D+S FF-D m-ds New!夢物語
約束 3
よく晴れて、すっきりとした朝である。昨夜からの雪は止み、外を歩くには丁度良い。空気は凍て冷たいが、よく澄んだ空気が気持ち良かった。
マリアはオルシュファンと共に、墓地に向かっている。キャンプからほんの少し離れた場所に作られたその場所は、よく手入れされていた。
「司祭殿には遺品を埋める事は話してある故、何の心配もいらない。故人も安らかに眠れるだろうと仰っていたぞ」
「ええ、きっと心残りだったと思うの」
離れた場所で、雪がバラバラと落ちた。積もった雪の重みに木の枝が耐えられなかったのだろう。粉のような雪が白く舞っている。どこもかしこも真っ白く、日の光で輝いていた。
やがて墓地に到着すると、オルシュファンは真っ直ぐに一つの墓へ向かった。真新しい墓石には、マリアが尋ねて来た男の名が刻まれている。顔と名前が一致する程度の知り合いだったのだが、もうこの世には居ないのだと思うとマリアは何とも悲しかった。
「本当に死んじゃったのね…」
オルシュファンは懐から小瓶を取り出すと、中身を墓石にかけた。中身は少しツンとした甘い香りが辺りを漂う。2人は並んで黙祷を捧げた。
「マリアがお前の忘れ物を届けてくれたぞ」
オルシュファンは墓石に語りかけると、その場にしゃがんだ。マリアもキャンプで借りて来たスコップを取り出すと、土を掘り始める。
朝一番の凍った土は固い。思うように土を掘れずにマリアがスコップの先で土を突いていると、オルシュファンがそのスコップを手に取った。代わりにスコップを土に差し込むシャリ、シャリという音が静かに響く。
やがて程よい深さの穴ができると、マリアは預かっていた指輪をそこへ置いた。掘った土を戻し、穴を埋めてゆく。土を慣らした後、マリアは土の上に手をかざした。
「ほんの少し、淀みかけているわ」
「なんと!」
目を丸くするオルシュファンはマリアのかざした手とその下の土に釘付けになった。目に見えて何か変わった訳ではなかったが、触れる空気は幾らか澄んだ気はする。よく晴れた早朝の空気、或いは掃除したばかりの部屋のようだとオルシュファンは感じた。
「彼はよほど心残りだったのかもしれないわね」
マリアは立ち上がった。辺りを探るが、他に淀みを感じる場所はない。
「時折あるのだけれど、残された念が僅かな淀みを生み、そこに魔物が取り憑く。それが淀みをさらに大きく深刻にする。そうなると凶悪な魔物が寄って来たり、増えたり、目に見えて悪くなる。けれど、もう大丈夫」
マリアはしゃがんだままのオルシュファンを見下ろす格好になった。背の高い彼とは、目線はこの方が近い。
「そうか。感謝するぞ、マリア。お前はまた我々を救ってくれたな」
「お役に立てて嬉しいわ。人も自然も、癒す事がわたしの役目。わたしの誇りよ」
マリアは微笑んだ。自分が勤めを果たしてこうして喜ばれる事など、いつ以来だろうだったろうか。グリダニアでは久しくなかった事だった。心が塞がりそうになっていると、オルシュファンと目が合った。
「ならば何故、お前はそんなにも暗い顔をしているのだ」
「…え?」
オルシュファンはマリアの瞳をじいと見ている。マリアは今だって微笑んでいるつもりだったのだが、オルシュファンの表情はそうは言っていない。
「昨晩もそうだった。お前は、役目だ誇りだと言いながら、とても辛そうな顔をしているぞ」
マリアの瞳から涙が零れた。一度流れると、次から次へと溢れてくる。
「ごめん、どうしよう。止まらない」
オルシュファンは立ち上がると、その大きな手をマリアの肩にポンと置いた。
「何、泣きたい時は泣けばイイ。それに、私は口の固い方だ」
そう言われるや否や、マリアはわっと泣いた。思わず嗚咽が漏れるほどだったが、オルシュファンもどんと構えている。
「さあ遠慮は要らない。私で良ければ胸を貸そう」
そう言って、オルシュファンはマリアの背に宥めるように手を置いた。大きくて暖かな手のひらが心地よい。それがいっそうマリアの涙を誘った。
しばらく泣いた後、マリアはオルシュファンを見上げた。思ったよりも近い位置でオルシュファンと目が合うと、彼はとても心配そうな顔でマリアを見下ろしていた。
「少し落ち着いたようだな」
「うん、ありがとう」
「これを被っておくとイイ」
オルシュファンはマリアの外套に付いていたフードをそっと被せた。昨晩からマリアがキャンプで借りている物だ。
「あ、暖かい」
マリアがそう呟くと、オルシュファンは目が点になった。知らなかったのかと表情が言っている。
「グリダニアは、こんなに寒くなる事がないから」
「そうか、驚いたぞ」
「ふふふ」
思わず笑みが溢れた。オルシュファンも同じように微笑んでいる。
「そう、その顔がイイぞ」
「…ありがと」
「ここは冷える。そろそろ戻ろう」
オルシュファンはマリアの背に手を添えて、墓地から出ようと促した。マリアも素直に従い、2人はキャンプの方へと歩き始めた。
「わたしね、ずっと悩んでいるの」
マリアは思いがけず白魔導士となってしまった日から続く困難をオルシュファンに話した。初対面の者にする話では無いと思って黙っていたが、ここまで付き合わせたのだ。気が付いたら喋っていた。
「それは、辛いな」
「うん。わたしを認めさせようと協力してくれる方もいるのだけれど、どれだけ上手く行っても、誰かを助けても、必ず妨害に遭うの。その方の立場もだんだん悪くなってきたし、もう…」
