FOR YOU
緑間とギャルな彼女

 チュンチュン、と雀が鳴く清々しい朝。まだ登校時間には断然早い時間帯に、秀徳高校の体育館では朝練の為バスケ部の部員が集っていた。

「おい、緑間まだか」

「まだっすね〜寝坊なんじゃないですか?」

「あいつに限ってか?」

 宮地、高尾、木村が出入り口であるドアの方を見ながら会話する。
 そう、いつもなら一番に来ている秀徳のエース、キセキの世代No. 1シューターの緑間が珍しく来ていない。部員は皆不思議そうにしながらも練習準備を進めていた。

「寝坊だったらからかってやろーっと」

「程々にな」

 ケタケタ笑っている高尾に対し大坪が苦笑しながら言うが、その光景を想像して少し面白そうだと考えていた。
 その時、閉まっていた体育館のドアがゆっくりガラリと開いた。見えたのは緑色の頭。

「ちえー。間に合っちゃってんじゃん。おっせーよ真ちゃん!寝坊?」

 緑色を捉えた瞬間高尾が落胆の声を漏らし唇を尖らせた。丁度準備を終えたところでボールを持ちながら駆け寄り、高尾は結局寝坊なのかとからかいに行く。が。

「えっ!?真ちゃんどったの!?」

 入ってきたのは早朝、ましてや朝練さえもしていないというのに既に満身創痍な緑間。至る所に土や葉っぱやゴミなどの汚れを付け、第二のトレードマークである眼鏡もズレている。眼鏡を直そうともしない程に彼は疲れ切っていた。
 ただならぬ雰囲気を感じ取り、三年生も近寄ってくる。

「緑間どうした!?」

「何でそんなボロボロなんだよ!?」

 目をパチパチ瞬きしている高尾とあわあわ慌てる三年組。緑間は壁に手をつき体を預けながらか細い声で呟く。

「ないのだよ…」

「え?何が?」

「ラッキーアイテムがないのだよ!!このままでは今日でオレの人生が終わってしまうのだよ…!!」

 ああ、そういう事ね。
 三年一同察した顔をする。高尾はゲラゲラ大袈裟だと笑って草を生やしていた。










「成る程。で、ラッキーアイテムを探しても探しても全然見付からないまま今日を迎えて、仕方なくラッキーアイテム未所持で来たら災難続きだったわけね」

「そうなのだよ…朝食は食べ損ね、ジャージに昨日はなかった穴が開いている、外に一歩出れば近所の犬に襲われマンホールから水が噴き出し、公園から砂嵐が舞ってきて、上から植木鉢が落ちてきて…。しかも蟹座は12位…先が見えないのだよ…」

 ご愁傷様な顔の大坪木村と、ちょっとざまあみろな顔の宮地。普段の高慢な態度から人の不幸を笑っている彼を見て高尾も笑った。

「じゃあさ、他のラッキー何とかで補えばいいんじゃね?」

 高尾がそう言うと緑間は顔を上げて暫し考えた後、ポツリと呟く。

「確かに…ラッキーパーソンは彼女、だったのだよ」

「彼女!?」

「それはお前、いなけりゃ意味がないだろ」

「はっはー!緑間に彼女なんているわけ」

「いるのだよ」

「「「「!!?」」」」

 木村、大坪、宮地が各々勝手な事を言っている中で、緑間は何でもない顔をしてケロッと言う。笑っていた高尾もみんなが目を見開き、一瞬言葉をなくす。

「はあああああ!!?」

「ちょっ、マジ!?」

 高尾は声を上げ、宮地はオドオド挙動不審になる。大坪と木村は唖然。
 そんなみんなを放置して、その手があったと懐から携帯を出せば電話をかけ始める緑間。そしていくつか会話して切られた電話。

「直ぐ来るそうなのだよ」

 これで今日の運は保証された、と一気に清々しい顔になった緑間にみんなは放心状態で突っ込めなかった。










 数分後。

「し〜ん〜た〜ろ〜おおおおおお〜!!!」

 ズシャアアアアア!!と体育館にスライディングして入ってきた人物に一同驚愕した。

「うおおおお!?」

「な、何だ!?」

 練習の為ストレッチを開始していた部員は叫ぶ。急に人が滑り込んで来たら誰でもビビる。
 緑間は怪我をすると言い断固として加わろうとせず彼女が来るまで座っていたが、おもむろに立ち上がると滑り込んで来た人物に近寄る。

「なまえ、おはよう。よく来たのだよ」

「真太郎おはよう!大丈夫!?」

 顔を上げた緑間の彼女。その人物を見て全員が更に驚愕した。

「「(緑間彼女がギャル…だと…!?)」」

 電話から然程時間も経っていないのに即行現れた緑間の彼女。その姿は一言に尽きる。

 美人だ。

 スラリとした体は女性にしては高身長であるものの、彼氏の緑間が高身長なのでいい感じの身長差に見える。顔立ちは整っており全体的に濃いというよりは目鼻立ちがくっきりしている。睫毛も長く、マスカラ要らずで本人は化粧を然程濃くしていないのだがバッチリメイクに見える。

 緑間が爪の保守の為指先にテーピングを巻いているなら、彼女は全て自分でデコレーションをした付け爪をセット、煌びやかの一言に尽きる。
 ちなみに、スラリとしていると表記したが出ている所は出ている、つまり巨乳。
 部員の何名かは悲しきかな、男の性さがに逆らえずたわわな胸元を見てしまう。当然それに気付いた緑間にきつく睨まれたのは言うまでもない。

