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噂のあの子とそのオカン 4 (完結)
セフィロスとマリアはそれぞれ両手に袋を幾つも下げて、零番街を目指して歩いていた。
マリアはいつも、買い出しへは車で来る。買った物がいくら嵩張っても問題なかった。しかし、今日は脱走中の身だ。もちろん徒歩である。いくら人数がいつもの2倍でも、持てる量には限度があった。
「今晩は牛丼でもしよか。お咎めが無かったら」
よいしょ、と袋を担ぎ直すとマリアはふうと息をついた。
「わあ、良いですね。俺も料理したいなあ」
セフィロスは米を肩に担いだまま、彼の後ろを歩いていたマリアを振り返った。
「ええよ。お咎めがなかったらな」
「マリアさん、さっきからそればかりですね」
そりゃそうだ、とマリアは再度ため息をついた。
朝はとにかくいきり立っていた。セフィロスを心配して彼の休暇を申し入れたのに、あっさり無視されてしまったからだ。
セフィロスはどう見ても塞ぎ込み、無理に訓練をした所で集中できそうになかった。その上何も手につかないほど辛そうで、心底嫌そうにしている。マリアには彼を送り出す事は憚られるほどだったのに、上層部からは何の配慮もない。やってられるかと勢いでここまでやって来たものの、マリアはだんだん現実に押し潰されてきている。
「ああ、わたしやっぱりクビやろか。まさか消されたりする…?」
そんな心配をしながらセフィロスの食料と身の回りの物を買い、のこのこビルに戻っているのだから呑気な物だとマリアは自嘲する。気持ちは明日もセフィロスの食事を用意して、彼の生活の世話をするつもり満々だ。しかし問題は、上層部がそれをマリアに許すかどうかである。
マリアがはあ、とため息をつくと、先ほど担ぎ直したばかりの袋がもうずり落ちて来た。
「大丈夫ですよ。俺がなんとかします」
セフィロスはそう言うと、マリアが持つ袋のうち、一番重い物を取った。それを涼しい顔でさっと自分の腕に通して、また歩き始める。
「重いんでしょう。俺が待ちますから」
「あ、ありがとう」
つい最近まで自分より背の低かったはずの子が、マリアすら軽々と担ぐようになっていた。今さら買い物袋くらいどうという事はないらしく、逞しいったらなかった。
「優しいなあ。助かるわ」
「いいえ」
セフィロスは少し微笑むと、マリアから目を逸らした。ぷいと前を向いてしまったのがなんとも恥ずかしげで、マリアは思わず笑みが溢れる。
「ラディオルで、同じ班だった人に言われたんです。優しくなれっ、て」
「そう、ええやん。強いだけではええ男にはなられへんでな」
セフィロスは前を向いて黙々と歩いている。相変わらず、マリアの位置から彼の表情は見えない。けれど、きっとこれ以上触れない方が良いのだろうと、そっとしておくことにした。
やがて神羅ビルの前にやってくると、辺りは静かだった。特に普段と変わりなく、何も無かったかのようである。
「もっと物々しいと思ってた…」
マリアはあまりの普通さにあっけに取られている。てっきりセフィロスの捜索隊でも結成されているのではないかと思っていたのだ。
「大丈夫ですよ。タークスがずっと俺たちの事を見張ってました。危険は無いと判断したんでしょう」
「へ?そうなん?知らんかった」
マリアは驚きと恐怖で一杯になった。どこから見られていたのかも気になるが、それに全く気がつかなかったのも恐ろしい。それなのにセフィロスはあっさり見破っていて、更にお互いに踊らせていたようだ。それを今さら知って、マリアは卒倒しそうになっている。
「もしかして、今も…?」
「いいえ、流石に今は誰もいません。俺たちに帰る気があるのも、逃げる気がないのも分かっていたようです」
大荷物を抱えたまま、2人してエントランスを通り抜け、ごく普通にエレベーターに乗った。誰にも咎められる事なく調達して来た物資をそれぞれの場所に片付けると、セフィロスはマリアを彼女の部屋へ連れて行った。
「ここで待っていてください。大丈夫ですから」
「いや、でも。言い出したんわたしやし…」
「いいえ、あなたが行っても処分されるだけです。でも、それじゃ俺は嫌だ」
セフィロスはマリアの瞳を見つめた。
「今日、楽しかったです。母さんがいたら、きっとこんな感じだろうって思いました」
「セフィロス…」
セフィロスはいつになく真剣な目をしている。マリアは目の前の少年が、これまでで一番も頼もしく思えた。
