何かありそうね

【黄瀬side】

「ちょ…っと、待って下さい!虹村先輩が妖!?何でっスか!!」

「オイ、落ち着け黄瀬!」

「だって聞いた話じゃ虹村先輩はアメリカにいるんスよ!?この場にいるのもおかしいし、妖って何なんスか!!」

 オレが声を荒げると日向サンが宥め、青峰っちが慌ててドアを閉めたのがわかった。この騒ぎで怪異が寄って来る事を恐れたのかもしれない。
 でもそんな事を気にする余裕なんかなくて伊月サンと相田サンを見つめていると、相田サンが苦虫を噛み潰したような顔をする。

「…わからないわ。けどこの場にいるのがおかしいのは私達も同じじゃない。住む県が違うのにこうやって同じ空間に集まってるのよ?こうして私達がいるんだから、アメリカにいる虹村君がいる事に対しての疑問はそこまで私はない」

 相田サンは落ち着いた声色でそう言うと、言葉を続ける。

「けど一番の疑問は、妖…見た感じだと幽霊の状態で、虹村君が私達の目の前にいる事よ」

 妖の言い方を変えた相田サンにだんだん体が震えてきた。

「幽、霊って…」

「幽霊って事は死んでるって事なんじゃねえの」

 震える声でオレが呟いた後、オレがというかこの場にいる全員が察していた事を青峰っちが遂に口に出した。その瞬間頭を殴られたような衝撃を受け、気付けば青峰っちの胸倉を掴んでいた。青峰っちは何も悪くないってわかってるのに、聞きたくなかった事実を再度突き付けられた事が嫌だった。

「オイ、離せよ」

「青峰っち…!」

「思う事あんのはテメェだけじゃねえ。…離せ」

 青峰っちに凄まれて言い返せずゆっくりと手を下ろす。でもじっと見つめ続ければ、青峰っちの目も少し揺らいでいるように見えた。それを見て動揺しているのはオレだけじゃないとハッとする。

「…すんませんっス」

「別に。つか、オレら視えねえし、どんな状態かとか聞くべきじゃねーの」

 気にしていないと言った青峰っちは、視線をオレから霊感のある二人へ移す。
 ずっとベッドの上にいるであろう虹村先輩から視線を外そうとしない伊月サンが、視線をそのままに口を開いた。

「ずっと宙を見てる。ボーッとしてる感じだけど…青峰と黄瀬。もし何かあったらオレが守る。だから虹村君に話し掛けてみてくれないか」

 何かあったら、と言い警戒しつつオレ達の先輩という事もあって言葉を選びながら話している伊月サンは、一番面識があるのはお前達だろと言う。青峰っちと目を合わせて頷く。
 何もいない空間に話し掛けるって、凄く違和感を感じた。










【相田side】

 伊月君が促すと、二人はベッドに近付いた。ベッドの上で胡座をかいて座り、ボーッと宙を見つめている虹村君に私も視線を移す。

「……何言ったらいいんスかね?」

「あ?…何でもいいだろ」

 と言いながらヒソヒソと話し掛ける内容を相談している二人。自分達からは視えない存在に話し掛ける事に対して戸惑っているのがわかる。しかも相手は仮ではあるが幽霊だ。青峰君でも緊張とかするのね、なんて心の中で静かに思う。
 そんな二人に気付く様子もなく宙を見つめ続ける虹村君。日向君と伊月君は何があってもいいようにナイフを構えながら様子を見守る。

「あー…っと、えっと……虹村、先輩?」

 黄瀬君が一歩更に前に出て、慎重に声を掛けた。すると、虹村君の視線が黄瀬君に向いた。反応があった。

 …あ?………黄瀬?と青峰?

 今気付いた、とでも言うように虚ろな目を丸くさせてはっきり言葉を紡ぐ。会話も出来る。

 おー、マジで黄瀬と青峰じゃねえか!どうしたこんな所で。

「な、何か反応あったっスか?」

「ええ」

 当然聞こえていない二人は、虹村君の様子を聞いて来る。言葉をそのまま伝えると、反応があった事と昔と変わらない様子に安堵したのか表情を緩めた。

 ん?こいつら誰だ。

「初めまして、虹村君。私は2年の相田リコ。こっちが日向順平と伊月俊。黒子君の今のチームメイトよ」

 へぇ、そうか。黒子がいつも世話んなってます。

「あ、こちらこそ?」

 私達にも気付いた虹村君。虹村君の噂は中学の時に聞いた事がある。接点はなかったので、今こうして自己紹介をすると丁寧にぺこりと頭を下げられたので会釈を返す。律儀な人なのね。
 私の言葉と行動を見て内容は察したらしく霊感なしの三人が内容を聞いてくる事はなかった。

「虹村先輩こそ、こんな所で何してるんスか?」

 オレ?起きたら何か此処にいた。

「何て?」

「起きたら此処にいたんですって。いつ起きたの?」

 あー、ちょっと前くらいだな。…って、何でお前ら通訳みたいな事してんだよ。

 青峰君の質問に答えていると、私が二人に通訳しているのを見て疑問に思ったようで怪訝な顔をしながら指摘する。その言葉に伊月君と目を合わせて言いにくい事だがどうやら自分の状況に気付いていないようなので伝える事にした。

「非常に言いにくいんだけどね、虹村君」

 おう。

「あなた…多分今、幽霊なのよ」

 幽霊?へー。

 真剣にそう伝えたのだが、当の本人は他人事のように相槌を打つ。そんな反応?と目を丸くしていると、虹村君が考えるように視線を宙に投げ掛けた。

 …ん?幽霊?

