D+S FF-D m-ds New!夢物語
約束 1
魔物の断末魔が響いた。その激しく大きな叫びで雪崩でも起きたら厄介だと思ったが、辺りは静かなものだ。今の所その心配はなさそうだと息をつく。他の魔物の追撃も無くなった事を確認すると、マリアは杖を持ち構えていた手を下ろした。
「お前のお陰で全滅を免れた。感謝するぞ、美しきヒューラン族よ」
前衛にいたエレゼン族の男がマリアを振り返る。銀色の髪が日に当たってきらきらと輝いた。彼も剣を収めると、傍で蹲る騎兵の側にしゃがむ。彼は目線を合わせて様子を伺うが、騎兵は血を流してぐったりとしている。彼の他にも、あと2人の負傷者がいた。
「すまないが、もう一度頼めるだろうか」
「もちろん。任せて」
マリアは再び杖を構えると、魔力を込めた。みるみるうちに騎兵達の傷が塞がってゆく。彼らの顔色も幾分良くなった。
「ああ、感謝の言葉もないぞ冒険者よ。私はオルシュファン。ぜひ我がキャンプに寄ってくれ。何か礼がしたい」
オルシュファンはそう言うと、マリアの側へと歩いた。彼の踏みしめる雪がザクザクと音を立てるくらいで、辺りはしんとしている。
「いいえ、役目を果たしたまでよ。わたしはマリア。お役に立ててなにより」
マリアはそう言うが、オルシュファンはそんな事はないとかぶりを振った。
「何を言う。これでも幻術士は何人も見て来たが、お前ほどの腕の者は初めて見た。素晴らしい力ではないか!」
イイ…と呟くオルシュファンの瞳は爛々と輝いている。つい先程までの死闘で、攻撃しつつ回復も行うマリアの立ち回りを思い出しては、それを饒舌に褒め讃えていた。
「あ、ありがとう」
マリアは本当は幻術士ではなく白魔導士なのだが、訂正すらできないほどオルシュファンは興奮している。次々に飛び出す賞賛の言葉に恐縮しつつ、しかしその方向性に戸惑うのに忙しかった。
「魔力を操るその肉体のしなり…イイ!騎兵とはまた違ったそのしなやかさ、魔物を射抜くような眼差し。とてもイイぞ冒険者よ!」
話しながらさらに鼻息を荒くするオルシュファンにマリアがポカンとしていると、先ほどまで倒れていた騎兵がこほんと咳払いをした。
「オルシュファン様。そのくらいになさいませんと、マリア殿が驚いていらっしゃいますよ」
「む、そうか。ともかく、だ。我がキャンプに招きたいのだ。そうだな、せめて食事でも振る舞わせてくれまいか」
オルシュファンはそう言うが、マリアはうーんと考え込んでいる。
「お気持ちはありがたいのだけれど、行けないわ。わたしは冒険者じゃなくて、グリダニアから仕事で来ているのだけど、仕事がまだ終わっていないものだから」
申し訳なさそうにマリアがそういうと、オルシュファンもがっかりした様子で「そうか」と言った。
「それは残念だ」
「でも、ありがとう」
今度こそ杖を仕舞うと、マリアはにっこり笑った。そして、チョコボを呼ぼうと笛を手に取る。
「我々はキャンプ・ドラゴンヘッドの騎兵だ。差し支えなければ、仕事が済んでからでも寄ってくれ。マリアはどこへ向かっているのだ?」
オルシュファンがそう言うと、マリアは目をぱちくりさせた。
「キャンプ・ドラゴンベッドよ。もう少し北の方よね」
「合ってる?」とマリアが問うと、オルシュファンの表情がさも嬉しそうにぱっと輝いた。
「何たる奇遇!ならば共に行こうではないか。もうじき日も落ちる故、今夜は泊まっていくとイイ」
オルシュファンは任せてくれと、彼の鎧に包まれた胸をどんと叩いた。
マリアは今度こそチョコボを呼び、オルシュファン達と共に目的地であるキャンプへ向かう事となった。途中で何体かの魔物を倒しつつ進む。その中の幾つかは「今夜のご馳走だ」と、オルシュファンや騎兵達がホクホクとした顔で回収してゆく。
マリア#は眼前に広がる白銀の世界を堪能していた。どこを見ても一面の雪景色が眩しい。温暖なグリダニアでは、この量の雪を見る事はまずない。マリアにとって何もかもが目新しく、寒ささえ新鮮であった。とはいえ、グリダニアで手に入る外套などたかが知れている。こんな雪国では防寒着としてあまり役に立たず、だんだん寒さが堪えてくる。チョコボを駆るのにも体力は使うが、寒さの方が勝ってしまっていた。
マリアが思わずぶるりと震えていると、先を行くオルシュファンが振り返った。そのままマリアのチョコボと並走すると、オルシュファンは話を始める。
「キャンプでの仕事とはどんな物なのだろうか。我々は外国からの冒険者や傭兵も積極的に受け入れているのだが、お前はそうではないのだろう」
