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噂のあの子とそのオカン 2
食事を終えた後、マリアはすぐにセフィロスの部屋に戻ってきた。彼女の押してきたワゴンは、掃除道具やら代えのシーツやらでてんこ盛りである。その中に、マリアは幾つかの変装用具も混ぜておいた。
マリアは肩に垂れる髪を一つに纏めた。黒い房のようになった髪を揺らしながら、ワゴンの中から必要な物を探し出す。その中からかつらを掴むと、くるりとセフィロスを振り向いた。
「さあ息子よ。どっちがお好み?」
マリアは左右の手に金髪のかつらと黒髪のかつらを持って、セフィロスに見せた。
「銀髪は世間では珍しいねん。せっかく抜け出してもすぐバレるで」
最近ではセフィロスは英雄として、新聞どろこか雑誌やテレビコマーシャルにまで出ている。服装を変えたところですぐに見つかってしまうのは目に見えていた。
「そんなに有名なんですか、俺」
「それはもう」
心底複雑そうな顔をしたセフィロスを横目に、マリアはかつらを見つめて想いを馳せる。
ブロンドのかつらは少し長めで、リボンで結えばかの砂漠の王様のようにエレガントになるだろう。
また、黒髪の方は長めのショートヘアだ。竜との千年に及ぶ戦争を和平に導いたあの総長のように麗しく仕上がりそうだ。それに、長い前髪で顔を隠すには良いかもしれない。などと考えているうちに、セフィロスはさっさと黒いかつらを被っていた。
「…俺は議長でもありませんからね」
「まだ何も言うてへんねんけど」
「分かりますよ。伊達に何度も竜詩戦争の回顧録を読んでません」
ははは、と誤魔化すように笑うと、マリアは渡そうとしていた青いイヤリングをそっと荷物の中に仕舞った。
マリアが世話係の職に就いた時、セフィロスはまだ小さな子供だった。そんな子供に「特別な才能がある」とだけ聞かされ、彼が厳しい訓練に明け暮れるのを見てきた。そこでマリアは彼の有名な英雄の冒険譚が参考になれば良いと考えて、セフィロスに読み聞かせたり、書籍を与えたりしていたのである。件の回顧録もそのうちの一つであった。読み聞かせるうちに、マリアの方がすっかりファンになってしまったのは言うまでもない。
「だって、マリアさんは黒髪だから。親子の設定なら、その方が自然です」
そう言って、黙々とかつらを整えるセフィロスにマリアは返す言葉もなかった。
気を取り直して、次は衣装変えである。既にミッドガルで流行っている服を調達してきた。世話係の権限で、セフィロスの教育とでも言えば彼の職務以外の事なら大抵どうにかなる。
「あら、なかなかええやん」
フード付きのパーカーにジーンズという、とてもカジュアルでかつ誰でも着ていそうな服である。しかし、セフィロスはその格好で刀を握った。
「ちょっと、それはやめよ。一般人に紛れられへんわ」
「いえ、そうではありませんよ」
そういうと、セフィロスはきっと壁を睨んだ。マリアは何事かと事の次第を見守っていると、次の瞬間には壁に大穴が開いていた。
「…嘘やろ?これ、どうするねんな」
窓すら無い部屋だとは思っていた。しかし、この穴は窓どころかバルコニーでも作れそうなサイズである。
「マリアさん、前から窓もないって言ってましたよね。俺はこの部屋しか知らないから、そんなものかと思っていましたが」
セフィロスは納刀しながら涼しい顔でマリアを振り返った。
「やっぱり外が見える方が良いですね。帰ったらそこにガラスでも付けてもらいましょう」
そう言ってセフィロスは刀をベットの傍に立てかけた。穴から他の荷物が落ちやしないかとマリアはハラハラしているのに、当のセフィロスはどこ吹く風である。
「俺は準備できました。マリアさんはとうですか?」
「うん、わたしももう出かけられるけど…このまま行くん?」
マリアが心配そうに穴を見ていると、セフィロスはすっと手を差し出した。まるで気にしていない風で、今度はマリアが混乱している。
「では、行きましょうか。どうせならバレる前に行かないと」
そう言いながら、セフィロスはマリアを軽々と肩に担いだ。大して背丈も体格も変わらないのに凄い力だと驚くと共に、マリアは別の危惧を感じ始める。
「あの、セフィロス?あんたまさか」
「ええ、そのために開けましたし」
「うそやんわたしソルジャーちゃうてだいたいここ何階──」
どんどん近づく剥き出しの空にマリアは慄くしかない。マリアは不平も悲鳴も声にならなくなっているのに、セフィロスは平然としている。
「大丈夫です。俺がいますから。それより、舌を噛まないように気を付けてください」
セフィロスは事もな気に飛び降りた。マリアは声を出すのも忘れて、ひたすら無事の着地を願うだけである。ほんの数秒ではあるが、生きた心地はしなかった。
神羅ビルの上の方から人影が落ちてゆく。それを見た者は誰もいなかった。
続く
2024/11/21
合言葉は「俺は特別ですから」
大丈夫!だってセフィロスだから
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