FOR YOU赤司と帝光年上マネ
「あっちー…」
「この時期にこの暑さありえな〜い…」
「暑過ぎてテンション下がるわ…」
全てのドアや窓が開かれた蒸し暑い体育館に足を踏み入れると、部活は始まってすらいないが既に疲れ切った、と言うかだらけきった三人の姿が見えた。
黄瀬、紫原、青峰がまだ冷たいと感じる床に寝そべっていた。
「そんなに暑いかな」
「赤司」
「緑間も平気そうだけど」
「二人が可笑しいんスよ…ほら、黒子っちも桃っちも茹だってる」
呆れたように傍観する緑間の近くに行き黄瀬の視線の先に目を向ければ、同じようにとまではいかなくても暑さに顔を歪め床に座り込む黒子と桃井の姿。
「…さつき。白Tにピンクの下着でもキャミソールとか着ねえと透けんぞ」
「何処見てんスか!!」
「最低〜」
相変わらずな青峰に全員がシラッとした目を向け彼に一番近い黄瀬と紫原が代表して口を開く。桃井本人は虫を見るような目で見下していた。いつの間にあんな目をするようになったんだろうか。
「こーら。本当何処見てんだお前は」
するとポカッと間抜けな音がしたので音のした方、青峰を見ればうつ伏せに寝そべる奴の横に人が立っていた。愛用であるメガホン片手に腰に手を当て、呆れた顔をするのは三年マネージャーのみょうじさん。
「おおリーダー、チッス。パンツ見えそう」
「下らない事言ってないでさっさと起きる。人も集まったし虹村が部活始めるかってさ」
マネージャーの中でリーダーを担っており、同学年にも後輩にも優しく時に厳しい人望の厚い先輩だ。先輩にも敬意があまりない青峰はリーダーと呼ぶ。
ほらほらと言いながら首根っこを掴み寝転がっていた三人を起こしたみょうじさん。あの細い腕の何処にそんな力が、と思う程怪力な瞬間をしばしば目にする。
「あ、レッド。ちょっと来て」
「はい」
オレの方を見たかと思えば手招きされて近付く。この人はキセキの世代と呼ばれ始めたオレ達の事を試合中以外色を英語にして呼ぶ。試合中は日本語という意味のわからないこだわり(流石に他校がいる前で色を英語で呼ぶのは思春期の少年には可哀想だから遠慮していると訳のわからない事を話していた)があるようだ。レッドは勿論オレの事。
「パーポー重い」
「なまえちんの所為でさっき首絞まって苦しかったから仕返し〜」
「せめてなまえ先輩と呼びなさい」
「なまえちんだってパーポーって呼ぶじゃん」
「パープルは発音よくしたらパーポーでしょうが。アップル=アッポーと同じ原理ですねはい此処テストに出ませんよ」
本人曰く名前を覚えられないわけではないが、髪色と同じ姓なのでわかりやすいし呼びやすいとの事。呼びやすいかはともかく、変わっている。紫原に後ろからのし掛かられながらプルプルと足を震わせて耐えている彼女を見て少し笑った。
「桃〜お助け〜」
「えっ!?ムッくんなまえ先輩が重たいって!」
少し解せないのは桃井の事は“桃”か“さつき”と名前で呼ぶところかな。
「イエローお手!」
「ハイ!って違うオレ犬じゃないっス!」
「ノリノリだったくせに。ねーブルーブラック」
「黄瀬は単純だからな」
「青峰君も人の事言えませんよ」
「グリーンはじゃあお座り」
「しません」
休憩中。マネージャーの業務をひと段落終えたみょうじさんは黄瀬を構っていた。そして黒子や青峰、緑間にも構いいつものようにじゃれ合っている。
そんな中、オレにはちょっかいは掛けてこない。
「よーしよしよしよし」
「っ」
わけもなく。しょっちゅう、というか一番悪戯を仕掛けられているのはオレだと思う。今も突然背後から髪を撫でられた。いや、掻き乱されている。さっきまで向こうで話していたのに。
「…汗かいているのでやめてもらってもいいですか」