「ああ」

 ………ハァ!!?

 確認するように呟いた虹村君に対して伊月君が肯定すると、暫く間が空いてから驚愕の表情を浮かべてぐりん!と伊月君の方に顔を向けた。理解するのに時間が掛かったわね。当たり前と言えば当たり前だけど。

 幽霊って何だよ!

「私と伊月君は霊感があるから視えるんだけど、他の三人は視えないのよ」

 霊感!?何じゃそりゃ、漫画の話じゃねーか!

 自分の薄く透けた体を見ながら冷や汗を滲ませた彼だが、ピタリと動きを止めると何かに気付いたように顎に手を添えた。

 あー、でも…だからか?

「何がだ?」

 何かさっきから体がふわふわするっつーか、後ろに引っ張られるような感覚すんだよ。

 私とのやり取りを三人に通訳していた伊月君が虹村君の言葉に対して疑問を投げ掛けるとそう言葉が返ってくる。
 ふわふわするのはわかる。幽霊ってふわふわ浮いてるイメージだし。だけど引っ張られるというのがわからず私も疑問符を浮かべた。

「後ろって…壁しかないけど」

 日向君が私の通訳を聞いて真ん中のベッドから虹村君の後ろを目で辿るとただの壁。

 何かこっちにあんのかも。

 虹村君はそう言うとふわりと浮いて壁際に寄っていく。普通に浮いて移動してるけど、本人気付いてるのかしら。
 私達も近寄り、黄瀬君が壁を拳で軽く叩く。コツコツとコンクリートのように重い音しか返ってこない。

「普通の壁っスね」

「どっかに抜け穴とかあったりしてな」

 青峰も同じように叩きながら、だんだん下に降りていく。黄瀬君は反対に上がっていき音の変化はないか確認していると。

 コンコン

「お」

 青峰君が叩いた床に近い壁の音が変わった。それに気付いた彼は調べるようにそこを叩き続け、音の変化の境界線を探る。

「此処に割れ目あるぜ」

「…本当だ」

 壁を触り続け青峰君が出した答えは、壁の向こうに人一人が入れそうなくらいの空間があるだろうという事。
 日向君や私も触って確認すると壁紙の貼り合わせ目というか切れ目というか、確かに僅かな溝があった。それをなぞると四角く縁取る事が出来る。その四角内と外では叩いた時の音が違う。

「何かありそうね」

 壊すか?

「うーん…」

 壁の前でしゃがみ込みどういう仕組みか探り続けている青峰君以外がしゃがんでいた体勢から立ち上がり、この不思議をどう処理しようか考えていると黄瀬君が何かに気付いた。

「あれ?何スかね?これ」

「何がだ?」

 私達のいる位置から少し離れた壁際に近寄った黄瀬君を日向君が振り返る。
 壁を触る彼の手元には薄暗い中でもわかるくらいの、少しだけ色が違う壁。直径5cm程の正方形のそれに触れていた黄瀬君は、ツンツンと突いてから笑いながら「ボタンみたいっスね」と言って押した。

 ガションッ

「うおっ!!?」

「「!?」」

「え!?」

「青峰君!?」

 その瞬間、しゃがんでいた青峰君が後ろに吹っ飛ばされた。反射的に立っていた私達が横に避けると、飛ばされた青峰君を見る。黄瀬君も音と声に反応して慌てて振り返る。
 しかし自分達の足元に何かがあると視界の端で捉え、青峰君から視線を移せばそこには長方形の白い大きなボックス。壁を見れば青峰君が憶測していた四角の大きさで穴が空いていた。直ぐにこれが収まっていて飛び出て来たとわかった。

「何これ…」

「いってぇな…急に何だよ!」

「オレっスか!?オレがこれ押したから!?」

「タイミング的にそうだろうな」

 青峰君に駆け寄る焦った様子の黄瀬君に伊月君が肯定した。そしてボックスに視線を向ける。

 青峰大丈夫か?つかこれ何だ?蓋あるし、開けてみようぜ。

 ふわりと私の隣まで来た虹村君は青峰君に怪我がないとわかり、目の前の得体の知れないボックスに意識を向け開けるよう促す。

「よし…開けるぞ」

 日向君が一つ息を吐いてから武器を床に置いて声を掛ける。私達は武器を持ったまま頷き、日向君がそっと蓋を開けた。
 
 …あ?オレ!?

 虹村君が切れ長の目を見開いた。彼の言う通り、ボックスの中には虹村君の本体と言うべきか…虹村君の体が手を組みながら眠っていた。
 正に棺に入れられた遺体のように。それでも、綺麗な顔をして眠っているように見える彼は到底死んでいるようには見えなかった。

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