D+S FF-D m-ds New!夢物語


夜はこれから



 仏頂面でぼうっと窓の外をひとり眺める男が、深くため息をついた。見事な夜景を独り占めしているにも関わらず、彼は不機嫌を隠そうともしない。ネオンの群れを睨みつけ、男はさらに眉間のシワを深くした。この男は普段から近寄り難い雰囲気を醸し出しているのだが、今はそれが更に増強している。

 備え付けのソファーから余る長い足を窮屈そうに組み、この男の背丈にはにはやや低いテーブルに無理矢理頬杖をつく。そして、彼は自身の裸の背にかかる銀色の長い髪をさも気怠そうに振り払い、コーヒーを啜った。

 日付はとっくに変わっている。
 人の気配もすっかりまばらになった薄暗いロビーの一角に男はどんと陣取った。眠らない街にそびえ立つビルの高層階で、男は薄暗い天井を睨みつけた。

 高層ビルのお膝元、この大都会で、いつどんな事が起こっても早急に対応する。そのために毎日必ず、昼夜を問わず常駐する者がいる。巷で英雄と謳われるこの男も、もちろん例外ではない。

 とはいえ、平時なら何も起こらないことが大半だった。仕事がなければ仮眠を取ることが許されている。夜勤であっても寝当直であることがほとんどだが、それでもきっちり夜勤手当が出る。それ故、特に薄給の若いソルジャー連中には特にありがたい存在となっているようだ。
 だが、今の彼にありがたみなど微塵もない。むしろ忌々しいとすら思っているほどだった。


「あれ? セフィロス? こんなところにいたの。仮眠室かと思ってたわ」

「……眠たくない」


 後ろからかけられた声にちらりと振り向き返事をすると、セフィロスはまた元の姿勢に戻ってコーヒーを啜った。彼の不機嫌が俄に鳴りを潜める。


「そんなこと言って……明日はそのまま出張なんでしょ? 休める時にちゃんと休まなきゃ」


 明るいグレーのスーツを着た女が、鞄と分厚いファイルを抱えてセフィロスの座るソファーの裏にやって来た。いつもならきっちりまとめられた黒い髪が、今はふんわりと彼女の肩で揺れている。彼女は今まさに退社しようというところだった。
 彼女はぐるりと回り込んでセフィロスの隣に座り、セフィロスの顔を横からのぞき込む。セフィロスは上を向いたままだった顔を元に戻すと、髪が顔にかかった。彼はややうつむき、右手で額の髪を払う。
 すると、スカートから覗く白い膝小僧をセフィロスの視線が捕らえた。顔を上げると彼女と目が合い、なんとも心配そうな顔が見えた。


「お前こそ、今日は何でこんなに遅い。どうやって帰るつもりだ」

「帰れるものなら、帰りたかったんだけどね」


 そう言って、彼女は抱えている書類の束を見ながら「立て込んでいたのよ」と、困ったように笑った。
 治安維持部門から大量に持ち込まれたという急ぎの書類を、勤務時間内に捌ききれなかったのだ。必死で仕事して、後は手にしているファイルを明日の朝までに治安維持部門へ提出するだけである。