「レッドの汗は聖水だってファンクラブの女子達が言ってたよ」
「あり得ません」
でもそれが不思議と嫌ではなく楽しいからこの人は少しタチが悪いというか何と言うか。してやったりな悪戯な笑みに鼓動が少し速くなった気がした。
「やめて下さい」
「臭くないよ?ブルーが最も男の汗って匂いするよ」
「男らしいんだよオレは」
「ハイハイ。それに比べてレッドは上品な香りが…」
「変態臭いよ〜」
「っ、だからあなたは…」
尚も顔を近付け匂いを嗅ぐような仕草に自分でも汗臭いとわかっているから離れようとしているのに、この人はそうさせてくれない。青峰と紫原の憐れみを含んだ視線を受けながら後ずさる。
「あっはは!レッドかーわいー!」
「オラ!いつまでも遊んでんじゃねえよ!」
「いやん」
「キモいわ」
可愛いと言われてもあまり嬉しくない。可愛いと男にあまり使わない方がいいのでは、と言おうとしたところで虹村さんが首根っこを掴んでみょうじさんを引き連れていく。
安堵した反面、チラリとこちらを見てフッと笑った虹村さんに胸の中で蟠りが出来た気がした。あの不敵な笑みがどんな意味を成しているかなんて、考えずともわかってしまった自分の気持ちが些か複雑だ。
「よーし!今日の練習も頑張ったからあたしが奢ってやんよ!」
「「「わーい!」」」
部活後。一日暑い暑いと言い続けた部員を見てか、オレ達に声を掛け一緒に帰り途中で近くのコンビニでアイスを奢ってくれると言う。
喜ぶ黄瀬と紫原と桃井を横目に最近思う事が、みょうじさんはこうしてキセキと呼ばれるオレ達に極端に甘くなる時がある。
正直贔屓だと思う。他の部員にあまりこういう事をしていないらしい。
「レッドは何食べたい?っていうかコンビニ似合わないよね。誰もが思う事だろうけど」
「そうですか?中学に上がってからは紫原に連れられて行く事が増えたと思いますけど」
「人付き合いも大切だからね。で、何にする?」
前の方でアイスと喜ぶ姿や騒がしいと怒るみんなの姿を見ながら、最後尾でみょうじさんと並んで歩く。そこで質問は無視して気になる事を聞いた。
「何故オレ達を甘やかしてくれるんですか?」
「ん?え、別に特別な理由なんてないけど。強いて言うなら、大好きだから?」
「…そうですか」
好きとの言葉に息が一瞬詰まる。そういう恋愛の意味ではないとわかっているが、心臓に悪い。何か言い返したくなり、口を開きかけるとそれより早くみょうじさんが喋る。
「可愛い後輩が喜ぶ姿が見たいだけだよ。みんないい反応してくれるしね」
「…可愛いって何度も言いますが、」
「んー?」
今日一日で思った事を言えるタイミングだな、仕返しにも丁度いいと思い心中ほくそ笑んだ。
「オレは誰よりも、みょうじさんの笑顔の方が可愛いと思いますよ」
「……は、?」
ポカンと口を開けて唖然としているみょうじさんを見てそこまで驚かれるとは思わなかったが、じわじわ頬を染めていく様子を見て思わず口角が上がる。いい反応をするのはあなたも同じですよ、みょうじさん。
夏の引退まであと少し。そして来年の春の卒業までにこの想いがどう変わり、伝える気になるかはオレもまだわからない。居心地のいいぬるま湯に浸かったままでいたい気持ちと進展を望む気持ちが、彼女の卒業までにどう変わるだろうか。
柚子様、二つ目のリクエストお待たせしました!
キセキが中二で夢主が中三設定です。赤司は好きかどうかわかっているようで知らないフリする時もある微妙な時期ですね。虹村との関係は付き合ってはいませんがご想像にお任せします(笑)
年上設定楽しいですね!気に入って頂けると嬉しいです。
素敵なリクエストありがとうございました!
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