29 刻み続けるだろう。
セフィロスは険しい顔をして、オリビアと差し出された携帯電話を交互に見つめた。
「女連れで逃走、か」
「そうなるわね」
「簡単に言うな」
セフィロスは深くため息をついた。一人で抜けるならどうにでもなると思っていたのに、これでは大誤算だ。そもそもセフィロスはこれからどこへ行くかも、そこで今後どうするかも一切オリビアに伝えていない。それなのに、よくもついてくるなどと言えたものだとセフィロスは再度ため息をついた。
だが、セフィロスはオリビアの申し出に思いの外救われてもいる。今後は当分一人きりで逃げたり隠れたりせねばならないと予想していた。だが、オリビアが一緒にいると思うだけで、荒んでいた心が随分凪いでいることを自覚している。一人きりになることを覚悟していたからこそ、ある意味拍子抜けしていた。
「本当に、いいんだな。タークスも、神羅も、ツォンすら敵になる」
とはいえ、オリビアを巻き込むことが本当に得策と言えるだろうか。セフィロスもオリビアも、その職業の特殊さ故に、普通の生活などもともと縁遠い。それを更に全て捨てようとしている。のだ。
セフィロスは確認するように、オリビアの瞳をじっと見つめた。
「ツォンさんはもういいの」
オリビアは複雑な表情で言う。失恋の傷は癒えたはずだ。だが自分の入り込む隙などどこにもなかった事を思い出すと、途端に苦いものが胸にこみ上げてくる。
「それより、今はセフィロスが心配だわ。まさかジェネシスみたいにはならないと思っているけれど」
オリビアの言葉に、セフィロスは少しむっとした顔をした。さも心外だと言わんばかりだ。
「あいつと一緒にするな」
「そう? なら安心ね」
セフィロスはまだ何か言い足りないようだか、オリビアはそれだけ聞けば満足だった。それならセフィロスがどこへ行こうとしていたとしても、オリビアは彼に着いて行くつもりだ。そこはきっとオリビアにもセフィロスにも未知の領域だが、二人ならどうにかなる。オリビアは微笑んでセフィロスを見上げた。
セフィロスもつられるようにオリビアに微笑み替えずと、二人の心が決まった。二人で視線を絡ませると、どちらからともなく唇同士が触れ合う。さながら決意表明か、運命共同体宣言のようだ。だが、そこに言葉は要らなかった。
セフィロスの唇は暖かった。オリビアが呼び出されてやって来た時よりも、顔色も表情もずっと穏やかだ。
夜の雰囲気がそうさせるのか、それとも恋心に酔っているのか。たとえ後者でも、オリビアはセフィロスの心が絶望の淵から這い上がった事を感じ取れればそれでよかった。そしてセフィロスもまた、オリビアが側にいればそれで満足していた。
セフィロスは視線をオリビアから携帯に移すと、それをわざと床に落とした。さらにブーツで思いきり踏みつける。見事に粉々になった携帯が──それは無機物だというのに──オリビアにはいやに生々しく見えた。
「オリビアは逃走を図ったソルジャー・クラス1stと遭遇。捕獲を試みるが失敗。戦闘の末、連絡用の端末はソルジャーによって破壊、その後の足取りは不明……こんなシナリオか」
「そうね。でも、感付かれそう。ツォンさんはわたしの気持ちを見抜いてるもの」
とはいえ、たとえ見透かされたとしても神羅に支給された携帯など持って行くわけにはいかなかった。電波を受信する限り、位置情報から通信履歴まで、行動の全てが筒抜けになってしまう。
携帯電話だった黒い物体に、セフィロスは火の魔法を放った。黒い煙を上げながら、黒いプラスチックが燃え始める。
携帯電話の残骸を燃やしながら、火はだんだんと強くなる。じわじわと燃える範囲を広げ、火は散乱した紙に燃え移った。あっという間に火は勢力を増して、もう炎と呼べるほどになっている。
幸い、この屋敷は村の外れに位置していて、集落からは少し離れていた。強風が吹いていた訳でもないし、延焼の可能性は低い。
セフィロスは、忌々しい彼の実験記録も、その実験に付き合わされていた幼少期に過ごしたこの屋敷も、全て燃えてしまえばいいと思った。それで事実が消えるわけではないが、記録は消える。そして、その記録は貴重かつ機密だったからこそ、この屋敷に保管されていた。この屋敷を資料ごと燃やすのは、セフィロスのささやかな神羅への報復である。
二人は連れ立って屋敷を出た。闇夜に紛れて人知れず、着の身着のまま、夜の散歩に出るかのように村を去る。二人はザックスにさえ何も知らせなかった。
2020/12/08
ラスボス化回避!単純!
なげやりになってるところへ愛の告白。落ちないわけないよね!←
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