…勘です

【黒子side】

 刺股。女性に似合わないイメージのそれは春添さんに似合い過ぎて、思わずお似合いですと言いたくなった。そんな彼女は柄を持ち、U字金具の部分を敵に向け戦闘態勢に入った。

「フッ…手荒な挨拶だな。流石青龍」

「だからドラゴンも青龍もやめて下さい。中二病臭くて好きじゃないです」

 青龍。そう呼ばれた春添さんは更に怪訝な顔をして、立ち上がっている偽物へ視線を向けた。
 青龍とは、おわかりの通り春添さんの異名である。春添さんは僕達と同じ帝光中出身で同学年、そしてある事に特化した才能を持つ。

「それで、答えは?」

「ああ。オレ様がボスだ」

「そうですか」

 質問の答えを聞いて春添さんは返事を返すと、一瞬で間合いを詰め刺股を横一文字に振った。腹に直撃したそれを受け踏ん張る事が出来ず、激痛で床に転がる偽物。

「弱いんですけど、本当にボスキャラですか?」

 その才能とは、剣術。
 聞いた話では幼い頃から剣術を嗜み、中学でも剣道部で大活躍をしていた。その為男子バスケットボール部のキセキの世代と同じくらい、“剣道部の青龍(ドラゴン)”は有名だった。噂などに疎い青峰君でも思い出せる程度に、だ。

 刺股を今此処にないであろう竹刀の代わりにと容易に使っている彼女。U字金具が使いにくいだろうが、それを感じさせないような刺股捌きだ。何処かで見付けたのだろうか。

「こんなレベルの奴ばっかりなら、さっきの放送では簡単にクリア出来ないって言ってましたけど難なくクリア出来ちゃいますよ。あたし達が選ばれて此処に来たなら…あたしを呼んだならこんな簡単じゃないはず」

 転がる偽物にU字金具を突き付ける。

「本当の事を言え」

 すると偽物はニヤリとうつ伏せながら笑った。

「…バレては仕方ない。確かにオレ様はボスじゃぶあっふぁあああああ」

「ボスじゃないならいいです、もう」

 格好付けながら偽物がボスではないと言ったが、途中で遮られ容赦なく頭を薙ぎ払うように潰された。頭は砂煙のように消えてなくなり、次いで体も消えてなくなった。結局赤司君とボスだと嘘を吐いていた、低級の怪物だったようだ。

 あっという間の展開に中々頭がついていかないが、春添さんは刺股を壁に立て掛けて置くと背負っていた肩掛け式の通学鞄から筆箱を出し、そこからカッターを取り出して僕達を拘束している縄を切ってくれた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 お礼を言うと微笑みながら言葉を返された。あれ、僕をちゃんと認識してくれているんですね。
 そしてカッターをしまい、立て掛けた刺股を再度手に取る彼女。そこへ青峰君が声を掛けた。

「ああやって倒すのか」

「いや適当。頭潰せばいいかと思ってやったら消えたから頭を狙ってるだけだよ」

 偽物がいたであろう場所を一瞥した春添さん。堂々と恐れる事なく立ち向かっていたが、口振りからしても初めて倒したのではないのだろうと思った。

「何故此処に敵がいると?」

「…勘です」

 氷室さんの問いに対して簡単に答えた。少しの間が気になったが、今は詮索はしない方がいいだろうと思い様子を見るだけにする。

「春添さん、だったかな?黒子君達とは知り合いみたいだね」

「同中なだけですが…春添碧です。宜しくお願いします」

「オレは氷室辰也。宜しく」

「…笠松幸男」

 ぺこりと笠松さんと氷室さんに頭を下げる春添さん。それに対し簡単に自己紹介をした二人。笠松さんは女性が苦手(黄瀬君情報)で目を合わせられず素っ気ない感じではあるが、春添さんは気にする様子なく蹴破られているドアから見える廊下を見た。

「まだあたしは他に誰とも会ってませんが、皆さんは?」

「此処にいる人だけです」

「じゃあ探しますか?」

 不気味なだけで特に何があるわけではなさそうな廊下から僕達へ視線を移す春添さんにそう返せば、探索でもするかと提案される。

「…黒子、青峰。コイツは本当にお前らの知り合いの奴なんだろうな?」

 不意に笠松さんに声を掛けられ僕達。先程の偽物の一件があったのでやはり警戒してしまうようだ。それが僕達しか面識のない人なら、尚更。

「偽物じゃねえって断言は出来ねえよ」

「でもあの強さは簡単に真似出来るものではないと思います。それに…春添さんの剣術は何度か見た事があります。違和感なく、彼女の技だと思いました」

 何度か春添さんが練習する様子を見かけた事がある。その際に見た構えや太刀筋にキレや威力は加わっているが、根本のそれらは見覚えがある。だからそう言い切ると、笠松さんはそれ以上深追いせずそうか、と黙った。

「…えっと、別行動にしますか?あたしは構いませんが」

 気を遣って春添さんがおずおずとそう尋ねてくる。会話を聞いて自分が異質に見られていると感じてしまったのだろうか。

「いや、大丈夫だ。…悪かった」

「いえ。あたしも逆の立場なら少しでも疑っちゃいますから。何があるかわかりませんもんね」

 笠松が詫びると春添さんは少し安心したように笑った。

 そして僕達は五人で他に人はいるか、そもそも此処は病院のどの場所なのか、このゲームの世界を知る為に探索へと出た。

6/50
←|→

BACK/TOP
ALICE+