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噂のあの子とそのオカン 3



 落ちてからしばらく、マリアの記憶はあやふやであった。とにかくセフィロスは無事に着地し、マリア共々完全に無傷であった。流石ソルジャーだとは思ったが、マリアは死ぬ思いである。

「死んだと思った…」

 マリアは虚な瞳で天を仰いだ。青い木々の向こうに神羅ビルが聳え立っている。つい数分前までそこに居た事の方が、気のせいだったような気がした。

「大丈夫、生きてますよ」
「死んでへんだけやん」

 いつの間にか五番街に来ていた。マリアは公園のベンチに座り込んでいて、それに気がつくと、今さら足がすくんだ。

「こうしておけば、俺があなたを巻き込んで脱走したように見せられるかもしれません。その方が、後々良いかと思って」

 セフィロスはマリアの隣で、同じようにビルを眺めていた。

「それに、今の様子から、あなたなら絶対にこの方法は取らないと確信しましたし」

 さもすごい発見をしたかのように語るセフィロスに、マリアはギョッとして振り返った。

「何言うてんの。言い出したんはわたしやんか。それに、あんな事できるんはアンタだけや」

 ふふふ、とセフィロスは楽しそうに肩を揺らした。

「ええ、じゃあ安心ですね。俺があなたを付き合わせました」

 ふう、と長く息を吐いて、マリアはようやく立ち上がった。

「まあ、後の事を頼んだのはわたしか」

 ありがとうとマリアが言うと、セフィロスは頷いた。セフィロスも立ち上がりマリアに並ぶと、2人で歩き始める。

「さて、これからどうしますか?」
「ほんまやったらこれから買い出し行くんやけど、脱走中やしなあ。アンタどっか行きたいとこある?」

 マリアがそう言うと、セフィロスは腕を組んで考え始めた。

「じゃあ、買い出しに行きましょう」
「そんなんでええのん?」
「はい。俺は行った事ありませんし」

 真顔でそう言われては、マリアも否定はできなかった。とはいえ、先に買い出しなんかしてしまったら大荷物になる。真っ先にビルに帰らざるを得なくなるのでは、せっかく出て来た甲斐がない。

「じゃあ、アイス食べへん?スーパーは七番街やし、その道々にあるし、荷物増える前に」

 そう言うと、セフィロスの顔がパッと輝いた。
 訓練やら化学部門からの制約のせいで、セフィロスは自分の事でも思うようにできない事がままあった。幼い頃に比べてだいぶ減ったが、食べ物も制限されている。アイスクリームひとつ食べるのにもこの幼い英雄は苦労しているのだ。
 世話係たるもの、セフィロスが制限されている物はもちろん把握している。しかし、たまにはいいじゃないか。食べてはいけないわけではないのだから。

「滅多に食べられへんもんな。今日は特別や」

 三段ずついこか、などと言うとセフィロスはますます嬉しそうだ。店まで走ろうとまで言い出す始末である。しかし、オカンにはきつい。もちろんソルジャーでもない。
 無事に3段重ねのアイスクリームを手に入れ、スーパーまでさらに歩く。しかし、念願のアイスクリームを手にしたセフィロスは、思いの外大人しかった。

「どうしたん。さっきまであんなに喜んでたのに」

 手にしたアイスクリームを見つめながら、セフィロスはぼそりと何かを呟いた。

「え?なんて?」

 マリアがそう聞き返すと、セフィロスはハッとした顔でマリアを見た。そしてバツの悪い顔をして、そのまま視線を落としてしまった。

「俺なんかが、呑気にこんなものを食べていて良いんでしょうか」

 そう言ったきり、セフィロスは硬い顔をして黙ってしまった。
 現場や戦地での事は機密が多い故に、マリアには話せない事が多い。内容によってはマリアも処分の対象になると聞かされて、セフィロスはそれを律儀すぎる程に守っていた。

「無理して話さんでええで。特に今は外やしな」

 ラディオルで何があったかはともかく、周辺諸島の崩壊とラディオル人の全滅は周知の事実だ。報道により、一般市民も広く知るところである。しかし、その情報が全てではないであろう事は、セフィロスの様子からも明らかだった。

「英雄とは、何なんでしょう。俺には、ただの──」

 人殺し──セフィロスがそう言おうとしているのを、マリアは咄嗟に遮ろうと思った。誰が聞いているか分からないのに、こんな話はできない。それこそタークスにでも出会したら余計にややこしくなりそうだ。何より、彼の口から言わせてはいけないと思った。

「溶ける前に食べや」

 そう言って、マリアは自分のアイスクリームを頬張った。チョコレートが溶けて美味しいはずなのに、味がよくわからない。
 マリアにできる事といえば、セフィロスの残酷な現実に共に打ちひしがれる事くらいしかなかった。けれど、何もないよりはましだと思いたい。

「供養になるかわからんけど、アンタはその人らの分も生きるんや。だから、食べ」

 セフィロスにそっと耳打ちすると、マリアは彼に歩くように促した。

 セフィロスは言いたい事が言えない。そしてマリアはそれを聞けない。マリアは虚しかった。今日だけ息子などと言ってはみたが、所詮は神羅の一社員でしかないのだ。
 セフィロスが会社の飾り人形のうちはまだ良かった。英雄として功績を上げて来たと言う事は、つまり現地で虐殺をして来たという事になるのだ。それも、恐らく大量に。実際に、彼はラディオルを消滅させて来た。
 歳の割に弁えすぎる少年が、マリアは不憫で仕方がなかった。

続く

2024/11/22
短編のつもりが終わらない。もちろんアイスクリームの件は捏造です。
ヒロインに自己投影した事はないつもりなんだが、この時代の英雄くんに関してはどうしてもオカン目線で見ちゃうぜ

 


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