21 英雄の姿に
イヴはソルジャー司令室で、ひとりソルジャー達の給与計算をしていた。
ラザードが居なくなった後、彼の後任として誰かが配属されるような気配はない。そして何より、ソルジャー達の指揮権は治安維持部門統括のハイデッカーに移ってしまった。ソルジャー部門統括の席は、実質的に無くなったのも同然だった。
イヴの「統括補佐」という肩書は辛うじて残ったものの、仕事は殆どハイデッカーに奪われている。彼女の今の仕事といえば、給与計算とハイデッカーから送られてくるソルジャーへの司令の伝達、ソルジャー達による任務後の報告書の管理くらいのものだ。こうなっては普通の事務員とさほど変わらない。
ラザードがいた頃からイヴの権限は何も変わっていない。けれど、任されていた仕事の質は大幅に落ちた。かつては緊急時のオペレーターも務めていたのが嘘のように、何もする事がない。
今またジェネシスが攻めてきたとしても、もう同じようにはさせてもらえないだろう。実際に、そのせいでソルジャーへの指揮系統が乱れて既に混乱を招いている。いつ首が飛ぶのかとヒヤヒヤしているイヴである。
だが、イヴはつい先日、ようやくツォンと連絡が取る事ができた。そして本人曰く、本日ミッドガルに帰還する予定だと聞いている。憂鬱なのは確かだ。しかし、同時に無意識のうちについニヤニヤしてしまうほど、イヴは嬉しくてたまらなかった。
「何をニヤついている」
イヴの頭上から声が降ってきた。はっとして声のする方を見上げると、イヴと同じようにニヤニヤしたセフィロスが立っていた。
「そんな顔してた? 」
「ああ。緩みすぎだ」
「あなたほどじゃないわよ」
意地悪く笑うセフィロスに、イヴはムッとして答える。
「それはそれは面白い顔をしていたぞ」
七福神にでも混じっていそうだったと言うと、セフィロスは遂に声を出して笑いだした。イヴは思わず鯛を抱いた神様を思い浮かべる。思い浮かべてしまうと、すっかり怒る気も失せてしまった。
「ご利益あるわよ。拝んでいきなさい」
「それはいいな」
手を合わせて拝んで見せるセフィロスは、さも愉快そうだ。つられてイヴも笑うと、それまでの鬱々した気持ちが和らいだ。
「預かっててくれ」
「また資料室? 」
セフィロスはイヴのデスクに自らの携帯電話をそっと置いた。いくら英雄といえども、携帯電話は資料室には持ち込めない事になっている。そしてその規則をセフィロスは律儀に守っている。
セフィロスは相変わらず資料室に篭っていた。任務のないときは、大抵資料室にいる。最早「セフィロスに用事があるなら資料室へ」が定着しつつあるほどだった。
「あと少しなんだ」
「そう。倒れる前に休みなさいよ」
セフィロスは心配顔のイヴを一瞥すると、適当に返事をしてさっさと司令室を出て行った。
ため息をついたイヴがふと目の前のモニターに目を遣ると、丁度新着メールが入って来た。差出人は治安維持部門。ソルジャーへの新しい任務だろうと見当を付けながら、イヴはメールを開いた。
「ニブルヘイム……確か、魔晄炉があったんやったな……」
ニブルヘイムという村がある。そこはミッドガルから行くには、軍用車両でも2日はかかるような遠い場所だ。小さな田舎町だが、古い魔晄炉と神羅の研究施設がある。そのために神羅の関係者が多く駐在する村で、辺鄙な村ながら社内では知る人も多い。
イヴが受け取ったメールは、ニブルヘイム魔晄炉の調査依頼だった。ニブルヘイムに駐在していた魔晄炉の職員が全員行方不明になるという何とも物騒な事件が起こったのだ。
事の重大性を危惧した会社は、1stのソルジャーを2人要請して来た。しかし、1stといえば今の所セフィロスとザックスの二人だけだ。なのに、その任務に二人とも寄越せ、ということである。
さらに、ラザードを追うために派遣したソルジャーも連絡が途絶えている。また別のソルジャーにも併せて要請が出ていた。イヴにはその詳細、経緯共に、もちろん全く知らされていない。
文面を読みながら、イヴはイライラと頭を抱えた。
「はあ、ほんま指揮権はこっちに欲しかったわ。せめてセフィロスやろ……ぜったいあいつより上手いて」
せっかく穏やかになった気持ちが、またささくれていく。大事な仲間を駒のように扱うハイデッカーが、イヴは更に嫌いになった。
イヴはブロンドの髪をくしゃりとかき上げる。忌々しげな顔でモニターを睨みつけていると、司令室の扉がスッと開いた。イヴがそちらへ視線を送ると、待ちに待った姿がどんどんと近づいて来ている。
「イヴ。元気そうで何よりだ」
「ツォン! 」
黒いひっつめ髪を揺らしたツォンは、イヴのデスクの前で立ち止まった。ツォンは真底ホッとしたような穏やかな表情でイヴを見ている。
ツォンの視線は柔らかく、心地よかった。それだけでイヴのそれまでのイライラが嘘のように吹き飛んでゆく。
イヴはツォンと会ったら「身体の関係を持ったのはどういうつもりだったのか」とか「自分をどう見ているのか」なとど聞きたい事がたくさんあった。ツォンの気持ちが見えないために、不安で仕方無かった。
けれど、互いの顔を見ると、とにかく会えた事が嬉しい。それまでの悩みや心配事が溶けて無くなったかのようだ。そしてイヴは、それと同じものをツォンにも感じている。二人を隔てる物は、この瞬間にすっかり何も無くなってしまった。
イヴはくしゃくしゃになった髪の事もすっかり忘れて、ツォンを見上げて微笑んだ。
「お帰り」
「……ただいま」
ツォンとイヴは互いに微笑み会う。ツォンは座っているイヴに合わせてゆっくりと屈むと、そっと唇を合わせた。
2020/07/15
あらら、くっついてしまった!
気持ちって通じる時ありません?
話さないとわからんけど、話さなくてもわかる時もあるよね、なんて。
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