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噂のあの子とそのオカン 1



 インターホンを鳴らしても返事がない。本当なら扉をノックしたいところだが、見るからに分厚い自動扉を叩くのは少々痛そうで結局やったことはまだ一度もない。

「セフィロス、おるんやろ。入るで」

 返事を待たずにカードキーをかざすと、扉はあっさり開いた。

「あんた、また鍵かけてへんかったやろ」

 ワゴンをガタガタと揺らしながら部屋に入ると、ベッドに座ったままじいと何もない一点を見つめる少年にそう言った。しかし彼は一言も返事しない。視線だけは寄越したが、すぐにまた同じ所を見つめ始める。そこに表情は無かった。

「あんたなあ。ラディオルで何があったか知らんけど、返事くらいしなはれや。寂しいやんか」

 セフィロス、ともう一度声をかけると、少年はもう一度顔を向けた。今度は少し申し訳なさそうな顔をしている。

「すみません、マリアさん」
「ええよ。でもな、ソルジャーの守秘義務はしゃあないにしても、そんなに塞いでたら気になるわ。せめて何か食べんとあかんで。まだまだ成長期やねんからな。あと鍵はちゃんとかけとき」

 いつもなら、「俺は特別だから大丈夫」だの何だのと口答えが返ってくるのだが、セフィロスはただ黙っている。まるで抜け殻のような少年の姿がマリアは何とも痛々しいと思った。普段からペラペラ喋るような子ではないが、あまりにも静かすぎる。窓の一つもない部屋に、蛍光灯がやたらと明るかった。
 
 がらんとした部屋にはベッドと食卓くらいしかない。その食卓に、マリアは用意してきた朝食を並べる。運んできたワゴンからまだ湯気の立つ器を取り出すと、美味しそうな匂いが漂い始めた。

「あれ、2人分ですか」
「うん。その方が楽しいやろ」

 今度は折り畳み椅子を取り出して食卓の自分の膳の前に置くと、マリアはそこに座った。

「さ、早よ食べよ。冷めたら勿体無いわ」

 マリアが手招きすると、セフィロスもゆっくりとやって来た。

「ありがとうございます、いつも」
「いいえ、でもこれわたしの仕事やから」
「でも、俺と一緒に食べるのは含まれないでしょう?」

 無表情ながら、どことなく嬉しそうな声の少年にマリアは内心ほっとため息をついた。この数日の事を思うと、ようやく返事をするようになっただけでもマシである。

「そやな。でも、あんた1人やったら食べんやろ」

 セフィロスは困った顔をして、並べられた食事を眺める。

「良い匂いだとは思うんです。でも、どうもそんな気になれなくて」

 そう言いながらスプーンを手に取ると、セフィロスはゆっくりとお粥を掬った。湯気の立ち上るお粥は一口分でも十分に熱そうだ。ふうふうと息を吹きかけて、そっと口へ運んでゆく。

「良かった。やっと食べたな」

 マリアは思わず安堵の息を漏らした。セフィロスがふた口目も口へ運ぶ様子を見て、マリアはようやく心が落ちついたのを感じる。
 セフィロスが遂に実戦に投入されたと聞かされてから、マリアは心配で堪らなかった。彼の無事の帰還を喜んだのも束の間、むしろそれからが本番であった。セフィロスは確実に何かに傷ついている。職務上、現場での事もセフィロスの身の上の事も、ただの世話係には知らされる事は無い。だが、それだけはマリアは確信していた。

「久しぶりですね、一緒に食べるの」
「ほんまやねえ。前は毎日一緒に食べてたのになあ」

 咀嚼し、飲み込む。セフィロスは長い間、食事をただそれだけの作業だと思っていた。それがマリアがやって来てから変わった。知らない味、鮮やかな彩り、そしてそれを自分以外の人と共有する事が、いつの間にか楽しみになっていた。

