24 英雄の物語として
セフィロスはトラックに揺られていた。ザックスや一般兵たちと共に軍用車両のトラックでミッドガルを出てから2日目、彼らはようやくニブルヘイムの山々を拝める所までやってきた。
ニブルの山は険しい。目指す村も小さく、道路もあまり整備されていない上に狭かった。軍のトラックで入れるギリギリまで山を登り、村の近くまで来ると、あとは徒歩で進む事になった。
ザックスは空から聞こえる轟音に、思わず空を見上げた。黒いヘリコプターが真っ直ぐに自分たちを目指して飛んで来ている。
「セフィロス。あれ、神羅のだよな」
「そうだ」
「なんで? 」
ザックスは意外そうな顔でヘリコプターを目で追っている。
「あんなのがあるなら、あれで来たかったよな」
「何人乗れると思っている。だいたあれはタークスのものだ」
「だよなあ」
ザックスは首を竦めるとまた歩き始めた。
ヘリコプターはセフィロス達の目指す方向へ飛んでゆくと、すぐに見えなくなった。
ようやくニブルヘイムの村の入り口が見えて来た時、ザックスは黒い人影が手を振っていることに気が付いた。
「ん? あれは……オリビアじゃん! 」
入り口手前で大きく手を振るオリビアを見つけると、ザックスは突然走りだした。嬉々としながら腕をぶんぶん振ってオリビアに駆け寄る様は、かつてアンジールが比喩した通り間違いなく仔犬だ。
「おーい! オリビアもニブルで任務なのか? 奇遇だな!」
「奇遇も何も、一緒に行くのよ。ね、セフィロス」
オリビアはザックスの後ろから歩いてきたセフィロスに目配せする。ザックスは「聞いてない! 」と大騒ぎしているが、セフィロスは意にも介さずにそれまでと同じペースで歩き続ける。それにオリビアもついて行き、兵士達も続く。そうして一行はニブルヘイムに入って行った。
村の宿に通されると、一行は一旦解散となった。ニブルヘイム出身だという兵士を実家へと送り出すと、セフィロスは神妙な顔付きで廊下から窓の外を眺めた。
「何故だろう。俺は、この景色を知っている気がする」
近くのソファで寛いでいたオリビアは立ち上がり、セフィロスの隣へ移動した。セフィロスと一緒に外の景色を眺める。岩肌が剥き出しになったニブル独特の山が見える。険しい山々が連なる眺めは壮観で、オリビアは思わずため息を洩らした。
「絶景ね」
「大自然がそのままだな。何もないが、それが良い」
リゾートとはまた違った、ありのままの自然といった風の長閑な景色が広がっている。オリビアは山の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。仕事でなければもっと羽を伸ばしてのんびりできただろうが、そうも行かないのが残念だった。
「始めて来たのよね? 」
「ああ。だが、不思議に懐かしい」
セフィロスは視線を景色からオリビアに移した。オリビアを見下ろしてそう言うと、穏やかな顔で微笑む。
「あら、嬉しそうね」
「こんな気持ちとは無縁だと思っていた。俺には故郷がないからな」
嬉しそうに言ったものの、セフィロスは自分に違和感を覚えて片手で頭を抱えた。やや冷たい風がセフィロスの銀髪を掠めてゆく。
「知らない土地でおかしな話だ」
焼きが回ったと自嘲気味に笑うと、セフィロスは開いていた窓を閉めた。
「疲れてるところへ、さらに疲れたのよ、きっと。徹夜で資料室に篭ってそのまま昨日からずっとトラックに乗ってたんでしょ? 」
オリビアはセフィロスに充てがわれた部屋のドアを開けた。そのまま入るように促すと、セフィロスは不敵に笑って風で乱れた髪をかき上げる。
「俺を誰だと思っている……と、言いたい所だが、さすがに疲れた」
セフィロスは促されるまま素直に部屋へ入った。ベッドにどっかりと座ると、そのまま後ろへ倒れるようにして寝そべった。
一度横になるともう動けない。ブーツを脱がなかった事も忘れて、このまま眠ってしまいそうだ。セフィロスは自分で思うよりも、よほど疲れていた事にようやく気が付いた。
「もう寝ちゃえば? 調査は明日から。今日は移動だけでしょう? 」
それみたかことか、と言わんばかりに腕組みをしたオリビアはカラカラと笑った。セフィロスもむくむくと湧き上がる眠気に抗えず、指一本動かす事すら面倒になっている。
「そうしよう。思えば少なくとも2日はまともに寝ていない」
そう言うや否や、セフィロスは目を瞑った。
一晩中資料を読みあさり、そのまま出勤して更にまた読んでからトラックでニブルヘイムまでやって来た。
友人達の失踪も堪えたが、それをきっかけに自分の過去が気になり始めた。すると悩むあまり、まともに眠れない日が増えてゆく。
セフィロスは体力には自身があった。どうせ眠れないならと寝る事を諦めて資料室に篭り切りだったが、ここへ来て急にタガが外れたようにどっと疲れが押し寄せて来た。
「じゃあ、おやすみ」
「待て」
セフィロスの手がオリビアの行く手を阻んだ。手を握られて、オリビアは動けなくなる。
「眠るまで居てくれ。お前がいるとよく眠れそうな気がする」
セフィロスは目を開けてオリビアを見上げる。眠そうに目をしばたたく姿は、まるで幼児が母親に縋るようだ。
「しょうがないわね。ほんと、大きな子供なんだから」
オリビアはセフィロスの横たわるベッドの端に腰掛けた。セフィロスの手を握り返すと、セフィロスは満足度そうにまた目を瞑った。
「ねえ、セフィロス。わたしのこと、まだ好き? 」
オリビアは恐る恐るセフィロスの顔を見た。けれど、セフィロスは目を瞑って既にスウスウと寝息を立てている。
「……わたしの緊張を返して」
オリビアは大きく息を吐くと、セフィロスの手をそっと話した。シーツをかけてやると、セフィロスは気持ちよさそうに身じろぎする。
「信頼されたものね……わたし」
安らかな寝息を立てる世界の英雄。その英雄のこんな姿を見ることができるのは、そう何人もいないだろう。オリビアはそう考えると、なんとも言えぬ幸福感に満たされた。
ツォンが好きだったはずなのに、オリビアはセフィロスに絆されそうになっている。いや、もう絆されたかもしれない。始まる前に振られたタイミングで告白されたというだけなのに、だ。それとも、今まで憧れと恋を勘違いしていたのだろうか。いずれにせよ、我ながらチョロいなとオリビアは自嘲した。
自分はきっと愛に飢えている。それはセフィロスも同じで、だからこそ似た者を求めて止まないのかもしれない。オリビアはそう結論付けるが、次の瞬間に現実に引き戻された。
──私たちはタークスだ。冷静になれ──
オリビアの頭の中をツォンの言葉が何度も木霊する。何度も何度も考えたけれど、一向に答えは出ない。心が求めている事と、タークスとして求められる事が一致しない事など、これまで幾度となくあったはずなのに。
オリビアはもう、自分がどうしたいのかも、どうすべきかも考えない事にした。いくら考えても堂々巡りで、却ってわからなくなってしまった。
「おやすみ、セフィロス」
オリビアは呟くようにそう言うと、そっと部屋を後にした。
2020/08/04
いよいよニブルヘイムに来てしまった!
セフィロスさえ救済したらきっとみんなハッピーだと思うんだわ。
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