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約束 2



 宴、といっても前線の基地である。寒冷地である事も大いに関係し、食料も物資も、時には人材も不足しがちだ。だが、振舞われた料理はどれも絶品であった。寒冷地においては暖かいというだけでも十分に馳走だが、異国の食べ物はどれも目新しい。初めての味わいにマリアは舌鼓を打つ。
 オルシュファンが手ずから狩ってきた肉はシチューとなって食卓に並んでいる。パンも添えられて、今夜の目玉となっていた。

 兵たちは交代で食事をする。オルシュファンはそのほぼ全員、他の使用人達も含めて大勢の者と食事を共にするのが常である。司令室に並べられたテーブルに入れ替わり立ち替わり食事に来る者達は皆、ご馳走だと顔を綻ばせた。それを見たメインディッシュを狩って来た本人もご満悦である。

「まだまだあるぞ、誰がお代わりは要らんか。マリアももっとどうだ」

 オルシュファンは満面の笑みで、鍋を抱え自らレードルを持って歩き回り、おかわりを募っている。彼はとっくにシチュー三皿分を平らげて、腹が満たされた後は他の者達に配って回っていた。

「ありがとう、頂くわ。すごく美味しい」

 そうしてマリアが皿を差し出すと、オルシュファンはおかわりを満たしてゆく。ついでに水のお代わりも置いていくと、オルシュファンは鍋とレードルをテーブルに置いてマリアの隣に腰掛けた。

「幻術の事について聞かせてくれないか。本当に、あれは見事だったぞ。武人とはまた違った肉のうねり、控えめながら流れるようなしなやかさ…イイ!」

 マリアはオルシュファンの謎のスイッチが入ったのが見えたような気がした。「聞かせてくれ」と言いながら、オルシュファンは「イイ!」と連呼し高揚している。昂る彼を気にしながら、向かいに座っていた騎兵が心配気にマリアに声をかけて来た。

「オルシュファン様は好きなものを見つけるとああなりますが、言葉以上の深い意味はありませんのでどうかご容赦ください」

 下手を打てばむしろそのままでもセクハラとして成立しそうな物なのだが、本人にその気は全くない。ただ褒め称えたいだけで、純粋な筋肉への愛だという。女であろうと男であろうと、たとえ動物でも関係なく、特にイイ筋肉を見ればこうなってしまうのだと彼は言った。

「初めは驚きましたけど、そう言われると納得しました」

 普通のセクハラなら、とっくにもっと嫌な気持ちになっているのだ。しかしオルシュファンのは独特で、驚きはしても不愉快にはならない。むしろだんだん愉快にすらなってきたくらいだ。

「オルシュファン様は騎士道を地で行くお方です。間違いなんて起きない…いいえ、起こさないのです。もしも万が一にも起こったら、それはもう間違いではないでしょう」

 とてもイイ騎士なのですから、と言うこの騎兵もだんだん熱くなってきている。語種まで似てくるものなのかとマリアは驚く。

「コランティオ、聞こえているぞ」

 すかさずオルシュファンが口を挟むと、コランティオと呼ばれた騎兵は特に悪びれもせずに続けた。

「失礼しました。けれど、本当に気をつけて下さい。何度も申し上げますが、このキャンプの者でも慣れるまでは皆驚くんですからね」
「む、そうだったな」

 ズバズバと言ってのける部下と押される上司の構図、そしてまだ高揚しているオルシュファンが面白くて、マリアはくすくすと笑い始めた。

「これは参ったな」
「あははは、ごめんね。けど、おもしろくて」

 マリアついに堪えきれなくなって、声をあげて笑った。周りの者もみなニコニコして実に楽しそうである。とはいえ、紛れもなくここは最前線の砦だ。そのはずなのに殺伐としたような雰囲気はない。かといって緩んでいる風でもなく、これも一重にオルシュファンの手腕である。

「それにしても素晴らしい効力だった。みるみるうちに怪我が治った上に、どんどん力が漲って来るのだからな」
「良かったわ。あれはリジェネという魔法よ」

 ここでようやく、マリアは自分が幻術士ではなく白魔導士であると訂正していなかった事を思い出した。その事も含めて説明すると、オルシュファンも他の騎兵も皆興味深々といった風に熱心に耳を傾け始める。
 風や水、土など、至る所で自然界に発生する淀みを鎮めるために黒衣の森を駆け回った事、魔物が淀みを産んだり、増強している事。それを討伐し、それによって生じた自然の怒りを鎮める事。そうして森を守り、生き物の営みに寄り添うのが白魔導師であり、それが人間達の生活を支えている事など、マリアは求められるまま解説した。答えられる事は全て答える。すると、皆納得の表情で相槌や更なる質問を返してくる。互いに手応えを感じ、白熱した。

