。
とはいえ痛め付けられたのはこいつも一緒なのにな。その言い方腹立つわ〜我らが春添を下に見られてる感じで。コピーのくせに。
「君は随分治りが早いんですね」
「あたしはゲームマスターに治してもらえるからね。でもあの子は可哀想…治してもらえる相手もいないんだから。あなた達もそんな事出来ないし」
要は役立たずって言いたいわけねー。殺意芽生えるわー。んなの自覚してるっつーの。
「この世界に食料はありました。治療道具はないんですか?」
「それって普通正々堂々と敵に聞く?面白いね、黒子君」
あ、今ちょっと黒子嫌そうな顔した。馬鹿にされてるように聞こえるもんな。
「いいよ、教えてあげる。ちゃんとした治療道具はあるにはあるよ。でも何処にあるかは教えない。自力で探し出してね」
そう言ったクローンはひゅんと風を切るように木刀を振り、切っ先をこちらに向け見据える。
「その前にあたしに殺られちゃったら元も子もないけど」
「そうならないように努力します」
黒子は負けじと睨み返すと、持っていたハンドガンを構えた。それに倣って各々の武器を構える。赤司と岡村は同じハンドガン、紫原はライフル。
オレは鉄バットを肩に担いでみんなより前に進み出る。基本的に体術で戦いたいところだけど、相手は木刀持ってるし剣術に長けてるからな、念の為。
「努力が実るといいですね」
クローンはふわりと微笑むと木刀を構えた。
オレもバットを肩から下ろすとお互いがジリジリと足を躙り進め、同じタイミングで地を強く踏み込んだ。
「ほっ!」
軽くバットを顔目掛けて振ってみるとそれを簡単に弾かれる。見た目では軽く弾かれたように見えるのに、何処にそんな力があるのか、まるで強い遠心力で持ってかれるように手からバットがすり抜けそうになった。重〜!やっぱ最初から本気じゃないとマジで死ぬかも。
「紫原ァ!お前射撃得意なんだったら積極的に援護宜しく〜」
「はー…めんどくさー」
出発前武器を選んでる時に射的やるって言ってたのを思い出しそう言えば、面倒とか言いつつちゃんと狙いを定める辺り多少なりともやる気はあるらしい。その背後で岡村が我が子を見るような目で見てるのは何なん?そんなにコイツがやる気出すの珍しいの?
「よそ見とはいい度胸ですね、あたしを目の前にして」
「高慢ちきな発言は痛いよ〜」
目前に迫ったクローンがオレの目を狙って突いてくるが、最小限の動きで頭をずらしギリギリ避ければ、突き出された木刀を掴んでやった。クローンが咄嗟に引こうとするがそこは男女の力の差。いくらコイツが超人のクローンであったとしても簡単には引き抜けず、目の前の奴は眉根を寄せた。
「お前なー…人間ナメ過ぎ」
春添のクローンだからって調子乗ってんじゃねーよ。自分でも驚くくらい低い声が出た。クローンは少し目を見張ると、忌々しげにオレを睥睨した。
それと同時にクローンの腹目掛けて鉄バットを突き出すが、相手は体を捻って避けると木刀から手を離さずにそのまま半回転する。オレが掴んでいる木刀を持ちにくいように捻り、取り返そうとしてるらしい。
変に怪我をするのも嫌だと思って素直に手を離し解放してやると、回転の勢いを殺さぬまま横一文字に木刀を振ってきたが、それを見越してしゃがんで避け足払いを掛ける。
体勢を崩したクローンの腹に足をめり込ませると、クローンの体は簡単に吹っ飛んだ。クローンは器用に体を捻って空中で体勢を立て直すと、転ばずに上手く着地する。
「体術の使い手との対戦は本当に面倒ですね…剣筋を見極められれば接近戦では体術の方が
上手のようです」
オレがよっこらせと体勢を立て直す中、クローンは蹴られた腹を摩りながらそう呟いた。しかし表情は余裕そのもので、奴はニタリと笑う。
「でもあたしも怪異の一人。人間には簡単に出来ない事をしちゃいます」
パチンと奴が指を鳴らした途端、空気が変わった気がした。
「こ、これは…」
黒子が何かに怯えるような声を漏らす。オレには空気が変わった気がするだけで何事かわからず疑問符を浮かべていると、赤司がオレの隣まで来て冷や汗を滲ませながら前を睨み据えた。
「…天狗」
赤司が呟いた途端、強い風が吹いた。
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