D+S FF-D m-ds New!夢物語
祭りの夜のブロンドの君 1
サウスフィガロは今、一年の中で最も華やぐ時期を迎えている。街を上げての盛大な祭りが始まるのだ。人々は皆、この祭りを楽しみにしている。そんな街の様子を宿の窓から遠く見下ろしていると、ばあやが部屋に入ってきた。
「陛下、明日の朝は七時に起こしに参ります。明日のご予定ですが……」
祭りには一度も参加したことはない。王としてスピーチすることはあっても、それだけだ。気の置けない友と飲み明かすこともなければ、広場で行われるというダンスに混ざることも許されなかった。
「ああ、わかっているよ。朝から街の視察をして、その後は役場の面々と昼食会だろう」
「おわかりなら結構ですよ。では、わたくしは休ませていただきます。陛下も早くお休みになりますよう」
「そうするよ。おやすみ」
俺がそう言うと、ばあやは安心したように部屋を出ていった。俺は内心でほくそ笑む。
「……なんて、な。さて、戦闘開始だ」
昼間の散策時間にこっそり買っておいた服とロープをクローゼットから引っ張り出す。王族が着るような豪奢な物ではなく、極々簡素な普通の服だ。
マントと上着、フリルの付いたシャツを脱ぎ捨てて、真新しい綿の白いシャツに袖を通す。新しい服の着心地と、これから起こるであろう楽しいことに心が踊る。
シンプルなチャコールグレーのスラックスに履き替え、細かいストライプのキャスケットを被った。さらに伊達メガネまでかけると、我ながら上手く変装できたように見える。
「ばあや、明日の朝には戻るよ」
誰もいない部屋に小声で告げて、ロープを窓に垂らしていく。手頃な家具に結わえ付け、ロープを伝う。こうして俺は街へ繰り出すことに成功した。
街の中心地へはあっという間に到着した。昼間公務で見た景色よりも、何倍も輝いて魅力的に映っている。灯籠の仄かな光が、より華やいだ雰囲気を醸し出す。
ちょうどダンスが始まるところだったらしい。人の波に乗って俺はダンスの輪へと入っていった。
一人で踊る者、男女のペアで踊る者。あぶれて男同士で踊る者や、マネキンと踊る者までいる。みんなが楽しそうに、活気に溢れていた。
そんな時だった。一人の女性が目の前に現れた時、全ての音や光、物がまるで存在感をなくした。時が止まったかのようだった。
身体の芯から痺れるように胸が疼く。見事なブロンドの長い髪を頭の高い位置で結い上げ、側面に赤いリボンがあしらわれている。リボンと同じ赤いドレスがよく似合う。咲いたばかりの花のような美しさに、俺は吸い寄せられるようして側へ寄った。
「やあ、こんばんは」
「……こ、こんばんは」
彼女は小さな声で、少し驚いた風に返事をした。目を泳がせて、少し戸惑っているようだ。
「一曲踊ってもらえませんか?お嬢さん」
怯えられないように、なるべく優しく気さくにと自分に言い聞かせた。口説くこともすっかり忘れて、ただ彼女に断られないようにすることだけに集中していた。
「え……わ、わたしと?」
「そう、君と。さあ、お手をどうぞ」
できる限り優しく手を取ると、彼女は一瞬だけぴくりと身体を振るわせた。
「あ、あの、わたし……踊ったことがありませんので……」
「大丈夫。俺に任せてくれればいい」
そう言いながら、遂にダンスの輪の真ん中までやってきた。人の波を上手くかわしながら、彼女をリードする。彼女も慣れてきたのか、次第に表情も明るくなってきた。
「そう。上手だよ」
パチンとウインクすると、彼女もふわりと笑った。黒っぽい瞳がキラキラ輝いて、吸い込まれそうなほど魅力的だった。
あっという間に一曲が終わってしまった。もう少し彼女といたい。そう思ったのだが、いつの間にか見失ってしまった。街中探したが、結局見つからなかった。
20170117
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