「俺に考えがあります。だから、マリアさんはここにいて下さい。明日からも俺の母さんでいて欲しいんです」
そう言って、セフィロスはマリアの返答を待たずにドアを閉めた。
セフィロスが1人で自室へ戻ると、部屋の扉が壊れていた。今朝彼が開けた大穴は、一応ブルーシートで穴を塞いであった。努力の跡は見えるものの、それも既に風で靡いている。明日の朝にどれくらい残っているかは分からない。
風で物が飛び散ったのか、壁や床が傷だらけだ。強風で物が散乱したのだろう事が伺える。
また、置いて行ったはずのマリアのワゴンは無くなっていたが、食卓とベッドはまとめて部屋の隅へと移動させてあった。まるで凶悪な大事件でも起こった後かのような有様である。
「セフィロス」
不意に呼ばれてセフィロスが振り向くと、タークスの主任が立っていた。
「戻ったか。どういうつもりか、説明してもらうぞ」
セフィロスはかつらを脱いだ。銀髪がさらさらと風に靡く。
「ええ、説明しましょう。でも、先に言っておきますがマリアさんは悪くない。彼女を一切咎めないと約束して下さい。そうでなければ──」
何時間経っただろうか。部屋は既に暗いが、マリアはそんな事などどうでも良かった。明かりを付ける気にもならず、ただ悶々とセフィロスと自分の心配をしている。
今、セフィロスがどこで誰とどうしているのか、マリアにはわからない。本当なら今頃はもうセフィロスに食事を提供している頃だが、今は何も手につかない。とても牛丼など作れる心境ではなかった。
マリアがもう幾度目かも分からないため息をついた時、インターホンが鳴った。出ようか出るまいかと悩んでいると、外から声が聞こえてくる。それがどうやらセフィロスだと分かると、マリアは慌ててドアを開けた。
「セフィロス?あんた大丈夫なん?あれからどうなった?あ、もうご飯食べた?」
マリアがあれこれ矢継ぎ早に言うのを一通り浴びると、セフィロスはにっこり笑った。
「大丈夫ですよ。マリアさんも俺も、お咎めはありません」
「ほ、ほんま…?」
マリアは今にも腰を抜かしそうだった。無職の危機どころか、命の危機まで感じていたところである。
「それに、やりましたよ」
「何を?」
セフィロスはマリアを手招きした。マリアが素直に着いていくと、ビルの内部に真新しい区画が出来ている。そこへ入っていくと、立派なアパートメントが現れた。
「窓のある部屋をもらいました」
セフィロスは満足そうに言った。大きな窓の傍に、彼の愛刀が既にそこに立て掛けてある。
「あら、あそこにバルコニーでも作るんかと思ってたわ」
「俺もそのつもりだったんですが、なぜ壁を斬ったのかと問われたので、窓が欲しいと言ったんです。そうしたら、ここを」
窓枠からは、丁度沈む夕日が見えた。その美しさにマリアが思わず見惚れていると、セフィロスはこう言った。
「本当に、罰則も処分もありませんから安心して下さい。ですが俺ももう15だから、そろそろ1人で生活しろと言われました」
マリアはもう一度蒼白になった。安心しろと言われても、やはりこれは退職の危機ではないか。
「あ、いえ。クビではなくて、もうしばらくマリアさんのお世話になります。その後は、ぜひここの寮母に、と」
この場所はこれからソルジャー向けの宿舎になるそうだとセフィロスは続ける。
「良かった…ほんまにクビになるかと思った…」
マリアはげっそりしてそう言うと、急に疲れが押し寄せて来るのを感じる。うっかり座り込みそうになっているのを、セフィロスが支えた。
「ね、言ったでしょう。俺は特別ですから」
セフィロスはそう言って、不敵に笑った。
完
2024/11/23
以上、世にも珍しい?オカン目線の夢でした。お粗末さまです。
もしも英雄のラスボス化を防ぐならどうするかを考えた時に、長編で道標を書いたわけですが、オカン的な人がいても良かったのかもなと。なんせ救いと心の拠り所が無さすぎる。
たぶんこの人、マリアをクビにするらなら反乱するみたいな事を言って脅したんだわきっと。彼に勝てる人なんか居ないしセフィロスを手放す選択肢は会社にもないし。
英雄と持て囃され始めたこの頃は割と従順そうだし神羅もコントロールできたんだろうけど、アンジールと出会う頃には、とんでもない不機嫌英雄になっていた。たぶん反抗期とは別だよな。ああ、でも可能性はあるか。
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