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幸か、不幸か 《後編》



「ならば、早急に対処せねばな」

 殿下は唸るように呟いた。苦い顔で、何もない場所を睨みつける。道すがら、突然思いついた可能性の事を殿下に話したのだ。

 殿下はあからさまにこそしないものの、母の事を嫌っている。わたしは肩身が狭いのだが、殿下はいつも何かとわたしを気づかってくれた。

 わたしはてっきり、殿下の従者との口付けを見てしまった事で追いかけられたのだと思っていた。けれど、実際にはわたしの心配をしていたらしい。
 ちなみに、渦中の従者・テランスは人払いのために今はここにはいない。彼もまた、よくできた人だ。
 ますます申し訳ないないような気がするけれど、それこそ言うには勇気がいる。いずれ話し合う事になるのかもしれないが、今はまだその時ではない。

「確証は何もないのです。ただ、母上は以前よりあの通りですし、考え始めると気になってしまい…」
「なに、調べる価値はあるだろう」

 きっとわたしは嬉しそうな顔をしたのだろう。殿下もニッコリ笑いながら、しっかりとわたしの目を見てうなづいた。

 幾つかの扉を開け、クリスタルが埋め込まれた檻を潜ると、そこはベアラー兵達の住処だった。住処といっても、粗末なものだ。厩の方が幾らマシかもしれなかった。
 変な臭いが漂う。汗の他にも、何か別の成分が混じっている。それを堪えながら、一人一人、格子ごしにベアラー兵達の顔を確かめてゆく。

 ひとりの若いベアラー兵が虚な表情で、格子を睨みつけていた。全てを拒否するかのような佇まいで、その迫力に圧倒される。何かに取り憑かれたような、思い詰めた表情をしているか、彼は在りし日の父によく似ていた。
 マリアが思わず立ち止まると、その若いベアラー兵と目が合った。その途端にベアラー兵の目が見開かれ、空虚な瞳をこの世に引き戻すように表情を変えた。そして次の瞬間には、勢いよく格子に突進してくる。

「マリア、なのか?」

 ベアラー兵は掠れた声を振るわせて、驚きの表情で格子を掴む。そのはずみで床が少し揺れたくらいだ。あまりの力強さに驚いたが、そんなことなどどうでもいいくらい、懐かしい声が自然と耳に馴染んだ。

「にい、さん。本当に…生きてた…」

 あっという間に涙で何も見えなくなった。わたしも駆け寄って、格子の中へ手を伸ばす。手を取り合って、お互いの存在を確かめ合った。

「何ということだ…」

 背後から小さく聞こえた声を振り返ると、殿下は片手で頭を抱えて天井を仰いでいた。

「ディオン様」

 兄です、とは言えなかった。他のベアラー兵の手前、言葉と漏れる可能性のある情報は選ばなければならない。けれど、殿下にはきちんと伝わったようだ。

「確かか…。テランス!」

 信じられないといった表情で、殿下はテランスを呼んだ。いつの間にか物陰に控えていた彼は、即座にやって来た。

「は、ここに」

 テランスがやって来ると、殿下はもう一度兄の方を見た。

「このベアラーを、余の物として使いたい」
「直ちに。手続きをいたします」

 わたしと兄は思わず顔を見合わせた。殿下のベアラーとはどういうことだろう。そこまでは聞いていない。でも殿下なら、或いは。期待を込めた眼差しで殿下を見上げた。

「ディオン様、それは、もしや…」
「任せておけ。委細は追って伝えよう」

 殿下はそう言うとわたしの立たせ、肩を抱くようにして退出を促した。

「いつまでもこんな所にいると知られれば、後から厄介だ。今日は引き揚げるぞ」

 殿下は小声でそう言うと、来た道を戻り始める。わたしは後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた。
 せっかく会えたのに、思うように言葉を交わすことすらこんなにも難しいなんて。
 涙が止まらないわたしを他の者達から隠すようにして、殿下は歩いてくれた。


 それから数週間、テランスがわたしを呼びに来た。兄の処遇についてだ。連れ立って殿下のお部屋に向かうと、暗い顔をした殿下がいた。

「済まない、マリア」
「どうなさったのです、ディオン様」

 テランスのエスコートでテーブルに着くと、彼から暖かい紅茶を受け取った。

「クライヴ・ロズフィールド卿──そなたの兄御は皇室付きの暗殺部隊にいる。これは流石に余でも手が出せぬ。神皇后が手綱を引いているようだ」
「そう、でしたか…」

 俯いて、やっとの事で声を絞り出した。紅茶から漂う温かな湯気と香りが、やたらと優しい。

「余のベアラーとしてあの場から出して、あわよくば開放してやろうと思ったのだがな」

 聞けば、殿下はあの後また兄の様子を見に行ったそうだ。そして兄は今、弟の仇討ちの為だけに生きているという。あのままでは、遅かれ早かれ機を見て脱走するかもしれないほどの気迫を感じたそうだ。もしもベアラー兵が脱走して捕まれば、極刑は免れない。

「それでも、そなたに会えたことは喜んでいたよ。マリアの願いならば叶えてやりたかったのだが、すまぬ。力になると申したのに、この通りだ」
「謝らないでくださいませ、殿下。殿下のお心に感謝いたします」

 そう言って頭を下げたものの、絶望感でいっぱいだった。今は何も考えたくないほどに。

 どんよりと暗い空気が立ち込める中、調度品に光が反射して輝いている。見てくれはこんなにも美しいのに、王宮とはなんと醜い所なのだろう。
 わたしには、まわりに振り回される事しかできない。仮に兄や殿下のように戦う力があっても、自分一人で何ができるだろう。
 わたしは、かつての母と同じなのもしれない。まつりごとの駒にされ、結婚相手どころか生き方さえ自分で決める事が許されない。夫や子の武勲や功績に振り回され、それに人生を揺るがされる。なのに、わたしはなにもできないのだ。
 母は今、絶大な権利を得た。貪欲且つ残忍たる姿は見るのもおぞましい。だが、確かにわたしはそれに守られている。今の所、ではあるが。
 自分の無力さを呪った。なぜわたしはまだ生きているのだろう、と。


2023/07/03

FF16すごかったですね。一番好きなのはディオン卿。彼は最後まで正気だった!竜騎士なのに!笑

やっぱり救いようのない話しになってしまった。シドがベアラーとしてクライヴが生きていた事について「噂は本当だったか」みたいな事言うシーンがあったと思うんですが、出所はきっとこういうところから。なんて。
このまま進んだらヒロインちゃんはディオン様の御乱心の際に死にそうだ。あ、でもその前にジョシュアに託される可能性もあるか。
色んな物がほぼ全て捏造であります。


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