行ってみようか

 ボスキャラ扮する低級怪物を難なく倒し、あれよあれよと四人と行動する事になった。前方に笠松さん氷室さん、次に青峰君、最後に黒子君とあたしの順に並んで探索を開始する。
 移動しながら此処に来るまでの経緯、どうやって怪物と遭遇したかなど話し合い情報共有を行った。あたしも幽霊の事は伏せてゾンビの事は話した。

「それにしても、春添さんがいた事には驚きました。今の所四人だけですがバスケ部繋がりなので、バスケ部だけと思っていましたし」

「あたしも吃驚した。そういえばあたしの事よく覚えてたね」

「有名でしたから」

 隣の黒子君に話し掛けられ顔を向けると彼もこちらを見ていた。
 部屋へ(殴り込みに)入った際、青峰君と黒子君を見た時は見覚えのある顔だったので驚いた。まさかこんな所で再会するとは。
 幽霊君。黒子君を密かに心の中でそう呼んでおきながらバスケ部の彼らと話した事はなかったけど、有名だったしカラフルなのでそれなりに覚えていた。

 あたしには人と妖の区別が付かない程の霊感があり、度々妖や幽霊と人を見間違える事がある。
 実は入学式で初めて黒子君を見た時に、影が薄過ぎて幽霊かと思った。入学後、普通に校内を歩いている黒子君を見て陰の薄い人間なのかと思い直したけど、スルーされてるし誰にも認識されていない様子を見て「あ、やっぱり幽霊なのか」ってまた思い直した。だから幽霊君と心の中で呼んでいた。
 その後虹色の世代…じゃないな。キセキの世代?が有名になり始めて噂が流れるようになった頃、キセキの世代達と共に歩き話す黒子君の姿を見て「あ、なんだ人間か」ってまたまた思い直した。本人からしたら失礼な話だが、それ程彼は存在が薄いのだ。

「あたしも知ってるよ。キセキの世代こそ有名だったよね」

「僕の事もですか?」

「うん。幻の六人目って黒子君の事でしょ?」

 そこまで言うと黒子君は眼を見張りこちらを丸い目でじっと見つめた後、顔を前に向けてやや視線を落とす。

「僕は影が薄いです」

「うん」

「(即答された…)影が薄い所為で普通の人には認識されにくいんですけど、特殊な眼を持つ方や一緒にいる事で慣れた方は僕を見付けてくれます」

 淡々とした話だが淡白な印象は受けない。彼の話に耳を傾け、横顔を見つめた。

「春添さんもさっき僕を認識して、あなたから話し掛けてくれました。春添さんが中学の頃から僕を認識していた事が本当なのであれば…春添さんは何か特殊な眼をお持ちなのではないですか?」

 こちらに大きい瞳が向いた。この子は観察眼に優れていると思う。あたしが氷室さんにあの部屋に敵がいる事が何故わかったか問われた時、霊感がバレるので幽霊の事を言う訳にはいかないし勘だと答えたが、こちらを探る視線を向けていたのは彼だ。あの回答では引っ掛かる部分があったんだろう。それを踏まえ、何か隠している事があるのではないかと探りを入れてきた。
 あたしは黒子君から視線を外し、前を向きながら言葉を紡ぐ。

「…そうかな。確かに黒子君を普通に認識出来るけど、動体視力がいいからとか?小さい頃から剣術習ってるし、動く物には反応しちゃうんだよね。動体視力があるって意味では特殊な眼を持ってるのかもね」

「…そうですか」

 あたしの見解では幽霊のように一般には視えないモノ、存在が薄いモノに見慣れているからこそ、黒子君をすぐに認識出来たんじゃないかと思っている。けど昔に色々あったので霊感の事を言うつもりはないし、動体視力っていう理由で勘弁して欲しい。
 そんな答えにそう呟く黒子君は納得していないような顔をしているが、あたしは知らないふりをした。

「話の途中に割り入るようで悪いけど、いいかな」

「「はい」」

 氷室さんに声を掛けられ二人で前を向き直し意識を向けた。

「階段が見えてきたぜ。これで此処が何階かわかるな」

 笠松さんが言う前方に見えるその階段はあたしが幽霊と遭遇した所だった。そういえば何階か確認し忘れてた。
 下へ続く階段の踊り場の壁に文字が書いてあり、何階か指し示していた。3/2と表記されており、反対に上に続く階段の踊り場には5/3と表記されていた。この事からこの階は三階という事になる。

