D+S FF-D m-ds New!夢物語


縁側の嵐



「マリア!いるんだろ。邪魔するぜ。」


 余所の家の庭先でこんな大声を出す人は、わたしが知る限り一人しかいない。わたしは慌てて縁側に出ると、やはり思い浮かべた通りの人物が息を切らして立っていた。


「若様?どうされましたか。随分慌てていらっしゃるように見えますが。」

「おう、火急も火急だ。」


 わたしはチラリと壁に掛けた時計を見る。


「もしや……今は鍛錬の時間ではありませんか。」

「もちろん逃げてきた。」

「またですか……はあ。」


 若様はいつもこうだ。学問も鍛錬もお嫌いで、すぐに抜け出してはわたしの家に転がり込まれる。しかし、あんなにサボってばかりいるのに忍術は国内でも第一等の腕前で、それは先生方も認めるところだった。それはそれは鮮やかに消えてしまわれると聞いている。
 とはいえ、従者の皆さんもしっかり若様の行先を把握しているらしい。いつも若様がいらしてから暫くすると、必ずどなたかがお迎えに来られる。恐らく今日も、もう少ししたら着くのだろう。


「マリア茶を頼む。冷たいのをくれ。」

「はい、只今。」

「おう。お前の茶はうまい。」


 若様は、どっかりと縁側にお座りになった。いつもの指定席だ。お茶を飲みながらお話をして、ときどき昼寝して。大した庭ではないのだけれど、若様はずいぶんとお気に召されたようだ。
 エブラーナは、お城の中に街がある。若様がいなくなっても探しやすいのだろう。そのうちにお付の方も来られ、一緒にお帰りになる。たったそれだけなのだけれど、若様がいらっしゃると急に賑やかになり、お帰りになった途端にしんと静まり返る。まるで嵐のようなお方だ。


「お願いですから真面目に修行なさってください。若様はこれからのエブラーナを担うお方なのですよ。」

「お前までじいみたいなこと言うなよな。」


 若様は唇を尖らせて抗議する。


「そう言われましても。」

「ま、堅いこと言うなって。マリア、膝を借りるぜ。」


 若様はそう言うが早いか、正座したわたしの膝の上にごろりと横になられた。わたしの返事はどうでもいいらしい。返事を待たれたことは、そういえば一度もない。


「あー。極楽だ。」

「それはそれは。ようございましたね。」


 わたしは「ぷい」と明後日の方へ向く。


「なんだよ、つれないな。」


 そう言いながらも、若様は笑っている。わたしを下から眺めならがら、とても満足そうに。
 その時、表で誰かの声が聞こえた。恐らく、もう一人の来客だろう。



「来られましたね。」

「ちぇ。時間切れか。」


 と言いながらも、まだ若様は離れてくださらない。それどころか、寝転んだまま、ぎゅう、とわたしの腰の辺りに腕を回される。


「あ、あのう、若様?お、おやめください。お供の方がお見えでしょう?」


 足音が近づいてくる。このまま鉢合わせしそうだ。どんな顔をしていたらよいのだろうか、と思案していると、まもなくお連れの方が見えた。


「マリア殿、失礼仕る。若はお出でではごさいま……おおおお!こ、ここ、これは、失礼いたし……あわわわ!わ、若!ご婦人に何をなさっておいでですか!それもこんな庭先で!」

「じい、俺は男の膝枕なんぞ興味はないぞ。」

「そういう問題ではありませぬ!」


 しれっとした顔で若様は答えるが、案の定従者の男性は慌ててふためいている。若様はそんな状態すら楽しんでいるようだ。


「仕方ねえな。そろそろ帰るか。マリア、馳走になった。」


 しばらくすると、若様はむくりと起き上がった。ふいに若様と目が合う。眼差しが力強く、しかも、思いの外お顔も近くてどきどきする。


「い、いいえ……お粗末さまでございました。」

「うまかった。また頼む。そうだ、これをやろうと思って来たんだ。ほら。」


 そう仰い、若様はご自分の懐に手を入れる。そして出てきたのは、ハナミズキの花だった。 


「まあ、きれいですね。ありがとうございます、若様。」

「おう。……じい、待たせた。」



 こうして今日も、嵐は去って行った。
 若様には、きちんと修行をしてエブラーナ忍術を修めて頂きたい。けれど、わたしはこの時間が決して嫌いではない。おいしいお茶を用意して、わたしはまた次の嵐を待つ。


20140721
D+S FF-D

 *ハナミズキ・・・・花言葉:私の想いを受けて下さい。


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