D+S FF-D m-ds New!夢物語


天か地か



「君はまさか……マリア、か。」

 ふいに声をかけられて振り向いた。
 わたしを呼んだのは、私が着ているものとよく似た白いローブを身につけた女性だった。
 私はこの女性をよく知っている。まさかここに居るとは思ってもみなかったが。


「やっぱりミンウだった。久しぶりね。もう何年になるかしら。」


 自分の目を疑うほど驚く私とは対照的に、マリアは柔らかく微笑む。あの頃と変わらない、明るく愛嬌のある笑顔だ。もしも変わったとすれば、少しだけ艶やかさが増したかもしれない。


「その首飾り。まだ持っててくれたのね。わたしもずっと着けてるのよ。」


 そう言って、彼女は嬉しそうに自身の左の二の腕を指差した。よく手入れされた腕輪もあの日のように、そこにはまっている。少し年季が入ったそれは燻したような深みがあり、彼女に劣らぬくらい良さがにじみ出ている。
 思わぬ人と、思わぬ場所での再会に、私は心底驚いた。

 ここはマハノンの町。皇帝との戦いで犠牲になった者達が送られて来る死後の世界だ。
 死人しかいないというのに、大きなな犠牲を払ってようやく形成された、この地獄とも言える世界で唯一の町だった。


「驚いたな。君がこんな所にいるなんて。」

「わたしも死んだもの。」

「君はミシディアにいたのではなかったのか。なのに、何故……。」


 未だ信じられない思いで、マリアをじっと見つめた。
 マリアはミシディアの魔導師だったはずだ。私と同じ、白魔法を専門としている。
 マリアは他国の王宮には出仕せず、ミシディアに残り後進の指導に力を尽くしていると聞いていた。


「魔物にやられちゃった。見たこともないような変な奴が弟子に襲いかかって来て、咄嗟に。地獄から来た魔物だったようね。」

「君ほどの手練れが……。」


 ダメね、とマリアはペロリと舌を出した。

 マリアは修行時代を共にした仲間のひとりだった。
 別の師匠についていたが歳も近く、お互いに切磋琢磨してきた。彼女は才能に溢れ、明るく素直なで誰とでも仲良く出来る少女だった。
 そんなマリアは当時の私にはとても眩しく、私が彼女に淡い想いを抱くようになるのにそう時間はかからなかった。とはいえ、淡いものは淡いままでしかなかった。結局互いの気持ちを確かめ合うようなことはしなかったが、それは今でも良い思い出だ。
 後に私はフィンへ、マリアはミシディア最高位の魔導師を目指したさらなる修行へと、それぞれの道を進むことになる。

 私がミシディアを立つ前の晩、いつかの再会を願って私達は互いの装飾品を一つずつ交換した。
 魔導師たちは好んで装飾品を身に着ける。それらは魔力を増幅するもの、強すぎる力を抑えるもの、精神力を支えるもの、などといった魔道具だ。古くからの慣例でもあり、私達も沢山の装飾品を身に着けることを習慣としている。

 マリアは金で出来た細かい装飾が施された腕輪を、私ははツメタガイがあしらわれた首飾りをそれぞれ相手の装飾品から選んだ。
 互いに息災であるように、約束を果たせるようにとまじないをかけて交換した。生前ではそれきり会うことはなかったが、私の心にはいつもどこかにマリアがいた。

 マリアには、まだまだ元気で生きていて欲しかった。
 辛い戦いばかりだったが、遠く離れたマリアの未来や幸せにつながるならば、という思いで自らを奮わせていた。ここまで奮闘出来たのは、マリアのためだと言っても過言ではない。近くで守ることが出来ない以上、それが全てだった。

 懐かしく心地よい甘酸っぱさと、胸を焼かれるような悔しさが混じり合い私の心は複雑に入り乱れる。胸を突き上げられるような気持ちで一杯だった。


「ミンウ……そんな顔、しないで。」


 顔を曇らせたマリアが、寂しそうに言った。私はよほど厳しい顔をしていたのだろう。けれど、まだ悔しさは収められそうにない。
 皇帝との戦いを控えた今、マリアを戦火に巻き込むのは御免だった。彼女を守る手だてはないかと考え始める。


「……君にはまだ、生きていて欲しかった。」


 私がそう言うと、マリアは悲しそうな顔で俯いてしまった。深い憂いの表情に、私ははっとしてマリアに向き直る。


「いや、そういう意味ではない。君には幸せな人生を送って欲しかったのだ。……私には、望めない事だったからね。」


 すまない、とマリアに詫びた。君に会えたことは嬉しいのだ、とも。そう伝えると、マリアは幾分ほっとしたように見えた。けれど、同時に孤独を思わせるような沈痛な面持ちでもあった。


「わたしだって……あなたの運命、受け入れられなかったんだから。」


 マリアは悔しさに耐えるように唇を咬み、悲しげに眉を寄せる。


「どうしてミンウでなくてはいけないの、って。」

「マリア……。」

「どうしても、未来が見えなかった。どうしても……。」


 マリアは目を真っ赤にした顔で、今にも溢れそうな涙をこらえて私を見つめた。


「……ありがとう、マリア。」


 私はそっと、マリアを抱きしめた。マリアの瞳から零れ落ちた涙を、指で拭う。
 マリアはふわりと微笑んで、恥ずかしそうに顔をうずめた。私の胸当てに彼女のピアスがぶつかってシャランと音をたてる。


「やっと、会えたな。」

「……うん。」


 今度こそ、近くに。離れないように。マリアを抱く力をより一層強める。彼女を少しでも近くに感じたかった。


「長かったね。」

「そうだな。」


 淡く儚かったものが――


「私はずっと、君を想っていた。忘れたことはないよ。」

「……うん。今度は。近くに居てね。」


 ――今ここで、ようやく実を結んだ。



20150612


あとがき

幼少期妄想では思いつかなかったけど、実はミシディアに想い人を残してきてずっと忘れられないミンウさまもいいなあと思ったのです

ミシディアの人だと相手も魔導師だろうし、たぶんミンウの運命を予見できるだろうなと
相手への気遣いから結局気持ちを伝え会う事はなかったけど、やっぱり恋しくて切ないミンウさまっていかがでしょう
やっぱり切ないのが似合う人だなあ、ミンウさまって
なんて思ってできた短編です


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