「ええ、預かり物を届けに来たの」
マリアは懐に小さな皮袋を入れていた。その中には小さな指輪が一つ入っている。最近までグリダニアで働いていた兵士が退役し、彼が宿舎を引き払う際に忘れて行った物だ。何でも母親の形見だとの事で、どこかに残っていないかとキャンプ・ドラゴンヘッドから手紙が届いたのだった。
「先月取りに来るという話だったのだけれど、一向に来ないのよ。たまたまフォールゴウドに用事があったから、ついでにここまで来たの。ちょっと遠いけど、全く知らない仲でもないしね」
オルシュファンはなるほどと相槌を打つ。
「ふむ、その兵士の名は?」
マリアが答えると、オルシュファンの笑みが瞬く間に引っ込んだ。表情を固くする彼に、マリアは何かあったのだろうかと思わず身構える。
「その男なら、亡くなったぞ。一ヶ月ほど前だったか」
オルシュファンは他の騎兵に確認すると、すぐに肯定の返事が返って来た。マリアは思わぬ展開にただただ驚くばかりである。
「何があったの?」
「マリアは対竜バリスタという武器を知っているか?」
確か大砲のような物だったかとマリアが答えると、オルシュファンは頷いた。
「彼には対竜バリスタの整備を任せていたのだが、暴発したのだ。どうやら手順を間違えたらしい」
「そう…」
心まで冷えたようで、マリアはさらに震えた。オルシュファンも他の騎兵も、みな浮かない顔をしている。
「せめて彼の墓に案内しよう。お母上の形見ならば、同じ場所に埋めるのもイイかもしれんぞ」
オルシュファンはそういうと、気遣わしげに微笑んだ。その表情が優しくて、マリアも救われたような気持ちになった。
「そうね。いつまでも保管できないし、それがいいわ」
「ならば、明日の朝参るとしよう。念の為、司祭殿もお呼びしておく故、今夜はゆっくり休むとイイ」
「ありがとう。オルシュファン」
なんのなんのと笑うオルシュファンはとても頼もしかった。
「ほら、見えて来たぞ」
オルシュファンが指す指の先に、石造りの壁が見えて来た。いかにも堅牢な砦である。流石は何百年も戦い続けているだけのことはあるとマリアは思った。イシュガルドの者が長年ドラゴン族と戦い続けている、というのは他国で生まれ育った者でも一般常識として知られている事である。
木々の影が長い。日暮が近いが、明るいうちに着く事ができそうだとマリアはほっと息をついた。
門を潜ると、オルシュファンは先ずマリアを司令室に案内した。ここなら絶えず人の出入りがあり、いつも暖かいからだ。
「まずは暖炉で温まるとイイ」
と言って、オルシュファンは暖炉の真ん前にどんと椅子を置き、そこへマリアを座らせた。マリアの外套を受け取り、壁にかけて乾かしてやる。
「ねえ、オルシュファン」
「どうした?」
「ここの司令官?それとも隊長さん?ともかく、お世話になるからご挨拶したいのだけど、どこへ行けばお会いできるかしら」
マリアはそう言うと、ぶるりと震えた。暖炉の前は暖かいが、身体が冷え切っていて未だ寒くて堪らない。
「ああ、それなら心配無用だ。お前を招いたのは私だからな」
どういう事だとマリアは小首を傾げた。すると、そこへ騎兵の1人がやって来きて、その騎兵は何やらホッとしたような面持ちでオルシュファンの前に立つとこう言った。
「オルシュファン様、おかえりなさいませ。お戻りが遅いので、皆心配していたんですよ」
「ああ、ヤエル。道中を魔物に襲われていた。次々と何体も現れるので一時は本当に危なかったのだが、このマリアが助けてくれたのだ」
「まあ、そうでしたか」
ヤエルと呼ばれた騎兵はマリアに向き直ると深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。我が主の恩人は我らの恩人。どうぞごゆるりと」
そう言われるとマリアも恐縮して、慌てて頭を下げ返した。
「こちらこそ、お世話になります」
「今宵はマリアをもてなすぞ!肉も調達して来た故、皆楽しみにしているとイイ!」
オルシュファンがそう言うと、周りの者達もわっと沸いた。
「私がここの司令官だ。滞在中に何か必要な事があれば、遠慮なく言ってくれ」
「そうだったのね。では、お世話になります」
マリアが頭を下げると、オルシュファンは笑顔で応えた。
続く
2024/01/13
思ったよりもだいぶ長くなったので、この後数回続きます。
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