FOR YOUオールと荒廃都市サバホラ
「あ、あれ?虹村先輩?」
「…何だ、この部屋」
黄瀬が素っ頓狂な声を上げる。呼ばれた虹村呆然と声掛けに反応する事なくそう声を漏らすと、その場にいる全員が部屋を見渡す。
見知った顔が揃っていた。
「いつの間にオレら此処に来たんだ?」
「オレトイレ行こうとしたのに…」
「オレは図書室」
それぞれが学校で生活していたはずが、全員が気付けばこの知らない部屋にいた。大広間のような、広い空間。廃れた赤い絨毯や暗い照明、ボロボロのソファーが不気味だ。
全員でこの広い部屋を探索する事になった。まずは出る方法をと窓やドアを調べようものの、大きなドアはあったが窓がない。そしてドアは開かなかった。
暫く探索を続け、結果密室だと判断。仕掛け扉などもないようなので、どうやって此処を出るかという話になった時、ドアの向こう側から音が聞こえてきた。
「…何だ?」
「足音?」
「…にしては、何か変な感じだぞ」
緑間と高尾と宮地がドアに近付いて耳を澄ませる。みんな口を噤み室内はシン…とし、外の音がよく聞こえた。間違いなく足音だが、大人数で、それでいて覚束ないような足音だった。
「…ゾンビの大群だったりして」
「…冗談はよせ」
呑気な原の言葉に花宮が静かに言うが、もしそれが本当なら、とホラーゲームのような事を考えたところでドアがバンッ!!と大きな音を立てて叩かれた。
その音に桜井は吃驚して若松の背後に隠れる。
『う、オあォォォ…ああ…』
『ぉぉぉ、あ゛ああ…アア…』
ドアの向こう側の明らかな異質な声に一同固まった。まさか、本当に。ドアに近付いていた緑間達三人は後退った。
『っ、こっちに来るな!!』
ドガガガガガガ!!
ドアのすぐ側で女の声が聞こえた。異質な声ではなく、恐怖を含んでいるがハッキリした口調。そしてドアの外で発砲する音が響いた。
『っ! 中に誰かいるんでしょ!?開けるから離れて!』
そう言われて考える間もなく全員がドアから離れる。また銃声が聞こえ、その後直ぐにピピッという電子音が聞こえた。
次いでバンッと蹴破って入ってきたのは恐らく先程の女の声の主。後ろ向きに部屋へ入り銃で発砲を続ける彼女の対面、つまりドアの外には多くのゾンビ、アンテッドと呼ばれるような異質な存在がいた。
「ひっ、ひぃ!?」
「くっ…!」
ドガガガガガガッ!!
弾を受けて血を吹き出し、腐った肉体を飛び散らせながらゾンビ達は進もうとする。しかし自分達の前で屍となったゾンビが邪魔をし、それに加え発砲され続けているので進めない。
異常な光景に、全員が息を飲んだ。桜井は最早気絶しそうなレベルだ。
そして少女は懐から手榴弾を取り出すと口でピンを外しそれを外に放り投げる。素早くドアを閉めると同時に、今度は外で大きな爆発音が鳴りビリビリと振動が伝わる。しかしドアは壊れなかった。
静かになった室内とドアの向こう側。なまえはふう、と一息吐いてカードをドアノブへ翳した。するとまたピピッと電子音が鳴る。
「これで絶対に開かないはず。はぁ…疲れた…」
へなへなとその場に座り込んだ少女。それに逸早く近付こうとした森山だが、笠松に止められそれは叶わなかった。
「だ、誰だお前」
日向が一番に口を開きそう尋ねた。その問いに少女はゆっくり立ち上がり、振り返る。
その姿は、何処にでもいるような少女で、華奢な体格に平凡な顔立ち。黒のブレザーの制服を着た少女だった。
「みょうじなまえです」
「此処は一体?」
「全体で言えば荒廃した都市です。此処はその都市にある廃ホテルです」
伊月の質問に対し出てきた回答は意味のわからないもの。状況が飲み込めない人が殆どで、赤司が口を開く。
「君は他に何か此処の事を知っているか?」
「少しは知ってます」
「君が此処に関係あるからか?」
「あなた達が来るより随分前からいるからです」
赤司のオッドアイに見据えられ居心地が悪くなったなまえは視線を落としながら答えた。その表情は暗い。
「先程の奴らは本物の怪物か?それと、どうして僕達がこの部屋にいる事がわかったんだ」
「ご想像通りゾンビです。…新しい人が来たらその場所に煙が上がるんです。煙が上がる意味を知能のない低級の怪物達は知りませんが、知能のある怪物もいてそいつらは気付きます。此処に連れて来られた人はまず必ず何処かに閉じ込められるので、そいつらよりも先に見付けて専用のマスターキーを手に入れる必要があります。私は助けようと思って此処に来ました」
「そうだったのか…ありがとうな!」
「お前が怪物じゃねえ証拠は?」
岡村が危険を冒してまで助けに来てくれた事を聞き感動して豪快に笑いながら礼を言うが、それを遮るように灰崎が問いを投げ掛ける。ピクリと眉を動かしたなまえは不満げな表情で答えた。
「…信じたくないなら構いません。死にたくないだろうから私が知っている情報は提供しますが、それを信じるか信じないかはあなた次第です」
「都市伝説よく話しとる人みたいな言い方やな」