「此処には四階はないんでしょうか」

「あ?」

「ほら、この上の階は五階と書かれています」

 黒子君が表記を指し指摘する。青峰君に倣ってあたしも視線を向ける。
 確かに普通に考えれば三階の上は四階だ。下の階が二階であるならばバラバラになっているわけでもあるまいし、四階が抜かされ五階表記は引っ掛かる。

「ゲームの攻略に繋がる何かがあるのかもしれねえな」

「メモしておきますか?」

「頼むよ」

 笠松さんの言葉を聞いて納得し、唯一荷物を持っているあたしが鞄からメモ帳とボールペンを出すと、今までの事をまとめる為にメモを取り始める。

 えっと…怪物の種類としてゾンビと化ける事が出来る怪物がいる、物理攻撃は効き現時点での対処法は頭を潰す、黒子君と青峰君の部屋にはゾンビがいた(夢中で逃げたので部屋の場所は不明)、氷室さんと笠松さんの部屋には怪物が来た、あたしがいたナースステーションには怪異はなし、あたし達のスタートする階は三階、四階がない、外には出られないが窓から見た風景は空が緑色…と。その他諸々細かい事を書いていく。

 あたしの横からひょっこりと氷室さんが覗いてメモの内容を見ていた。イケメンなお顔が近いので少しドキドキする。
 このメモ帳は誰に見られるかわからないから幽霊の事は書いちゃ駄目だね。気を付けよう。書き終わると爽やかな笑みで礼を言われた。成る程、これがスーパーイケメンか。

「降りるか?」

「いや、まだ三階を充分に調べ切れてねえ。焦らねえでしっかり今いる所を調べて行こうぜ」

 青峰君の問いに笠松さんがそう言った。青峰君は軽い返事をして後頭部で腕を組む。笠松さんの話し方とか状況判断とか見てると、主将でもしてるのかなと思うくらいにテキパキしっかりしてるなと思った。
 三階を探索しているうちに階段の構図が変わったなんて事ないと信じて、先に進む事にした一行。黒子君達が起きた部屋が何処かわからないけど、探索しているうちに見付けられるだろう。その時にゾンビがもういないなんて保証はどこにもないから気を引き締めないと。

 暫く歩くと、青峰君が何かに気付いた。

「あの部屋、明かりが漏れてるぜ」

 指差す方に全員が目を凝らすと、電気がついていない薄暗い周囲と比べドアの隙間から漏れる明かりが目立つ部屋があった。近付くと誰かがいる気配があり、人でなかったとしても何かあるはず。

「行ってみようか」

 氷室さんの言葉に頷き、静かに音を立てないよう気を付けながら部屋に近付きドアの前に五人が集まって耳を澄ます。

『今すぐ食べてあげるわねんっ』

 男の声で口調が女性のようで、ねっとり舐め回すような言い方に全員の鳥肌が立った。
 明らかな敵意の言葉を聞き、敵キャラが中にいるのは間違いない。あとあたし達と同じこのゲームに呼ばれた人もいるんだろう。その人達に向けられた言葉だろうから。

 刺股を握り締め、どうやって突撃して助けるか話し合おうと視線を交えようとした。

「お邪魔するよ」

 が、氷室さんは爽やかな笑みを浮かべて、まるで友人の家にお邪魔するようなノリでドアを開けて入っていった。

「おい!作戦練ってから入るだろうが普通!!」

「だって早くしないと食べられちゃうかもしれませんし」

 平然とそう言った氷室さんにあたしは唖然とした。
 ふと視線を開け切られたドアから部屋に巡らせれば、あたし達と同じく驚いている三人の人と、オネエやニューハーフと言われるような容姿をした男の人。牙を剥いているのととんでもない格好をしている容姿からコイツが敵キャラかと認識したが、当の本人は驚いた表情から変わり氷室さんにキラキラした視線を向けていた。好みなのかな。

8/50
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