D+S FF-D m-ds New!夢物語
寝ても覚めても
テーブルに置いていたグラスが倒れた。中の水がこぼれて広がっていくが、眼前に迫る大きな影にわたしは手一杯だった。
「エドガー? ど、どどどうしたの……?」
わたしは今、エドガーにじりじりと壁際へ追いつめられている。エドガーは笑っているのに、目は笑ってない。むしろ、怖い。
グラスからこぼれた水が、床に染みを作っていく。
「さあ。どうしたんだろうね。マリア。」
「どうって、言われても……」
「何か心当たりは?」
必死で今日1日の出来事を思い出そうとする。気が急いてしまってそれどころではないが、必死で記憶の糸を手繰る。それでも思い当たる節はないので、やっぱりないと思う。
わたしはふるふると首を横に振った。
「本当に?」
うんうん。今度は縦に振った。
「全く君は……。」
エドガーのため息が、わたしのおでこを掠めた。遂にわたしは、完全に壁とエドガーの間に挟まれてしまった。
「マリア。俺は今、非常に機嫌が悪い。早く思い出してくれないか。」
わたしは一体何をしてしまったのだろう。もう一度思いを巡らせてみるけれど、やっぱりわからない。
彼はだんだん焦れてきたらしい。
「昼間。君は何をしていた?」
今日は1日ファルコンにいて、外出はしなかった。午前中いっぱいは自室の掃除と洗濯。特に洗濯物はしばらく出来ずに溜まっていて、片付く頃には昼になっていた。
すっかり疲れてしまい、昼食後すぐ広間のソファでウトウトしていた。いつの間にか寝ていたらしく、起きたのはついさっきだ。喉の渇きを覚たわたしは台所に来て、水を飲んでいたところだ。
まだ少し寝起きでぼんやりする頭を、何とか回転させる。わたしはたどたどしく説明をはじめた。
「掃除と、洗濯と。」
「うん。」
「昼寝、してた。」
「そうだね。」
エドガーは表情を変えずに、じっとわたしを見ている。王様の威厳をこんな所で使わないで欲しい。
わたしはふと、あることを思い当たった。
「あの、もしかして。」
「なんだい?」
エドガーは少し期待を込めた目をし、続きを促す。わたしは心なしかほっとした。
「寝てる間に、ソファを占領しちゃったから?それとも、モンスターが襲ってきたの?なのにわたし、一人寝ちゃってた、とか?」
「いや。至って平和だったよ。」
だったら何なのだろう。ますます解らない。エドガーは真顔になった。
「君の寝顔は実に愛らしかった。まさに眼福だったよ。」
はあ、そりゃどうも……。見られていたことに、なんだか恥ずかしくなった。うつむいたけれど、すかさず顎を捕えられる。うつむくどころか、目線すらそらせなくなってしまった。
「しかし、だ。」
もう一方の大きな手が、わたしの服の襟を少し開く。
「これ。気づいているかい?」
鎖骨のあたりが2か所、赤くなっている。なんだろう。寝ている間に何かに咬まれたのだろうか。
「ううん。今知ったわ。何の虫かな?赤いけど、痒くない。」
……あれ。エドガーの目が、更に鋭くなった気がする。
「そうだね。これはとんでもなく悪い虫だ。」
「ええっ。そうなの??」
「ああ。放っておくと、大変なことになるぞ。」
そう言うなり、エドガーはわたしの赤い跡に吸い付いた。
「ひゃあっ。」
思わず声が出てしまった。
「その声も、この肌も。」
エドガーは構わず続ける。
「なななな、何するの。まだ日も暮れないうちから……。」
黙れ、と言わんばかりに唇も塞がれた。
「他の男が見るなんて許せない。」
「見せてない。エドガーだけよ。」
はあ、とエドガーはため息をついた。大げさな身振りで片手で頭まで抱えている。
「いいかい。昼間、君は広間で寝ていたね。広間は共有スペースだ。誰がいてもおかしくない。」
じっとわたしを見て続ける。
「マリア、君が寝ている時にね、セッツァーが君の襟を寛げて、この跡を付けていた。」
「……へ?」
「俺が部屋に入るなり、あいつはニヤニヤしながら出て行った。不審に思っていたら君が寝ていた。もしやと思ったら、これだ。」
頭が一瞬で真っ白になった。寝起きの気だるさも一気に吹き飛ぶ。
「虫刺されじゃなかった……。」
呆けたようにつぶやいていると、今度は首筋に噛みつかれた。
「悪い虫には違いないから気をつけなさい。」
軽くおでこに口づけて、そしてもう一度、唇にも、深く。
「今夜は仕置きだ。湯あみが済んだら俺の部屋に来なさい。覚悟しておけよ、マリア。」
「……へ?ちょっと、何を勝手な……」
「日が落ちれば問題ないのだろう?」
エドガーは宣言し、言いたいことを言うとさっさと行ってしまった。
大事に思ってくれるのは嬉しいけれど、お仕置きするならセッツァーにするべきだと思う。セッツァーに文句言わなきゃ!と、拳を握りしめるマリアであった。
20140712
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