今吉のちょっとしたツッコミになまえは恥ずかしくなり僅かに頬を赤らめた。今吉が空気を読まないツッコミをしたので一瞬重い雰囲気が崩れ掛けた。が、直ぐに立て直す。
「君は一人かい?他に人は?」
「いません」
「最初からずっと一人?」
「…はい」
氷室の最初の問いに即座に答えるが、二つ目には少し間があった事に引っ掛かりを覚える。
「嘘だな」
赤司が言い切る。
「さっき君は人が来たら煙が上がると言った。なら僕達の前にも人が来ていて、君は煙を少なくとももう一回は見ているはずだ。何故嘘を吐く?」
矛盾を指摘した赤司の容赦ない問いになまえは俯く。目を伏せる彼女を見据えていると、小さく声を出した。
「…私と一緒に来た人達は全員死にました。今は本当に私一人です」
「「!」」
「ご想像通りの死に方です。怪物は私達を殺しに来る。来て早々そんな残酷な事を聞きたくないかと思いまして、少し私なりに配慮したまでです。私が言いたくなかったのもありますが」
唇を噛み締め少し震えている様子を見るからに、その残酷な光景を彼女は見てきたのだと思い、黒子は眉を寄せて苦しい気持ちになった。
「辛かったですね。大切な人達が目の前で死んでいくのは」
「…大切な人達じゃないです。みんな初対面だったので、そんな親しい関係になる程一緒にいませんでした」
黒子がそう声を掛けるが、なまえは難しい顔をしながら否定する。語られる事実に黒子は目を丸くした。
「人を餌にして自分だけ助かろうとする人達なんて…」
一点を見つめながらなまえが呟いた。その言葉を拾った人は、此処に来て彼女が目の前で人が死ぬ光景を見る以外に辛い経験があった事を示唆していると感じた。
なまえは同情の目に気付くと咳払いをして切り替え、真っ直ぐみんなを見て話す。
「さっき見た通り怪物が沢山います。私達が此処に連れて来られた理由は知りません。戦ってこの都市から出る方法を探すしかありません。必要な情報や物資は与えます。頑張って下さい」
「頑張ってって…」
「私とは別行動でお願いします」
そう言うとなまえは部屋の奥に進み、角に近付くとノックをして音を聞く。そして突然銃で壁に穴を開けた。その強行にみんなが目を見張るが、壁が崩れて瓦礫の中から地下に続く階段が出てきた事に更に目を見張る。
「…今までのパターンでいけばこの先は恐らく安全な施設と繋がっています。そこに武器はあるし食料や治療器具もあります。準備が整ったら後は自分達でご自由にどうぞ」
「え、一緒に行動しないの!?」
「だって、私達面識ないですし…疑ってるんでしょう?私の事」
葉山が当たり前のように行動を共にする前提で話してきた事になまえは戸惑いながら拒否をした。
「私もあなた達を信用しているわけではありません。信じられるのは自分だけです。だからあなた達はあなた達だけで頑張って下さい」
じゃ、と手を挙げて階段を降りて行くなまえ。
ドアから出るには彼女の持つマスターキーが必要だが、外には先程のようなゾンビなどの怪物がうじゃうじゃいるので無防備には出られない。彼女の言う事が本当か嘘かは信じ難いが武器などが本当にあるならば、後をついていくのが最善だろう。そう判断した一同は同じように階段を降りて行った。
ドガガガガガッ
「うっ!すっげえ振動…!」
「あの子小ちゃいのによくこんな物平然と持てるよねー」
「それ程長い間いたのか、元々銃の扱いを心得ているかだな」
なまえの言う通り、階段を降りて長い通路を歩いて行った先には安全と思われる施設があった。そこで装備を整えた一同が、先に出て行ったなまえを探しつつ、この世界がどんな所か見る為に計画を練り班を組んで探索に出掛けた。
福井が銃でゾンビ数体を撃ったが、初めて扱う銃に添付されていた説明書を見たものの衝撃や目標が安定しないのでこんなんで大丈夫なのかと不安になった。そして紫原が肩に担いだ銃と、つい先程見付けた瓦礫の間を走り回って戦うなまえの姿を見比べてボヤいた。
それに対し赤司がそう答えるが、長期間いると言っても銃の扱いは慣れで済ませられる程簡単ではない。故に経験者か、はたまた身体能力や状況適応能力が非常に高いかだと赤司は思った。
「…こっちかな」
そして自分達には聞こえない微かな物音にも逸早く気付き、隠れている怪物を見付け仕留める様子を何度か目にしている。
今もその様子が見て取れたので、平凡そうに見えて能力が高そうな彼女を赤司はどうやって説得して自分達の近くに置き、彼女の事を知ろうか思案した。
桜様、最後のリクエストお待たせしました!
設定が四つ目と似ていたので、一緒にならないように配慮しましたが被っちゃっている部分があったらすみません。あと銃の扱いについては私が全く心得ていないので、濁す感じが多いですがご容赦下さい!
素敵なリクエストありがとうございました!
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