「こんな時に限ってラザード統括がいないんだもの。電話してもなかなか繋がらないし、やっと繋がったと思ったら君に任せるなんて言われて、大変だったわ」

「明日、ジュノンで会うぞ。マリアからだと伝言しておこう」

「……それはご遠慮願うわ」


 慌てて発言を撤回しようとするマリアに、冗談だと言ってセフィロスは笑った。


「統括補佐殿もお疲れのようだな」

「もうクタクタ。帰るのも面倒なくらいよ。セフィロスも今夜は大変だったようね」


 セフィロスの顔をのぞき込んでいた姿勢を戻し、マリアはまっすぐに座り直した。


「……二番街でモンスターが出たというから行って見ればヘッジホッグパイが一匹迷い込んでいた」

「あらま。呼んだ人もビックリしたでしょうね。ヘッジホッグパイくらいで英雄が現れるなんて」

「その次は、五番魔晄炉が不具合を起こしたと連絡が入った。様子を見に行ってみれば酔っぱらいがあちこち触っていて……まったく、こんな事で駆り出されるとはな」


 セフィロスはフン、とつまらなさそうに鼻を鳴らした。


「極めつけは、八番街で緊急信号が出ていただろう」

「ああ、あれはびっくりしたわ。まさかイタズラだったなんてね」

「モンスターと戦っている方がマシだった」


 セフィロスは残りのコーヒーを飲み干すと、マリアの腕を掴んだ。


「セフィロス? 」

「付き合え。どうせ終電も逃しているんだろう」

「つ、付き合うって……何に? 」


 マリアが恐る恐る、といった風にセフィロスを見やると、彼は無言ですぐ近くの仮眠室を視線で示した。
 中にはシーツの乱れたシングルベッドが一台と、奥の壁には見慣れた黒いコートが掛かっていた。一度横になったものの、寝られずに出てきたのだろうとマリアは推測する。
 そして、このビルの仮眠室は相部屋が多いが、この部屋は個室だ。マリアはセフィロスの言わんとするところを理解した。


「……悪いけど、そういうのはちゃんと付き合っている人としかしない主義なの」


 マリアがそう答えると、セフィロスは一瞬面食らったような顔をした。いかにも真面目な優等生のような返事を、このミッドガルのようなスレた都会で聞くことになるとは思わなかったからだ。


「フラれたことなんてなかった、って顔ね」


 セフィロスは普段、大勢の取り巻きに囲まれている。もちろん女性ばかりで、みんな少しでもセフィロスに近付こうと必死だ。当の本人は迷惑さを全面に出していても、女性たちにはまるで通じていない。マリアにしてみれば、優等生的な思想よりもこちらの方が気になっている。
 2人の会話は噛み合っていない。しかし、これが却ってセフィロスを楽しませた。


「やはりお前はおもしろいな」


 セフィロスは小さく笑うと、マリアの抱えている書類をさっと奪い取った。無造作に見えるが、中の書類が1枚も滑り落ちないようにしているあたりはさすがだとマリアは思った。


「ちょっと、本気なの? 」

「俺はいつだって本気だ」

 
 言うや否や、セフィロスはマリアをひょいと担いだ。そして、あっという間もなく彼女を仮眠室へ放り込む。
 マリアはベッドに座らされ、彼女の目の前には、鍛え上げられた彫刻のような肉体美が広がっていた。

 セフィロスの目つきがいつもよりギラギラしている。自分は今、狼を前にした子羊なのだろうなとマリアは狼狽えながらもどこか他人事のように考えていた。そして、ここまで抵抗することなく入って来てしまったことに、マリアはまだ気づいていない。


「俺はお前だから誘ったんだ。誰でもいいわけじゃない。俺にだって選ぶ権利はある」

「だ、だから、わたしは……」


 狭いベッドの上でマリアは後ずさりする。だが、動くほど逃げ場を失っていく。
 「帰るもの面倒なんだろう? 」と言いながらじわじわと迫るセフィロスは、実に愉快そうだ。だが、その目は至って真剣そのものである。
 そうこうするうちに、遂にマリアはセフィロスに捕まった。


「ちゃんと付き合っていれば問題ないのだろう? 望むところだ」

「取って付けたようなこと言わないで」


 マリアはぷいとそっぽを向く。内心しどろもどろしているが、必死で平静を装っている。きっとセフィロスにはバレているだろうと思いながらも、その姿勢は崩さない。


「マリア。俺はお前が好きだ」


 マリアは顔をそむけたまま、返事をしない。


「俺が嫌いか? 」

「今は嫌い」

「……それは残念だ」


 マリアがちらりとセフィロスを見ると、彼は思いの外シュンとしていた。ひどく傷ついたような表情をしている。「捨てられた子犬のよう」とはきっとこのことだろうと思うほどで、マリアは少し申し訳ない気持ちになった。


