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ライフストリームには戻れない




 もう駄目だ。死ぬかもしれない。
 ミッドガルの郊外。草原のど真ん中に見渡す限りのアバランチ。なかなか壮観である。ご丁寧に全員から銃口を向けられて、わたしの短銃一丁でどうにかなる状況ではない。正しく絶体絶命。ピンチどころではなかった。心残りがありすぎて、今死んだら化けて出るしかあるまい。

 先日公開された映画も見たいし、近頃話題のアイスクリームもまだ食べていない。主任と一緒に行こうと約束しているけど、二人とも忙しくてなかなか行けなかった。
 こんなことなら、とりあえず一人で行っておけば良かったのかもしれない。いやでもどうせなら二人の方が楽しいし、などと思ったところで雑念を振り払った。今はこんな事で悩んでいる場合ではない。
 ところで、ライフストリームに戻るのを拒否する方法はあるのだろうか。強い意思を持ち、やり残した事があれば、ライフストリームの中でも自分を保てるような事を聞いた事はある。
 自分を保っていたところで、実体がなければアイスクリームは食べられない。
 やっぱり生きているうちでないと無理そうだ。つまり、なんとしても奴らを倒さなければならない、という事になる。

「こんなところで、死んでたまるか。やりたい事があるのにどうしてくれるのよ!」

 どうせ死ぬなら、死ぬ気でやってやる。そう考えると同時に、持てる全てのマテリアと魔力、精神力を総動員する事にした。
 幸いミッドガルからもそう遠くない。ここで大暴れすれば、誰かが見つけてくれるかもしれない。それがタークスだとなお良い。アバランチの可能性もあるけれど。

 突如雲行きが怪しくなり、風はすでに竜巻のように吹き上げている。空は明るいはずなのに、この辺りだけは猛烈な大嵐だ。流石のアバランチ軍団も動揺し始めた。
 魔力で作り上げた吹き荒れる暴風、つまり決死のエアロガにファイガとブリザガを織り交ぜる。それだけでもまとめて攻撃できるが、そこからさらに雷まで発生し始める。そして、金属の得物をガチャガチャいわせているアバランチへ勝手に落ちてゆく。
 魔法で仕留め損ねた敵は銃で仕留める。けれど向こうにも手練れがいた。竜巻と銃弾を掻い潜り、剣を手に飛びかかって来た奴がいた。

 咄嗟の判断だった。とにかく斬られないようにする。ただそのために、唯一持っていた召喚獣の存在を思い出した。この任務に出る前に、お守り代わりだと主任から貰ったものだった。

「イフリート!」

 イフリートの炎で渦巻く暴風は、一瞬で火災旋風へと変化した。飛びかかって来たアバランチは一瞬で灰になった。
 ああ、ありがとうイフリート。そして持たせてくれたツォンさんありがとう。

 全員倒したのだから、これで生き残れるだろう。それならツォンさんにもまた会える。そう思った後の事は記憶にない。生き残るために、持てる力の全てを使った。





「マリア!目を覚ませ!もう終わった。止めろ、マリア!」

 ぼんやりと目を開けると、我が上司がわたしに馬乗りになっている。大声を張り上げて、随分と憔悴しているような顔だ。
 あれだけ会いたかったツォンが目の前にいる。返事くらいしたかったけれど、声が掠れて上手く発声できない。

「もう大丈夫だ、落ち着くんだ。マリア!」

 そこでハッとした。ジタバタともがき続けてていた事にようやく気がついた。ツォンさんが全力で押さえつけないと抑えられない程の力がわたしにあったとは、我ながら驚きである。死に物狂いとはこのことだ。火事場の馬鹿力かもしれない。

「ツォン、さん。わたし──」
「マリア!」

 ようやく声が出た時、ツォンさんの髪が風に流れて広がった。魔力で作り出した竜巻が、勢力を落としたもののまだそこにある。彼の白い結い紐が、竜巻の最後の犠牲となった。
 勢いよく飛び去る髪紐を眺めていると、ツォンさんがわたしにガバリと抱きついた。

「やっと正気に戻ったようだな。とんでもない奴だよ、お前は」

 そう言いながら微笑むツォンさんに抱き起こされると、今度はめまいに襲われる。

「立てるか?」
「はい、なんとか…」

 フラフラする身体をツォンさんに支えられながら、そばに停められていたスキッフに乗り込んだ。

「無事で良かった、マリア」

 座席に座るなり、ツォンさんに抱きしめられた。暖かくて、心地よい。けれど、手が震えている。わたしのも、ツォンさんのも。

「それはもう、必死でしたよ。まだツォンさんとしたい事、沢山ありますから」

 こんなとこで死ねませんからね、と言うと唇を塞がれた。生きててよかった。

 操縦席ではレノがひたすらニヤニヤし、ルードが必死でわたし達を見ないふりしている。
 ああ、帰って来られた。彼らと一緒なら、もう大丈夫だ。ほっとすると、わたしはまた意識を手放した。


2023/07/07

リクエストありがとうございました!なんと3年越し!いつもの事ながら、大変遅くなりました。まだお待ち頂いているかわかりませんが、どうかお納めください。お粗末さまでした。

『髪ゴム切れたとか140文字では語りきれない量の妄想が頭の中でモヤモヤしてるんですが、今言えることといえば、ツォンさんが今私を(妄想の中で)跨って見下ろしてるんですが、ゴム切れたからさらって肩から髪が流れてうわーーーーな状態で午後の仕事どうしようってなってます。』

とのリクエストでした。ありがとうございました!

召喚獣は何出しても良かったんですが、ジェネシスがイフリートで仕掛けて来たのを思い出したのでイフリートに。ジェネシスが持ってるんだったらツォンももってるかも、くらいの安易な考えで。カンセル曰く「自分で探す物」らしいけど。
まあええやん。これは夢、これは夢、そうこれは夢!



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