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伍 当たり前、じゃなかった

 ツォンが帰って来ない。そろそろ日付も変わるような時間である。ツォンの帰宅はいつも決して早い訳ではない。だが、遅くてもこの時間にはたいてい家にいる。
 別に待っている必要はない。けれど何となく気になって、わたしはリビングのソファに座っていた。

 生真面目なツォンが、わたしに連絡もせずに自分の家に帰っているとは思えない。連絡が無いということは、ここに帰ってくるつもりなのか。或いは、何か不測の事態が発生したかのどちらかだろうと思うと恐ろしい。
 いつもいるはずの人がいない。これが思いの外寂しい事に気が付いた。
 わたしは大あくびをしながらまた時計を見た。ウトウトしながら待っていたけれど、わたしはいつの間にかその場で寝てしまっていた。



 ガチャガチャと玄関の扉が開く音で目が開く覚めた。ぼんやりした頭で時計を確認すると朝4時半。ソファに座り直してぼうっとしていたら、血まみれのツォンがわたしの目の前の床にドサッと倒れた。

「……ツォン? ツォン! 」

 慌ててツォンに駆け寄ると、彼はゼイゼイと肩で息をしていた。かすれる声で何か言っているので耳をすましてもう一度聞くと「台所の黄色いチョコボの入れ物を取ってくれ」と言った。

「チョコボて、黄色い鳥の入れもんやんな? 」
「そうだ……ルイ、早めに頼む」

 ツォンはそこまで喋ると、お腹を押さえながらうめき声を上げた。血が彼の指の間から流れている。額は汗ばみ、汗と一緒に血が落ちた。その光景に腰を抜かしそうになったが、それどころじゃない。
 チョコボを持って戻ると、ツォンは中身を全部手のひらに出した。中にはマテリアが2つ。どっちも黄緑色をしている。
 ツォンは魔法を使った。コンロの時とは違い、今回のは白っぽくて柔らかな光がツォンを包み込む。

「すまなかったな。ルイ」

 ツォンはゆっくり起き上がった。スーツは血みどろだが、血は止まっていた。

「治った……すごい」

 ぽかんとしてツォンのお腹をじっと見ていたら、ツォンはジャケットとシャツを脱ぎ始めた。
 あらわになった腹部には、へその右側斜め上に三センチくらいの傷が付いていた。

「血が流れとったのに、もう塞がってる……」

 思わず傷に手を伸ばす。皮膚一枚で繋がったような、薄い皮膚ができていた。

「塞がっただけだ。治ってはいない。完治には時間がかかるだろうな」
「今のも、魔法やんな」

 ツォンはマテリアをわたしの手のひらに乗せた。それは先日の炎のマテリアと似ているが、少し違った。モヤが白っぽくて、そのモヤのかかり方も、もっとふわふわした感じだ。

「ケアルを使った。厳密には、その上級魔法のケアルガだ」
「ふうん、便利やな。でも、持ってへんかったん? 」

 いつもいくつかのマテリアを拳銃に付けていたはずだ。回復のマテリアも1つくらい持ってても良いのに。

「持っていたんだが、盗まれてしまってな……」

 ツォンはバツの悪そうな顔で頭を掻いた。

 何でも、ツォンは今日の任務中に大怪我をしたらしい。癒やしの魔法を使い、さらに帰社してからも処置を受けた。けれど、ここに帰る途中で襲撃されて、回復のマテリアを奪われた。さらに戦っているうちに傷が開いたのだとツォンは言う。

「んんん! 」

 マテリアを握りしめて、ツォンのお腹に意識を集中する。光の粒が現れて、ツォンに降り注いだ。

「ほう、大したものだな。体力は十分回復した。ありがとう」
「ほんま? やったあ」

 満足したわたしはマテリアをチョコボの入れ物に戻して、また台所に置いておいた。ついでにタオルを濡らしてツォンの元へ戻る。

「汗だくの血みどろやん。ちょっと拭いたるわな。まだ動くの痛そうやし」

 そう言って改めてツォンの身体を見ると、本当にあちこち血だらけだった。傷はお腹だけだが、肩も腕も顔にまで血が付いている。ちなみに、額の傷は先程のケアルで既に跡形もなくなっていた。

「背中の傷も、こうしてできたん……? 」
「ああ」

 ツォンは何でもないように言う。けれど、わたしはそれが悲しかった。泣くまいと思ったけれど、刺激が強すぎる。みるみるうちに、涙が溜まって落ちてゆく。
 ツォンは武力行使も厭わない職業だと言っていた。毎日無事に帰る保証なんて、何ひとつ無い。なのに、ツォンがこんな大怪我をするまで気付けなかった。

「なぜ泣くんだ、ルイ」

 ツォンは優しく微笑んだ。わたしの手からタオルを取り、わたしの涙を拭う。

「だって、ツォンが死ぬかと思った」

 そんなん悲しいやん、と言い終わる頃には、わたしはツォンに抱きしめられていた。わたしもツォンの背に手を伸ばして、その体温を確かめる。大丈夫、彼は温かい。
 ツォンはわたしの顔を覗き込むと、手でわたしの髪を梳きはじめた。

「俺の事、少しは好きになったか? 」

 からかうような表情だが、目はとても優しかった。

「……そうかもな」

 素直に言うのは癪だ。まだ含みを持たせてやる。そう思っていたら、ツォンは満足そうに笑った。


2020/05/07


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