そこまで話すと、マリアは俯いてしまった。思わず立ち止まると、歩調を合わせていたオルシュファンも足を止めてマリアの様子を伺う。
白い狐が雪の上で跳ねた。ただ穏やかで静かだった。そこにいたはずの狐は、いつの間にかいなくなっている。
「よし、私も秘密を教えよう」
オルシュファンは唐突にそう言うと、キツネが消えた辺りを見ながら語り始めた。
「私は庶子として生まれた。所謂、隠し子だ」
マリアは俯いていた顔を上げた。オルシュファンを見上げるが、彼はまだ遠くの雪を見ている。
「残念ながら、私のような立場の者はイシュガルドではさして珍しくはない。大抵、貴族の男が使用人の女に手を出して、妊娠が分かれば捨ててしまう。私の母がどうだったかは知らぬが、こんな話はいくらでもある」
マリアは何と返答すべきか困ってしまった。少なくとも、これまでオルシュファンが苦労して来たのは間違いない。
「ただ、それでも私は幸運だったのだ。フォルタン伯爵…父は、母も私も捨てなかった。私を他の兄弟と同じように育ててくださった。伯爵夫人には猛反対されたし、最期まで疎まれ続けていたが、そうなるのもわからないではない」
キツネがまた現れた。今度は2匹いる。見つけたと思ったら、連れ立ってまたどこかへ走り去っていった。
「だが、私が騎士になれるように、身を立てられるようにと、他の者に内緒で剣の稽古をつけてくれた者がいた。理解ある友もいる。どれが欠けていても、私は今ここに立ってはいななかっただろう」
オルシュファンはようやくマリアの顔を見た。マリアが思っていたよりも、彼はさっぱりとした表情をしている。
「大変な半生だったのね」
「そうかもしれんな。しかし、案外気楽なところもあるのだ」
「そうなの?」
どう聞いても辛そうな生き方だとマリアは思う。
「例えば、そうだな。私が誰と添おうと、子を成そうと成すまいと、誰も気にしない。だが、跡取りとなるとそうもいくまい。家柄だの何だのと、政略に振り回されずに済む」
イシュガルドに色濃く残る貴族社会は窮屈そうだと、マリアはぼんやり考えた。どこの国にも、それなりに問題はあるのだ。
「とはいえ、お前にはイシュガルドを悪く思って欲しくは無い。あの美しい皇都の街並みを、いつか案内したいものだ」
彼の国は鎖国していて、他国との関わりを経って久しい。そんなイシュガルドにおいて、フォルタン家の方針がむしろ珍しいのだとオルシュファンは言った。
「すごい秘密だったわね。びっくりしちゃった」
「マリアこそ、なかなかのものではないか」
そう言い合うと、どちらからともなくまた歩き始めた。
「わたしね、数日でも良いからグリダニアから離れたかったの。押し付けられた任務だけど、わたしにも都合が良かったんだよ」
帰りたく無い。何も求められず、認められる事もない事が辛くてたまらないと、マリアはまた泣きそうだったた。
「昨日も言ったが、お前ならこちらは大歓迎だ。任せたい事が幾つもある。その知識と技術を大いに広めて欲しいのだ」
鎖国している手前、オルシュファンとしても公式にマリアに要請する事はできない。しかし、他の傭兵や冒険者達のように、フォルタン家との私的な契約なら話は別である。
「お前の熱い眼差しとうねる魔力、そしてそれを扱う肢体を毎日目の前で存分に眺められる…イイ!」
そのまま謎のスイッチが入るかと思いきや、オルシュファンはハッとしたように立ち止まると、マリアの両の方に手を置いた。イイ事を思いついた子供のように生き生きとした表情で、マリアの顔を見ている。
「そうだ。お前に皇都を案内する方法があるぞ」
「へ?何?どうしたの?」
オルシュファンは途端に至極真面目な顔つきで、さも名案だとばかりにこう言った。謎のスイッチは何故だかどこかへ引っ込んだが、代わりに別のスイッチが起動した。
「私と結婚しないか、マリア」
オルシュファンは真顔である。真剣にそう言っている。対してマリアは、今自分が何を言われたかを心の中で何度も復唱した。何度それを繰り返しても、あまりにも唐突である。言葉は分かるのに、理解はまるで追いつかなかかった。
「け、け、け、結婚?するの??わたしと???何で????」
「そうだ。…嫌か?」
突然自信を失ったように、オルシュファンは悲しそうな顔をした。捨てられた子犬か、萎れたひまわりのようにしゅんとしている。
「そんな事ない」
咄嗟に出た言葉に、マリア自身も驚いた。今の所は、オルシュファンを決して嫌いではない。よくわからないが、それだけは確かだ。
「そうか」
それを聞いたオルシュファンは、次の瞬間にはとても嬉しそうな表情をした。あまりの切替の速さにマリアはぷっと吹き出した。
「あははは。もう、オルシュファンたら」
2人して笑い始めると、何だかとても楽しくなってしまった。けらけらと笑うと、重かった心が軽くなる気がする。唐突すぎてどうしたら良いかわからないとはいえ、こういうのも案外イイのかもしれない、とマリアは心の隅で考えた。
世の中には、まれに出会ったその日に結婚を決めてしまうカップルがいるという。とはいえそれは知らない誰かの話で、マリアはまさか前日に出会った人にプロポーズされるとは全く思ってもいなかった。
2024/01/15
霊災以降急激に寒くなったらしいけど、それまでは四季はあったんだろうか。あんなに寒そうなら急に天候が変わったらそれだけでも命の危機だわな。
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