「あれ。おーい、セフィロスくーん」

 セフィロスの三口目は、彼の口へは運ばれてはいなかった。彼の視線は握ったスプーンと共に未だ熱い粥の中である。
 セフィロスはハッとしてマリアに顔を向けた。

「だいぶ疲れてるな」
「…はい。でも、今日から戦闘訓練が始まるんです」

 セフィロスはまた無の表情に戻ってしまった。やりたくないと全身から心の声が漏れている。

「わたしな、ここへ来る前にソルジャー部門に掛け合って来てん。疲れてるみたいやから、ちょっと休ましたって、って」
「え?本当ですか」

 驚いた顔で、セフィロスはマリアを見つめる。期待に満ちた雰囲気に、マリアは申し訳なさそうに首を横に振った。

「ううん。あかんかった。化学部門はセフィロスの体調に問題は無い言うてるから、の一点張りで話が通じへん」

 しゅん、とみるみるうちにセフィロスは萎れてしまった。再び視線が粥の中へ落ちる。

「なあ、セフィロス。あんた、今日だけわたしの息子な」
「…え?」
「食べたら出かけよか」

 ポカンとしたセフィロスに、マリアはニッコリと笑って見せた。

「しんどい時に休んで何が悪いねん。一応声はかけたのに、無視するんやったらこっちも無視したろか。なあ」

 マリアは不敵に笑うと、粥を一気に掻き込んだ。セフィロスもつられて食事を再開する。

「マリアさん?」
「母さんとお呼び」
「ほ、本気ですか?」

 まだセフィロスは混乱している。けれど、訓練を拒んでいたような重苦しさは消えた。あっという間に食事を終えたマリアはいそいそと片付けを始める。

「わたしはいつでも本気やで。あ、手伝うから後で変装してな。あんた目立つから」
「訓練、サボってしまっていいんですか…?」

 そう言いながらも、セフィロスは嬉しそうだ。年相応の、とはまだ言い難いが、瞳は少しイキイキして来たとマリアは思った。

「今日は特別や。でも今日だけな」

 セフィロスの顔にははっきりと「嬉しい」と書いてある。しかしまだ煮え切らない。心配そうな顔でセフィロスは立ち上がり、こう言った。

「そんな事して大丈夫ですか?俺、マリアさんにクビになって欲しくないんです」

 必死な顔でそう言われて、マリアは思わず黙ってしまった。そこを突かれるととても痛い。
 もちろん、マリアとしてもこんな状態のセフィロスを置いて辞めるわけにはいかない。何年も世話をするうちにすっかり息子のように思っているし、セフィロスも気を許している。
 今マリアが辞めれば、セフィロスが更に傷つくのではないかとの心配はある。しかし、かと言ってこのまま訓練に戻したところで心が追いつかないのではないかとマリアは思った。
 それにしても、余計なことは言わない彼が、はっきりとマリアにやめて欲しくないと言った。そのことがマリアは思いの外嬉しくて堪らなくなった。
 思わず涙ぐむが、泣いている事は知られたくない。マリアはセフィロスを抱きしめた。すると、彼はいつの間にか自分よりも背が高くなっている。少年の成長を感じてますます涙を誘うのだから、誤魔化すのは完全に失敗であった。

「あんた、特別なんやろ。後は頼むで」

 そう言って涙を拭うと、マリアは微笑んだ。

「あ、わたし、今日はあんたのオカンやからな!呼んで!」

 マリアがそういうと、セフィロスは声を出して笑った。

続く


2024/11/20
「ティーンなセフィロス」「セフィロスを読みたい」とのリクエストを頂いていました。ありがとうございました!ちょうどECやってて書きたくなってました。

どうしてもオカン目線になるのは仕方ないよね!そういう歳なんだもん。
それにしたってあんな不憫な息子、気が気でないわ。完全に虐待やんな、神羅。

夢小説の概念に息子が含まれるかは知らんけど、たぶん無いやろうな。とはいえ15歳と恋愛なんか無理だぞ、と。15歳同士の設定なら良いのかもしれないけど、15歳の気持ちってどんなだっけ……?



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