「本来なら、白魔法はヒューランでも角尊だけに継承されるものだったはずなの。わたしも幻術を修めるつもりで修行したのだけれど、何故か選ばれてしまって」

 マリアはとある儀式の手伝いに駆り出された折に、ふと長老の木の側へ寄った。すると、突然ソウルクリスタルが現れて、驚くマリアをよそに半ば強引にマリアの掌に収まってしまった。その賛否は大いに荒れた。角尊の中でもマリアを認める者とそうで無い者に分かれるし、その他の者の間ではマリアを認めたく無い者の方が多いくらいであった。以降、マリアはとても仕事をしにくくなった。さらなる魔法を継承し、できる事は増えたのに、干されているような物である。
 とはいえ、ここまでの事情を話すのはさすがに気が引けた。今日初めて会った人にするような話でもない。
 適当に話を切り上げると、誰かがまた別の質問をした。これ幸いと話題を切り替えると、マリアは内心ほっとする。そして、まだ暖かいお代わりをそっと口に運ぶ。その様子をオルシュファンは何やら物言いたげな顔で見ていたが、口にはしなかった。

 食事も人も粗方減った頃、マリアは後片付けを手伝っていた。客人だから休んでいろと言われたが、手持ち無沙汰であった。勝手に手伝い始めると、次第に周りも好きにさせてくれる。
 オルシュファンや残った騎兵らと共に長い食卓を運び、もとの広間に戻していく。翌朝も食べるのだから置いておけば良いのにとマリアは考えたが、万が一の夜襲に備えて片付く物は片付けるのだと言う。はやりここは最前線だったと、マリアは内心ドキリとした。
 最後に残った食器と鍋を、オルシュファンと手分けして抱える。これからそれらを厨房まで戻しに行くのだ。

「ねえ、オルシュファン」
「なんだ?」

 大鍋を抱えると、マリアはオルシュファンの隣に並んだ。オルシュファンは大量の皿を抱えたまま、器用に扉を開く。2人で司令室の外に出ると、外は雪がちらついていた。今夜も冷えそうだとオルシュファンが呟くと、白い息がふわりと漂った。

「コランティオさんに聞いたよ。筋肉が大好きなんだってね」

 オルシュファンは嬉しそうに頷いた。

「そうなのだ。鍛え上げられた肉体ほど美しい物は他にあるまい」

 だんだんと悦に入るオルシュファンは小鼻を膨らませて力説する。

「そうねえ。肉体美と言うくらいだものね」

 そうだろうそうだろうと、オルシュファンはますますご機嫌になってゆく。すれ違う騎兵や傭兵たちは、暖かい目でオルシュファンに敬礼し、やや気の毒そう目でマリアに会釈して行った。

「わたし、そんなに筋肉無いよ。どうしてそんなに褒めてくれるの?オルシュファンはもっと逞しいのを見慣れているでしょうに」

 コランティオからオルシュファンの筋肉愛を聞いた時、まず浮かんだ疑問はここだった。日頃から筋骨隆々の騎兵や傭兵達に囲まれ、また自らも鍛えているオルシュファンが、なぜ彼らよりも貧相な自分までそんなに褒めるのだろうか、と。

「お前は新たなる境地を開いてくれたのだ、友よ」
「新たなる、境地?」

 ザクザクと雪を踏みしめながら並んで歩いた。借りた防寒着は、マリアの自前の物とは比べ物にならない程暖かい。

「鍛え上げられた筋肉はもちろん美しい。しかし、杖や魔力を扱う様もまた違った美しさがある事を知ったのだ」

 オルシュファンは瞳をキラキラさせている。さながら煌めく水面のようだとマリアは思わず見入ってしまった。

「それに、あれだけの魔力を扱うには強い精神力も必要であろう。それもまた素晴らしい。イイ精神はイイ肉体に宿るのだからな!」

 厨房まではそれほど遠くはない。オルシュファンが力説するうちに着いてしまった。抱えて来た食器と鍋を置くと、オルシュファンは料理人達に美味しかったと声をかける。

「手伝いをありがとう。客人に手伝わせるのは忍びないが、助かった」
「こちらこそ。宿まで提供してもらうのだもの、このくらいさせて頂戴」

 オルシュファンは部屋まで送ろうと言って、また2人で雪の中を歩き始めた。

「ここ、とても居心地がいいわ」
「それはよかった。お前さえイイなら、幾らでもいてくれて構わんぞ」

 宿舎の扉を開けると、オルシュファンはマリアを先に入るように促した。マリアはありがとうと言って建物に入る。薄暗い廊下を少し歩き、階段を登った所にある部屋が今夜マリアに用意された部屋だ。

「本当?仕事をくれるの?」

 少し先を歩くオルシュファンにマリアが問うと、オルシュファンは振り返ってにっこりと笑った。

「もちろんだ!このキャンプの幻術士の指導か、それとも救護を頼むのもイイかもしれんな」

 マリアのような優秀な術者なら大歓迎だ!と付け加えると、オルシュファンは前を向き、2人はまた歩き始める。

「わあ、嬉しい。うーん、どうしようかなあ」

 本当に転職してしまおうか、などと考える。いっそ全て放りだせたらどんなに楽だろうか。
 階段を登り始めると、もう部屋の扉が見えて来た。おしゃべりもここまでかと思うと、マリアは急に残念な気持ちになった。マリアが扉の前で立ち止まると、彼女のすぐ後ろにいたオルシュファンはその場で立ち止まった。

「ではマリア。明日、墓を参る時には声をかける。長旅で疲れているだろう。今夜はゆっくり休むとイイ」
「ありがとう。おやすみなさい、オルシュファン」

 マリアが部屋に入ったのを確認すると、オルシュファンは司令室に戻って行った。

続く

2024/01/14



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