「……ごめん。嫌いじゃない」


 訂正した瞬間、セフィロスの表情に明るさが戻った。ぱあっと光り輝くようで、マリアは思わずクスリと笑った。
 セフィロスはその端正な見た目から、クールで無口で近寄りがたいイメージを持たれがちだ。だが、実際にはこんなにも可愛らしい一面も持っている。こんなこと、取り巻きの女性たちには想像もつかないことだろう。


「ただ……」


 セフィロスは続きを言おうとしているマリアの頬を、彼の大きく熱い手のひらでそっと包む。マリアも眼前に迫り来る彼の顔と瞳を、まっすぐに見つめた。


「本当にわたしを大切に想ってくれているのなら、今日は止めにしましょ」


 ね、とマリアは人差し指を立てて、セフィロスの唇をトンと軽く押し返した。ニコニコするマリアに、セフィロスは愕然とうなだれた。
 しばらく固まったまま思案していたセフィロスだったが、やがて力を抜いてマリアから離れる。そして、観念したようにふうと息を吐いた。


「では、証明してみせよう。明日も、明後日も、その後も、俺の気持ちが勢いとひとときの物ではないということを」


 それを聞き、マリアはほっと息をついた。だが、セフィロスの言い分には続きがあった。


「ただし、今晩はここで寝ろ」

「……は? 」

「安心しろ。今日は手出ししない。夜中にフラフラ出歩かれると気が気でないからな。この部屋はお前に譲ろう。俺はどこででも休める」


 そこまで一方的に告げると、セフィロスはベッドから降りた。上着を素早く着込むと、さっさと部屋を出ていってしまった。

 あっけにとられていたマリアだったが、一人になった瞬間に疲れがどっと押し寄せる。もう眠気に抗がう理由もない。シーツに飲み込まれるようにして眠ってしまった。







 数日後──

 ソルジャー司令室の扉が開いた。
 つい先ほどジュノンから帰還したばかりのセフィロスが、報告書を手にやって来たのだ。彼よりも一足早く帰っていたラザードに書類を手渡し、ラザードのすぐ脇に座っていたマリアを一瞥する。
 殺気にも似た熱い視線にマリアが思わず顔を上げると、セフィロスは目だけでほんの僅かに微笑んだ。しかし、目が血走っているように見えるのは、マリアの気のせいではない。


「ラザード。しばらくマリアを借りるぞ」

「え? ああ、構わないよ」


 どうしたのかと不思議そうな表情を浮かべるラザードを後目に、セフィロスはマリアを席から立たせた。彼女の手を引いて、早足にどんどん歩を進める。


「あの、ちょっと! どこ行くの?ねえ」


 マリアが足の長いセフィロスの早足に必死でついて行く先に見えたのは、つい先セフィロスに半ば強引に譲られて泊まった仮眠室だった。そのまま流れるように部屋に連れ込まれ、気づけばベッドがマリアの目の前に鎮座していた。
 セフィロスはマリアの髪に触れると、低い位置でまとめられたおだんごを器用に解いていく。


「ちょっと付き合え」

「え? 」

「この間、証明してみせたはずだ。もう我慢はしない」


 言いながら、セフィロスは自身の上着をバサリと脱ぎ捨てた。

20170210
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あとがき言い訳
久しぶりに英雄さんです
結構かわいい人なんじゃないかと勝手に想像しています
かわいいだけでなくて、たぶんちょっと強引でズレてる
でも良い人
そんなイメージです

振り回されてるのか、振り回してるのか
たらしてるのか、たらされてるのか
今回はそんな内容です
話の構成としてははっきりさせた方がいいんだろうなと思いつつ、なんだかこうなりました
お粗末!


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