「大丈夫ではないのだよ。だがラッキーパーソンであるお前がいればもう何も問題ない」

「だよねぇ!あっ、すっごい汚れてんじゃん!朝から大変だったね、一人でよく頑張った!これからは私がいるから安心しなさい!」

 身を案ずる彼女、なまえにそう返しながらカチャリと眼鏡を押し上げる。なまえは服に付いている汚れを払ってあげており、まるでオカンである。そして落ち着け。
 緑間は満更でもなさそうに口元を緩めていた。デレ始めた。

「ちょ、ちょいちょいちょい!!真ちゃん!この子が彼女!?」

「ああ。みょうじなまえ、秀徳ではないが帝光からの付き合いだ」

「誠凛の一年、みょうじなまえでーす!宜しくお願いしまーっす!」

 部員に向かってピシッと額に手を添えてニコニコと軽い挨拶をするなまえ。ギャルだ。

「なまえは昔から幸運体質でな。クジは絶対に当たるし悪い事が起きた事はない」

「唯一挙げるとするならー、付け爪一個どっかいっちゃった事くらいかな!」

 軽い。言動も内容も軽かった。

「へー!じゃあ最初から頼めばよかったじゃん」

「…ラッキーアイテムが見付からなかった事で焦って頭から抜けていたのだよ」

 高尾が後頭部で手を組みながら言うと緑間がバツの悪そうに呟いた。

「真太郎、前からなんだけど焦ると周り見えなくなっちゃうからさぁー」

「あっわかる!こないだ眼鏡がないって騒いでたから見たら頭に眼鏡乗ってんの!昭和かって!!」

「ブッフォ!!真太郎っ!!可愛いいいいいいい!!」

「煩いのだよ!!」

 顔を赤らめて怒る緑間と吹き出して爆笑する高尾となまえ。高尾となまえは意気投合して自己紹介までしているのを見ながら、高尾と同類だな、と遠い目をしてキャプテン大坪が心中呟いた。

「つか学校は?まだ時間はあるにしろずっと一日中付き添うのはどう考えても無理だろ」

「学校?真太郎に比べたら糞よ!!今日は真太郎の傍にずっといるわ!!」

「糞は下品なのだよ」

「ごめんちゃい」

 宮地の言葉にさも当然と答えた。宮地は年上だぞと青筋を浮かべたが、初対面でましてや女の子なので抑える。なまえは緑間にペチッとおでこを叩かれた。うふふ、と嬉しそうに笑うなまえに緑間も慈しむかのように目を細めた。

「「(こんな緑間見た事ねえ…)」」

 一同唖然。唖然ばかりである。

 美形同士並ぶととても絵になる二人。カップルと言われればみんなが頷く程お似合いである。
 ただこの二人をよく知る者からすれば、とんでもない異色のカップルに見える。片や男はおは朝信者の人事を尽くして天命を待つが口癖の人。片や女はギャルな緑間信者(疑い)のちょっと嗜好を疑う人。
 部員は緑間しか知らないものの、この数分でなまえの事も何となく理解した。それ程までにインパクト大だった。

 そして有言実行とはこの事。なまえは朝練の邪魔にならない程度で近くで見守り、無事朝練を終えた緑間。ちなみにマネージャーがいない秀徳(緑間)の為、ドリンク作りやタオル渡しなど諸々の簡単なマネージャー業を手伝ったなまえ。
 付け爪までしたギャルが丁寧に、かつ迅速にきちんとこなしているのを見て、部員は意外性に驚く。

「オレ、ギャルに偏見持ってたかも…」

「オレも…」

 部員がそう言いながら動き回るなまえを目で追った。ほぼ揺れる胸に視線は集中しているが。緑間はそれを聞いて鼻を鳴らす。

「フン。あいつは帝光でバスケ部マネージャーをやっていたのだよ。これくらい出来て当然なのだよ。頭も別に悪くはないしな」

 急に彼女自慢が入ってどんな反応をすればいいか迷った部員は、ヘェ〜と適当に相槌打つ。

「なまえ、そこまでしなくていい」

「え?」

「…オレの傍にいるだけでいいのだよ」

 不意に次々仕事をこなすなまえを見て自分の方へ呼んだかと思えば、凄く小声でそう呟いて眼鏡を押し上げる緑間。

「〜っ!!もうっ!!真太郎大好き!!」

「!?や、やめるのだよ!!」

 キューンと心臓を締め付けられたなまえはぎゅうっと抱き着く。突然の事とみんなの前でという事で慌てふためく緑間だが、誰がどう見ても嬉しそうだった。

「「(リア充爆ぜろ…!!!)」」

 非リア充の気持ちは同じだった。ただ高尾を除いて。

「真ちゃんムッツリ!!ひいっ!!」

「高尾おおおォォォ!!」

 胸が押し付けられている事にも照れていると通じた高尾が床を転がって笑い死にそうになっている。緑間がそんな彼を蹴飛ばすと、ゴロゴロ転がっていく様子を見て次はなまえが爆笑して腹を抱えていた。

 ちなみに、なまえは朝練以降もどんな手を使ったかは定かではないが、秀徳に居座り続け放課後の部活にまで参加したとの事。
 当然なまえが傍にいる事で危険はなくなり、寧ろバンバン調子よくなり問題なく過ごした緑間であった。

 後日、秀徳や他校バスケ部の面々に、緑間がなまえにお弁当をあーんしてもらっている写真やなまえに抱き着かれて微笑んでいる写真など数枚を高尾が出回し緑間に締め上げられ、キセキの面々から揶揄のメールが緑間となまえの元に届くのはまた別のお話。











月夜野様、お待たせしました!
ご希望通りになっていますかね。緑間のツンデレと夢主ちゃんのスペックが上手く伝わればいいのですが…。
素敵なリクエストありがとうございました!

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